◇179 星見山を登ろう
Q:どうして登らなければならないんですか?
A:衛星なんてものが無いからです
(by自己完結)
真っ暗な闇の中。巨大な黒い塊。
一応整備された登山道だけど、斜面は急。
周囲一帯を木々が生い茂り、頭上からの明かりを完全に遮断している。
つまり真っ暗でよく見えない。私達は小さなランタンの灯りを頼りに登った。
「結構暗いね」
「はぁはぁはぁはぁ……そう、だな」
ランタンを掲げ、辺りを照らす。
まるで明るくはならなくて、ぼんやりとしている。
このランタンの灯りもそろそろ限界が近いのかもしれない。
「Night、もっと明るいランタンないの?」
「はぁはぁはぁはぁ……ある訳が、はぁはぁ……ないだ……ろ」
息を切らしながら、Nightは答えた。
そっか。それじゃあ仕方が無い。
私は諦めると、Nightよりも十歩以上先を行く。
「本当に暗いよ。なにか出てきそう……」
私はモンスターが襲って来ないか不安だった。
登り始めて早くも三十分以上が経過。
一応モンスターには出遭っていないけど、いつ襲われるか分からないし、襲って来られても見えない。とっても嫌な状況だった。
「はぁはぁはぁはぁ……それは、モンスターの、一匹や、二匹、潜んで、いる、だろう、な……」
声を荒げ、途中で間を開けながら、Nightは答える。
私は振り返ると、ランタンを向けた。
全身から汗を流し、背中を丸め、膝が震えている。
正直、登山する人じゃない。休憩は必須だった。
「Night、無理しないで。ちょっとだけ休もうよ。ねっ」
私は当然のことを言った。けれどNightは「いや」と答える。
休憩を拒否すると、山の上を見る。
「この山は、標高八百メートルもある」
「うん。そんなに高くないよね?」
「私が昇れる確率は……計算したくないが、そんなに高くはない」
「嘘!?」
「事実だ」
Nightはとんでもないことを言った。
私はつい冗談だと思った。
何せ標高八百メートルで、かつ斜面は急だけど、一本道。道に迷う要素もないこの山を登り切れないなんて、そんな筈ないと思った。
もちろん私の思い込みだから悪いとは思うけど、流石に開いた口が閉まらない。
「お前、私を一般人と一緒にするなよ」
「いや、それはNightの体力が無いだけで……」
「うるさい。私は体力の代わりに、頭を使うんだ。それくらい諦めろ」
うーん、全然違う気がする。
私は遠い目をして、口を窄めた。
これ以上言っても無駄にNightの体力を削るだけ。
饒舌に舌が回っても、今は意味が無いって私でも分かる。
「私一人で頂上まで行ってもいいよ?」
「それは困るだろ」
「困るって?」
「お前、黒いシミの位置を全部記憶しているのか?」
「……あっ!」
私の提案はあまりにも独りよがりだった。
だけどそれが一番確実で、Nightも早く下山できる。
色々損はない気がしたけど、Nightは拒んだ。
その理由は太陽の古代遺跡。
中央の部屋の左右に部屋があった。
そこに描かれていた黒いシミ。アレの正確な位置を確かに私は覚えていないけど、Nightは全部正確に記憶しているらしい。
いやいや、それを聞いて私は絶句。まさか黒いシミの位置を全部記憶しているとは思わなかった。
流石の絶対記憶の持ち主。恐れ入る。
……あれ、ちょっと待って。私は瞬きをした。
「ってNight、なんで黒いシミが関係あるの?」
「あるに決まっているだろ」
「あ、あるに決まってるって……えっ?」
そんな決め付けはして欲しくなかった。
私は困ってしまうと、Nightの当然顔が気になる。
ピクピク眉根を寄せると、私は周囲を見回す。
そう言えばなんでこの山に来たんだろう。
まだ目的を訊いてなかった。
多分だけど、いや、絶対だけど、太陽の古代遺跡には関係ある筈。
もしなかったら……いや、止めておこう。
私は野暮すぎる話は忘れることにして、Nightに訊ねた。
本当に今更かもしれない。
「それよりNight、この山に来た目的って?」
「あの壁にあった、黒いシミの謎を解くためだ」
「黒いシミ? 天体図だね。でも、それとこれ、登山がどう関係するの?」
Nightのことだ。意味なくこの山に来る筈がない。
何せ自分に体力が無いことも承知。ましてや深夜集合。
絶対に理由はある筈で、案の定、例の遺跡の謎だった。
「簡単な話だ。ここ星見山が、あの壁に描かれていた天体図と合致した」
「ど、どうして?」
「その理由は知らないが、恐らくは近いからだろうな」
「近い……ああ、太陽の古代遺跡と」
私達が今居る場所。一応ダンジョンだけど、普通に登山ができる山。
名前は星見山。何処にでもありそうだけど、この山の名前の由来は、“星を見る山”だと思う。
“星”。つまり太陽の古代遺跡の壁に描かれていた黒いシミ。
その正体が本当に天体図なら、関係はありそう。
おまけに場所もそこまで離れていない。
確かにこの近くに、太陽の古代遺跡はあったかも? しれない。
「遺跡も、ここも、どちらも他の場所とは異なることがある」
「異なること?」
「そうだ。どちらも現実の時間とリンクしている。つまり、天体図の形が示しているのは、移り行く天体だ。それを踏まえれば、自然と候補は絞られるだろ」
太陽の古代遺跡と星見山。二つには共通点が他にあった。
それこそ、現実と時間がリンクしていること。
どちらも同じように時間の流れを感じていて、移り行く星も違う。
天体図が示しているのが、太陽の古代遺跡周辺の天体図なら、まず間違いなくヒントになるような場所が近くにある筈。その結果合致したのが、ここって訳。
そんな所まで調べてくれるなんて、やっぱりNightは頭脳の天才だ。
「凄い、やっぱりNight凄いよ」
「調べれば出るだろ」
「謙遜しすぎだよ。そっか、ありがとね、Night」
「ふ、ふん。褒められても仕方が無い。それより、早く登り切るぞ。ここまで来て、日の出を迎えられても困るからな」
私はNightを褒めた。とにかく褒めちぎった。
すると顔が真っ赤になり、耳の先まで赤い。
何だか可愛いし面白いけど、Nightは自分ができることはしてくれた。
おまけに急いでいるのも理由がある。
この星見山は現実と時間がリンクしている。
つまりこの山から見える朝日は現実と同じ。
急がないと星を見る前に、日が昇っちゃうから、頑張って登らないとダメだった。
「そうだね。それじゃあ……ん?」
「待て、アキラ。なにか、いるぞ」
「そ、うだね……アレは、なに?」
そうと決まれば急いで星見山を登ってしまおう。
そう意気込んだ私とNightの前に、違和感が待ち構える。
この先の道。その先で一際濃い、黒が蠢いている。
もちろん地面だけじゃない。タダの影じゃなくて、何かが地表にも姿を現わしている。
ユラユラと揺らめき、朧気なその姿は獰猛な獣。
そこまで大きくはないが、ハッキリと存在し、私とNightを見つめていた。
そんな気がしてしまい、私達の足は止まった。
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