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◇175 黒いシミ

シミなのか、カビなのか。

「これでどうだ?」

「……ダメっぽいよ」

「そうか。ならばこの角度ならどうだ?」

「……届いてないよ?」

「そうか……困るな」


 私達は鏡付き台座と格闘を続けていた。

 色んな向き、色んな角度を試しては見た。

 けれど全て失敗に終わってしまって、そもそも中央の部屋まで光が届かない。


「やはり、適したタイミングがあるんだろうか?」

「そうだと思うよ」

「とは言えな……クソッ、太陽が沈むのか」


 この特殊男女周囲のエリアは、現実の二十四時間とリンクしている。

 そのせいか、太陽はもうすぐ沈んでしまいそう。

 これ以上は時間を掛けていられない。物理的に試せなくなる。


「時間切れだな」


 Nightはポツリと呟く。

 もはやこれ以上やっても埒が明かない。

 鏡付き台座についてはまた今度ってことになった。


「ちなみにだが、“二つの”と書いてあったよな?」

「うん、そうだよ」

「ってことは、向こうの壁にも同じような部屋が存在しているってことだな?」


 Nightの着眼点は鋭かった。

 何も間違っていなくて、石碑には“二つ扉”って書いてあった。

 つまり、この部屋の規模とほとんど同じ広さの扉がある筈だ。


「ちょっと確認してみるわね。雷斬」

「はい、ベル」


 雷斬とベルは反対側の壁に向かう。

 そこにも同じような仕掛けが無いか、隈なく探す。

 すると何か見つけたのか、壁の一部を押し込んだ。


「ヤバッ、こっちにも穴がある」

「なるほどな。つまりそっち側の壁も……」


 しゃがみ込んで凹みを探す。

 雷斬はすぐに見つけたようで、指を引っ掛ける。

 力を込めて上に持ち上げると、壁はスルスルと持ち上がり、シャッターのように天井内部に引っ込んだ。


「皆さん、こちらにも部屋がありますよ!」

「おまけに鏡付きの台座もね」

「やはりか……」


 まさかの同じような構造の部屋だった。

 確かに鏡付きの台座がポツンと真ん中に置かれてはいる。

 けれど妙なことに、雷斬とベルはキョロキョロ視線を配っていた。


「どうしたの、二人共?」


 私が声を掛けると、ベルがなんとも言えない顔をする。

 今は見えないけれど、天井に収納された壁を見て思うことがあるらしい。


「ちょっと気になることがあるのよ」

「気になること?」

「ええ、そうよ。なんか、壁にあった穴? 向こうの壁と位置が違って見えたのよね」


 何やら気になることがあったらしい。

 そんなに大したことじゃないのか、ベルも不服そう。

 けれど私が訊ねたので答えてくれると、如何やら壁に空いていた穴の位置が違ったらしい。


 違ったと言うのは、多分だけど反対側の壁のこと。

 そこに空いていた穴の位置は少しだけ高めだった。

 それとは違っていたのなら、もしかすると少し低めなのかな?

 私は想像力を働かせると、もう一度訊ねる。


「それって、どういうこと?」

「分からないわよ。私に言われても」


 しかしベルも分からないらしい。当然だよね、ただ見ただけなんだから。

 だけどNightはそんな態度を許さない。

 許してくれないのか、ベルに追及していた。


「位置が違ったのか?」

「そうよ。ねっ、雷斬」

「はい。少しだけですが、低い部分に穴が開いていました」


 雷斬にバトンタッチした。

 すると雷斬は丁寧で的確。真面目に返答すると、私の予想通り。

 少し低い位置に穴が開いていたようで、Nightは考え込んでしまう。


「わざと穴の位置をズラしていた? つまりなにか意図を持たせている?」

「意図を持たせるって、具体的にはどうして?」

「例えば光の位置関係……太陽の向きを合わせろってことか? そうすれば、開くってことなのか? いや、それならもう試した。実際に試しては見たが、充分には届かなかったな……うーん、難しいな」


 Nightは考え込んでしまった。

 口元に手を当て、ジッと動かなくなる。

 まるで石像のように動かず、ブツブツと念仏を唱え続けていた。


「Night?」

「いや、仮に太陽の、日の出の時間を確認したとして……その時間の、朝焼けならなにか変わるのか? 例えば、光量が充分ではなかった。その可能性を考えれば、時間を少し変えてみれば……」

「あー、ダメっぽい?」


 Nightはブツブツ念仏を唱え続けている。

 結局私達の声は届いていないっぽい。

 頬を掻き、困ってしまった私達は、一旦Nightを置いておく。


 代わりに私達なりに調査をすることにした。

 もちろん、調査と言っても難しいことはできない。

 もっとよく観察してみること。それくらいしかできっこない。


「私達も見てみよ」

「そうね。それが効率的よ」


 ベルの同意を貰い、フェルノも雷斬も付いてくる。

 私達は部屋の中に入ると、それぞれ気になる点を見つける。

 やっぱり気になるのは目の前の壁。だけどその前に、私の脚は何故か天井の下に着く。

 如何してかは分からないけれど、見逃してはいけないものがあると、私は視線を上げた。


「どうしたの、アキラー?」

「うん。ちょっと気になっちゃって」

「気になっちゃったって、天窓―?」


 私はずっと天窓を見上げていた。

 沈み行く太陽の光が、赤々と映る。

 曲面のおかげでとても綺麗に反射していて、私はボーッとしてしまう。


 だけどただボーッとしている訳じゃない。

 何だか気になるものを見つけてしまった。

 あんなの有ったんだって、フェルノに聞いて貰う。


「うん。なんだかメモリみたいなの書いてない?」

「メモリ?」

「うーん、もしかして、あの線のことー?」

「うん。あの線、メモリっぽくない?」


 天窓には変な線が入っていた。

 まず十字線が中央に入っている。

 とっても薄いけど、光を頼りにすれば見える。


 その十字線を中心に、もっと細くて薄い線が入っていた。

 あまりにも均等に配置されている。

 間違いなく意味がある。細い線はイメージの中で一つだけ該当する。


 それがライフルのスコープ。

 昔お母さんが教えてくれた知識だ。

 何となくそのことが思い出されると、私はフェルノにも同意を求めた。


「まぁ、そう言われればー?」

「でも、仮にメモリだとして、なんの意味があるのかな?」


 結局の所、メモリだって分かっても意味が無い。

 だって、メモリを見つけても、なんのメモリか分からない。

 それよりも気になるのは別にある。そう、目の前の壁だ。


「この壁、絶対意味あるよね?」

「分かんあーい」

「分からないよね」


 フェルノはいつも通りだった。

 考えることを完全に放棄している。

 しかも最初からで、頭の上で腕を組んでいた。


 だけど絶対に意味があるのは確かだ。

 目の前の壁、黒いシミがたくさん付いている。

 何だか目が痛くなる猟で、一つ一つ、わざとのように黒いシミの大きさは違っていた。


「コレ、カビじゃないわよね?」

「カビ!?」


 それは流石に嫌だな。私は後退りをした。

 口がたどたどしくなると、ベルは「冗談よ」と呟く。

 それからNightのように堂々とはしていないけれど、壁にスッと近付く。


「このシミ、カビじゃないなら……」


 ベルには何か考えがあるらしい。

 一体何をするのかと見守ると、【風招き】を発動する。


「やっぱりカビじゃないわね」

「ベル、気を付けてください。風の力で胞子を巻き上がれば、どうなっていたことか……」


 ベルは指先に風を集める。

 本当に便利な好き理だなと思い、見守っていると、ベルは壁に指先を近付けた。

 すると壁に反射して空気が天井まで吹き上がると、カビじゃないことを明らかにする。


 だけど雷斬が怒るのも無理ない。

 カビは菌だ。胞子を巻き上げて、それが体に入ったら大変。

 例えアバター、プログラムの体でも、このリアリティに追及した世界だと、如何なることか容易に想像できた。


 そのことに気が付いていたベルは息を吐く。

 言われなくても分かっているって顔だ。

 だけど反省はしているのか、ベルは雷斬に言った。


「まあ、体には悪いわね。悪かったわ」

「謝っていただいて、ありがとうございます」

「雷斬、私に敬語、使わないでよ。気持ち悪い」

「そうですね。すみません、ベル」

「またいつもの癖で。本当気持ち悪い……で、肝心のNightさん?」


 雷斬とベルの親友ムーブを見届ける。

 何だか親友でしかできない話と、心のやり取りを見せられる。

 疎外感……のようなものじゃないけど、話には参加できない。

 そんな空気が漂う中、突然話を切り替えたベル。視線の先にはNightが立っていた。


「これだけ情報が集まれば、なにか見えるんでしょ?」

「お前な……」

「はい、私にお前って言うの禁止よ。で、、なにか分かったの?」


 ベルはNightを挑発した。

 あまりにも安い挑発だったから、当然Nightは乗らない。

 軽くあしらおうとするが、ベルはそんなNightを引き込む。


「はぁ……少しだけな」


 この状況で豪語するNight。それはあまりにも無謀だ。

 完全にベルの手のひらの上で踊らされている気しかしない。

 私はあたふたしてしまうものの、本気でNightは堂々としている。

 何が分かったんだろう。私は気になって、Nightと黒いシミを見比べた。あれ、なんで黒いシミを見ているんだろう? 私、自分が分からなかった。

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