◇168 充電中//
充電中……充電中……
「それでNight、あの水晶をどうしたらいいの?」
私はNightに訊ねた。
するとNightは淡々と言葉を返す。
「決まっているだろ。取り外すんだ」
「取り外すって、そんな簡単にできるの?」
「知らないな」
「知らないんだ……」
淡白すぎる回答のやり取りに、私は困惑する。
天井の水晶を取り外すとは言っても、本当に取れるかは分からない。
おまけに全然手が届かない。高さが足りなかった。
「えっと、結構高い位置にあるよ。Night、脚立とか出せないの?」
「もう出している」
「早っ!」
Nightはいつの間にか脚立を用意していた。
流石にこのサイズだ。インベントリには入らない。
容量を普通にオーバーしてしまいそうで、Nightも見越してか、あまり強度を上げていない。
「うーん、私の背丈じゃ届かないか」
脚立に登ったNightは自分の背丈を疎んだ。
身長は百四十センチ台。女の子の中ではまぁまぁ良いんじゃない。
だけどNightには悔しかったらしい。
「それじゃあ私がやるねー」
「フェルノ!?」
Nightが断念すると、脚立に登ったのはフェルノだった。
入れ替わる形で飛び乗ると、脚立が軋む。
強度に力を入れてはいないとはいえ、相当脆いのが窺えた。
「それじゃあ外すねー」
フェルノは手を伸ばした。
元気一杯、楽しそうで、水晶に手を預けた。
背丈は余裕で届いているけど、滑るのか、力が入り切らない。
「くっ!」
フェルノは顔色を顰めた。
頑張って引っ張ってみるけれど、全く取れない。
全身に力を入れるも、水晶はビクともしなかった。
「と、取れないよー」
フェルノは苦悶の表情を浮かべた。
その拍子に脚立から落っこちそうにも鳴る。
だけど凄まじい体幹で耐え抜くと、背中を丸めげんなりする。
「フェルノ、取れないの?」
「うん。引っ張っても全然取れないよー」
フェルノの馬鹿力でも取れなかった。
いや、水晶を外すことができなかった。
ムッとした顔をしてしまうと、Nightを睨む。
「Night-」
「私に言うな」
「でもこのままじゃ取れないよー」
フェルノはNightに頼った。
もちろん私達も視線を預ける。
期待を勝手に寄せてしまうと、面倒臭そうな態度を取った。
「だったら回してみろ」
「回す?」
「そうだ。昔の電球みたいに回してみろ」
……それはあんまりじゃないかな?
流石にそんな杜撰な仕掛けな訳がない。
今時電球なんて使う所、ほとんど無いと思うけど、それを踏襲しているとは信じたくはない。
「それで取れるの?」
「試してみる価値はあるだろ」
「試してみるって、引っ張って取れないなら回してみるってことでしょ?」
「正解だ」
「正解なんだ!」
あまりにも単純明快だった。
しかもそれを受けて、フェルノはもう一度やる気を出す。
水晶に手を伸ばすと、引っ張らずに回転させる。
「これで取れたらいいけど」
「そうだな。それが一番楽なんだが」
「うーん……あっ、外れたよー」
「「外れるの!?」かよ」
本島に回すのが正解だった。
クルクル電球方式で回してみると、簡単に外れる。
巨大な水晶を両手で抱えたフェルノは、「取ったぞー!」と両腕を掲げた。
「よかったね、フェルノ」
「うんうん。でさー、これどうするのー?」
確かに水晶は取ったけど、次は如何するのかな?
確か石碑に書かれていた文相があった筈だ。
思い出す前に、Nightは答える。
「全ては日輪の赴くがまま、天より注がれるは神が与えし福音なり。だな」
「ん?」
「欲しいのは太陽の光だ。外に出るぞ」
あまりにも答えまでが速すぎた。
私達が考える暇もない。
脚立を放置し先に遺跡の外へと向かうと、私達も追い掛ける。
「ま、待ってよ、Night!」
「待ってられるか」
「なんで? 急ぐ必要があるの?」
「あるに決まっているだろ」
急ぐ必要があったんだ。全然知らなかった。
もしかして現実の方が立て込んでいるのかな?
そう思って言葉を噤んだ私だけど、外に出た瞬間、Nightは顔色を変える。
「マズいな、太陽が傾き始めた」
「えっ!? 太陽が傾くって……」
私達が欲しいのは太陽の光だ。
水晶と太陽の光。どっちも大切らしい。
それが片方傾き始めると、それだけでタイムロスだった。
「それじゃあこっちの日がズレるのを待てばいいんじゃないの?」
「いや、そうもいかない」
「どうしてよ?」
ベルが当たり前のことを言った。
この世界では現実の一日で三日は経ってしまう。
それを利用すれば、簡単に太陽の光を集められる気がしたのだ。
「アキラは覚えているな。シャンベリ―のこと」
「うん、覚えてるよ」
「あの場所は、現実で夜にならないと立ち入ることができないダンジョンだった。ここも時間経過が存在するダンジョンだとすればどうだ?」
だけどそう上手くは行かない。
前にも私とNightは経験している。
だって、シャンベリ―は実際に夜じゃないと入れなかった。
きっとここはシャンベリ―と同じ。その可能性があるから、太陽がゆっくり動いていた。
「どうだって……それじゃあ急がないと」
「そう言うことだ。フェルノ、こっち来い」
「はーい」
Nightは善は急げと、フェルノを呼び付ける。
太陽の遺跡の外、開けた場所がわざとの様に用意されている。
空を見れば、全く影がない。きっと太陽の光を集められるようにしてくれていた。
「水晶は持っているな」
「うん、持ってるよー」
フェルノは水晶を抱える。
両手で落とさないように抱きかかえると、安心したNightは続けた。
「その水晶を頭の上、太陽の方に向けろ」
「こういうこと?」
フェルノは水晶を掲げた。太陽の方に向けて尖った部分が向く。
すると不思議なことが起こった。
水晶が煌めき出すと、太陽から一本の光の筋が届く。
ピッカーン!
「うわっ、眩しい!」
「コレが水晶に光を集めると言うことだ」
「そっかー。仕方ないなー」
「仕方ないで済ませられるんだな」
フェルノは一瞬で慣れてしまった。
その様子にNightは眉間に皺を集める。
「あっ、でもちょっと重いかも?」
「後、熱もあるだろ」
「うーん、それは大丈夫かなー。っと」
光の筋が横に逸れた。
太陽だって動いているんだ。仕方が無い。
頑張って合わせるフェルノは、キツい体勢を維持する。
「これ、結構大変だねー
「出も行けるか?」
「うん、大丈夫―」
まだまだフェルノは余裕そう。
体力的に有り余っているのか、顔色も頗るいい。
その姿に安心したNightはフェルノの肩を撫でた。
「それじゃあ私は少し休むぞ」
「OK。任せてよ」
「任せたぞ」
Nightはフェルノに指示を出し終えた。
とりあえずやるべきことはこれだけでいいらしい。
一旦フェルノから離れると、何故か私達の方へ向かう。
「さてと……」
「あれ、付き添ってあげなくてもいいの?」
Nightはフェルノに指示を出すと、すんなり戻って来た。
私は意外に思って声を掛けた。
だけどNightは背中を曲げている。疲れているらしい。
「私だって疲れるんだ」
「うん、それは知ってるよ」
「だったら訊くな」
ムッとした顔をしたNight。何だか可愛い。
私はふと笑みを浮かべてしまうと、みんなで太陽の古代遺跡を背にする。
背中を預けて座ると、丁度小さな段差があったので、椅子代わりに座った。
「そう言えばNight、コレって長期戦?」
「だろうな」
「そっか。フェルノ、大丈夫かな?」
「問題無いだろ。アイツはパッションモンスターだ。体力とやる気なら無限にある」
フェルノが疲れちゃわないか心配した。
だけど私が一番よく知っている。
フェルノはパッションの塊だ。きっと文句は言いつつも、楽しんでくれる。
「ねぇNight-」
「なんだ、フェルノ」
「これ、いつまで続けるのー?」
フェルノの体勢はそこまで辛そうじゃない。
だけど長時間は覚悟しているのか、Nightにおおよその時間を訊ねた。
「そうだな。丑の八つとか書いてあったな」
「丑の八つ?」
“丑の八つ”確かにそう書かれてはいた。
けれど実際、アレがどれだけの時間を指しているのか、私は知らない。
もちろんフェルノも知らなくて、全身でハテナを作った。
「そう言えばアレ、どういう意味だったの?」
「アレか? アレはな……」
Nightが頬杖を突きながら説明してくれそうだ。
けれど間を割って入ったのはまさかの雷斬だった。
「丑の八つと言うのは、あくまでも解り難い表現をしているだけですよ」
「そうなの?」
「はい。正確には……」
「丑の刻。つまりは午前一時から三時までの二時間の間を指す言葉よ」
言葉を継ぎ足したのはベルだった。
丑の刻。聞いたことがある。怪談だと有名な話だ。
だけどこれは時間を表しているだけ。変な話でも何でもない。
そうと知ったら、確かに難しく考えすぎていたかもしれない。
「つまり二時間ってこと?」
「そう言うことだ。雷斬、ベル、よく知っていたな」
「「昔、教わったので」からよ」
共通の知り合いから聞かされていたらしい。
何となく納得すると、私は口元に手を当てた。
メガホンの様に使って声を届けた。
「フェルノ、後二時間だよ。頑張ってー!」
「二時間―?」
「そう、二時間―。頑張ってねー、無理はしないでねー」
「どっちなんだ、お前は」
Nightにツッコまれてしまった。
私も自分で言っておいて変だと思ったけど、今更取り返せない。
フェルノに無茶を強いてしまったけれど、本人は余裕そう。代わってあげてればいいけれど、このまま任せることにした。頑張って、フェルノ。
「むーん、難しいよー」
当たり前のことだけど、太陽は動いている。
フェルノはとても大変そうだ。
だけどコレをやり遂げないと先には進めない。充電って大変だ。
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