◇169 //充電完了
完全に他人事、人任せ。
だがそれでいい。そう、人間らしい。
あれから二時間弱が経った。
私達はゲーム内時間の本当に二時間を過ごした。
それも仕方が無くて、なんとこの太陽の古代遺跡、シャンベリ―と全く同じ仕様。
現実の一日と全く同じ時間を進んでいた。
「頑張るわね、フェルノ」
「そうですね。大丈夫でしょうか?」
ベルと雷斬は心配していた。
フェルノはこの二時間を戦い抜いている。
ずっと同じ姿勢、体が痛そう。私達はそんなフェルノを讃えた。
「なんかオブジェみたいね」
「そうだな。逆に面白い」
「逆にが分からないけどね」
フェルノの姿が生きるオブジェになっていた。
私達四人、目を逸らすことなく見続けている。
ここまでやり続けたら逆に面白い気もした。
「なんだろう。大昔の人がやってそうな動きだよね」
「雨乞いとかか?」
「そうじゃないけど……あれ?」
フェルノは体を左右に動かしていた。
体の軸を腰に据えて、右に左に右往左往。
太陽の光を水晶に集める動きが、大昔の人が神様に祈りを捧げるような、不思議なダンスに見えて仕方が無かった。
「筋が消えた?」
「どうして? なんで水晶に光が……うわぁ!」
太陽から受け取った光が、筋の様になっていた。
けれどそれが途絶えてしまった。
完全に見えなくなってしまうと、私達は焦る。
まさかの失敗? そんな時間泥棒あり? と悩むものの、心配の必要が無かった。
「な、なにっ!?」
「分からないわ。でも前が見えない……」
「皆さん、目は大丈夫ですか」
「絶対に見るな。この光は全身を焼くぞ」
強烈な熱と光が襲い掛かった。
世界が一瞬でホワイトアウトしてしまう。
真っ白な光に包まれると、私達は視界を奪われてしまい、そこから五分間白亜の世界を生きた。
「ううっ……」
ようやく解放されると、視界がチカチカした。
目を擦って何とか視界を良好にしようとする。
全員とりあえずは無事。今のは一体何だったのか、私達はフェルノの元に向かった。
「フェルノ、大丈夫!」
「今の光、お前は無事だったか」
私とNightが声を掛けた。
するとフェルノは「えっ?」とバカっぽい声を出す。
「なんのことー?」とか言いそうで、状況がまるで分かっていない。
「どうしたのー、そんなに慌てて」
「慌ててって、今の光」
「光―? ああっ、眩しかったよねー。なんかさー、昭和の時代のさー、みんなが躍る所のクルクル回ってるボールみたいな感じだったよねー」
慌てて駆け寄った私達を前に、フェルノはポケーッとしていた。
全く話が通じず、寧ろ平行線を辿っている。
私達が受けた光による脅威も、フェルノにとってはダンスホールと変わらない。
あやふやな説明で記憶を呼び覚ますと、Nightは首を捻る。
「ミラーボールのことか?」
「ああ、それかもー」
「それかもって、アレとは比べ物にならない光量だっただろ。熱量も全身を焼き払う様だった」
確かに水晶はミラーボールの様な輝きを放っていた。
とは言え信じられないダメージを受けたのは事実。
HPもMPも大幅に削られると、心底滅入ってしまった。
「うーん。分かんなーい。だって私、水晶の真下にいたし―、<ファイアドレイク>だよー? 熱にはめっぽう強いからねー」
フェルノはどれだけ言っても分からなかった。
けれど決まっていたことだ。結局あの光は、水晶から溢れ出た光が周囲に降り注いだだけ。つまり水晶の真下にずっと居たフェルノには効かなかった。
おまけにフェルノは<ファイアドレイク>。炎や熱を味方に付ける、特殊な竜系の種族。
私達と同じようなダメージは全く無く、むしろピンピンしていた。
「うーん、面白かったー。疲れたけどー」
フェルノは首をグルグル回す。何か決まったのか、腕を振り下ろすと、何故か元気一杯だった。
アレだけの苦行を無事に乗り越えてこの態度だ。
本当に底なしの体力だと親友ながら思い知らされた。
「でさー、これでOK?」
「ああ、いいと思うぞ」
「あやふやね。もっと確証はないの?」
「ないな。それより、太陽の遺跡に戻るぞ」
全体的にあやふやで曖昧だった。
それも仕方が無く、誰も正しさが分かっていない。
そのせいか、とりあえず試すしかなかった。
まずは太陽の遺跡に戻ってみよう。
「おっしゃー。じゃあ行こう行こう」
水晶を米俵みたいに抱え込んだ。
だけど米俵よりは流石に軽い。
それでも楽々肩に担ぐと、太陽の遺跡へ全速力で走る。
「あれ、結構重そうよね?」
「そうですね。五キロ程度でしょうか?」
「五キロ……そんなもの持って走れるなんて」
「女子高生じゃないな」
雷斬曰く、あの水晶は五キロくらいの重さらしい。
如何計算したのかは分からないけど、Nightも否定しない。
つまり本当に五キロあるんだ。
正直そんなもの走れるなんて思いたくない。
だけどフェルノは現実で普段から鍛えている。
その賜物? かもと思ったけど、女子高生っぽさは皆無だった。
私達は太陽の古代遺跡に戻った。
まあ、目と鼻の先の距離だ。
一度歯車を嵌めたおかげで面倒な作業もなく、古代遺跡内部に入った。
「よーし。じゃあコレを嵌めるねー」
「いいかフェルノ、向きを考えろよ。後、外す方向とは逆に回せ」
早速水晶を戻そうとするフェルノに、Nightは忠告した。
まあ分からないでもないかも。フェルノなら最悪やりかねない。
ベルもコクコク首を縦に振ると、あまりにも心外だった。
「あはは、分かってるよー」
流石にフェルノもそこまでバカじゃない。
笑って否定するけれど、あまりにもバカっぽい。
Nightは不安になるが、水晶を抱えたフェルノは、脚立の段に足を掛けた。
「せーのっ!」
脚立に登ったフェルノは、水晶を凹凸部に嵌めた。
クルクル回して電球交換の様。
私はふと今っぽくない反応をすると、カチッの音で目が覚める。
「これでいいかなー?」
「いいんじゃないか?」
「適当だねー」
フェルノの問い掛けに、Nightは適当に返す。
仕方ないことだけど、Nightが確認したわけじゃない。
雷斬が抱っこしたら届きそうだけど、流石に恥ずかしくて嫌みたいだ。
「よいしょっと。さぁてと、光れ!」
フェルノは水晶から離れる。
脚立から飛び下りると、両手を広げた。
胸を貸す様に命じるも、声に反応しない。
もちろんそれだけじゃなくて、空気も静まり返っていた。
「……反応ないね」
「そうだな」
水晶に変化はなかった。
何か起きるのでは? ついに謎が解けるのでは?
期待を勝手に寄せていたけれど、何も起きない。
とは言えすぐに変化が起きると思っちゃダメだ。
私達はしばらく待ってみることにした。
そう、五分くらい待ってみたけど、何にも起きる気配がない。
「反応、無いね」
「ああ」
結局反応は無かった。
水晶がピカピカ光ることもなく、世界を白亜色に染めもしない。
詩人みたい感想を心の中で唱えるも、結局何も起きなかった。
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