◇166 太陽の古代遺跡
カッコ良くない? ”太陽の古代遺跡”だよ!
バリアの先の景色は……特に変わらなかった。
相変わらず木々が生え、林が続いているだけ。
何の面白みもないのだが、ベルは空気の変化を敏感に感じていた。
「空気が変わったわよ」
「本当ですか?」
「私が間違える筈ないでしょ」
よっぽどの自信があるらしい。
確かにベルの種族スキル、【風招き】は<シルフィード>の中でも、ベルに突出している。
それだけAIが自答的に算出して、ベルに合わせてくれたんだ。間違える訳がない。
「どんなふうに変わったの?」
「この場所、ちょっと温かいのよ」
「温かい? そんなことまで分かるのか?」
「もちろんよ。風に熱が含まれているもの」
ベルにしか分からない話だった。
私達はポカンとしてしまい、とりあえずこの林が今までと違うとだけ認識する。
もちろんそれでなに? って話だけど、きっとこの先に待っている筈だ。
「ふんふふーん」
「楽しそうですね、フェルノさん」
「うんうん。この先に遺跡があるんでしょー、楽しみだなー」
フェルノに問い掛けた雷斬。案の定の返答が返る。
もちろん、この先に遺跡があるとは確定していない。
だけど何か待っている筈。私達は心が逸った。
「ん?」
「どうしたの、Night」
何故かピタッと足を止めるNight。
私は隣に立つと、Nightに訊ねる。
視線が一切動かないでいると、双眼鏡を取り出す。
「どうしたの、Night?」
「なにか見えるのー?」
私とフェルノが声を掛ける。
Nightは黙ったまま、双眼鏡フォーカスを合わせるように、突起をクルクル回す。
真剣に視界を見続けると、ハッと顔を上げた。
「見つけたぞ」
「「見つけた?」」
「一体なにが見つかったのよ」
「決まっているだろ。行くぞ」
私達が呼び掛けると、Nightは早速行動に移る。
物は試しとばかりに、行動で目的を示した。
突然走り出すと、私達は追い掛ける。もちろん容易く追い付いた。
「Night、急に走り出してどうしたの?」
「はぁはぁはぁはぁ……」
まさかの短距離で息を上げている。
肩で呼吸していて辛そう。
私は支えようかと思ったけど、Nightは口を悪くする。
「そんなことより前を見ろ」
「前?」
「そうだ、前だ。ようやく見つけた、まさかこんな近くにあるとな」
疲れ果てるNightに促され、私達は視線を上げる。
ジッと視線を飛ばした先で見つけたものに、私は息を飲んでしまった。
「えっ、嘘?」
「嘘だぁー!」
「コレは、壮観ですね」
「本当、まさかこんなものはあるのに、林の外からが見えないなんて……」
確かにこれだけ大きかったら、林の外から屋根くらい見えてもよかった。
だけど全く見えなかったのは、あのバリアのおかげ。
私達プレイヤーの好奇心を刺激するためだ。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
「コレは凄いな」
目の前には巨大な建造物がある。所謂遺跡って奴だ。
その迫力に気圧されると、私達は壮大な気持ちになる。
「立派な遺跡ですね」
「そうね。コレが目的地?」
「そうだな。正確には太陽の古代遺跡と言うらしい」
「「太陽の古代遺跡?」」
誰が何と言おうと、立派な建造物だ。かなり作りこまれていて、見るものを見張る。
作りも造りもどちらもさることながら、何より隠されていたのがいい。
冒険って感じと、秘境って感じが一変にやって来ると、相性もさることながら、全体的に伯が付いた。
「いい名前ね。ちなみに何所情報?」
「ネットの掲示板だな」
「あー、まあいいんじゃない?」
正確な名前ではないと思う。
ベルは納得したのか、唇を歪めている。
だけどこれ以上に無いカッコ良くてシンプルな名前で、私達も太陽の古代遺跡と呼ぶことにした。
「ねぇねぇ、どのくらい古いのかな?」
「設定的な話か? それなら情報がないぞ」
「夢ないなー。もっと客観的にだよー」
「お前の口からその言葉が出ることが意外だが……そうだな。実際、何千年も前の代物だろうな」
確かにフェルノっぽくない知的な発言だった。
私もNightと同意見で、フェルノには心外だって思われても無理ない。
だけど当の本人は気付いていない。それを見逃さず、Nightは話をすり替えた。
「もちろん、私も精通している訳ではない。必ずしも正しいことは言えないが、見た目的には少なくとも三千年は経っているだろうな」
「そんなに!?」
「ああ。所々に風化した後があり、色合いもかなり落ちている。実際、細かな装飾なんかも当時の道具、例えば鋭い石片で削ったような荒々しさがあるな。面白い、よく作りこまれているグラフィックだ」
かなりメタ的な発言をした。
だけど実際ここはゲームの中、作り物だ。
それでも本物そっくり? で、私達を楽しませてくれる。
「とは言え問題は……」
「扉だな」
けれどNightもベルも見逃さない部分があった。
それは古代遺跡の扉。天井が付いており、その奥にヒッソリと扉が設置されている。
何となくだけどここしか入口は無さそう。とは言え、気掛かりは私にも分かった。
「随分と新しいように見えますが」
「そうだな。素材自体は当時のものだろうが、手が加えられている。なにより気になるのは」
「明らかになにか嵌りそうだよね。歯車みたいな彫があるよ」
雷斬の指摘を受け、Nightは軽く扉を見る。
素材は当時のもの、だけど色々と細工が施されている。
よく観察して確認を取ると、扉の中央部分。丁度腕が届く位置に、丸い窪みがあった。
「歯車か。ん? よく見てみろ、ここに太陽の模様が描かれているぞ」
「「「えっ!?」」」
私達は驚いてしまった。
確かに丸い窪みの形は歯車のようで、何か嵌りそう。
だけど今私が持っている歯車とは別のものかと思ったら、普通に太陽の模様が描かれていた。
そんなの誰が何と言おうと確定だ。
「なによそれ、確定じゃない」
「そうだな。アキラ、歯車を嵌め込んでみろ」
「う、うん」
私は促されるままに扉に近付く。
改めて確認すると、扉には太陽の模様が描かれている。
歯車に描かれた模様とまるで同じ。ここでもう一段階面倒なことが待っていると思ったが、そんな意地悪じゃないらしく、私は歯車を扉の窪みに収める。
「嵌めてはみたけど……」
「なにも起きないよー?」
「そんなことは無い。恐らく錆付いているだけの可能性が……」
歯車を扉に嵌め込んでみた。
存在していた凹みを生めてみたはいいものの、まるで変化がない。
Nightは表情を顰め、扉の調査をする。指が隙間に触れ、錆ていないこと、カビが侵食していないことを確かめる。
「うーん、流石に強引にこじ開ける訳には……おっ!」
「「動いた!」-!」
Nightが一歩下がった。
同時になんの前触れもなく扉が軋みを上げる、
ガタガタと震え出すと、扉はゆっくり開く。
「やったやった。やっと入れるー」
「油断するなよ、フェルノ」
「えっ?」
「開いた瞬間に攻撃的な仕掛けが作動するかもしれない。用心しろ」
確かに扉が開いた瞬間に飛び出してくる罠があるかもしれない。
仕掛けを加味した私達は距離を取る。
薄っすらとした扉の奥が垣間見えると、暗がりが広がる。けれど罠が作動するような気配はなく、数秒程度の間が開く。
「なにも起きないね」
「らしいな。とりあえず一安心か」
Nightと話して安心した。
ベルが弓を構え、矢を射る動作をしてみる。
けれど何も起きない。やはり何も無いらしい。
「本当に罠は無いのね」
「拍子抜けですか?」
「そんな訳ないでしょ? でも、アッサリしてるわよね」
ベルの言う通り、盛り上がりみたいなものは無かった。
おまけに距離も取りすぎた可能性がある。これじゃあ何か起きても分からない。
私達は開いた扉を前にしている。流石にジッとしている訳にもいかないから、一応声を掛けた。
「ねぇ、開いたけど、どうするの?」
「どうするもなにもないだろ」
「だよね」
ここまで来た以上、一応下見程度はしておく。
二回目もすんなり来られるとは思えない。
できれば今日中に探索してしまいたいと、私の心が逸る中、先に突き進んだのは案の定フェルノだった。
「よーし、行ってみよう―」
「そこはフェルノが先陣を切るんだな」
「あはは、まあいいよ。いつものことだから」
「そうよね。フェルノだもの」
「ですね。ですが気を付けてくださいね、フェルノさん」
「OK。んじゃ行ってみよー」
全く効く耳を持たなかった。
フェルノは警戒心〇で遺跡の中に入る。
太陽の古代遺跡。これだけ隠されていたんだ。きっと仲も安全じゃないと思うから、私達は息を飲んだ。
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