◇163 月の名を冠す林
十五キロ、歩けますか?
「やっと着いたね」
「はぁはぁはぁはぁ……長かったな」
私達は三十キロの道のりをやって来た。
途中までは馬車を借りて進んだ。
けれどそれも十五キロほど。残りは徒歩だった。
正直時間は相当かかった。
もちろんNightのペースに合わせたからだ。
全身から汗を流し、今にも死んでしまいそうなNightを横目に据える。
「あはは、大丈夫―、Night?」
「触れるな! 触れると吐く」
「あはは、面白-い!」
「面白く……ない」
「ぜぇぜぇ」と息を荒くしているNight。
フェルノは面白がってちょっかいを掛けようとする。
だけどNightは本気で苦しそうで今にも吐きそう。
それさえ面白いと捉えるフェルノの神経が凄まじいが、流石に声だけは掛けておく。
「でも着いたよ、Night」
「そうだな。ここが……」
「ゲッテツ林ね」
「はい」
私達はついにゲッテツ林に辿り着いた。
この林の名前の由来は月と鉄と林から来ているらしい。
けれど何処が月で何処が鉄なのかまるで分からない。
ポカンとしてしまうも、この林が古代林であることだけは確かだった。
「ねぇ、Night。古代林ってことは、この間みたいな……」
「メガビブラートはいるかもしれないな」
「うわぁ……雷斬!?」
Nightの言葉へ過敏に反応してしまった。
視線がすぐさま移ると、雷斬が固まっている。
全身が硬直してしまうと、ベルがツンツン指で突いた。
「おーい、雷斬。しっかりしなさーい」
「あっ、は、はい……大丈夫、ですよね……です、よね?」
「あっ、これはダメね。アキラ、雷斬は戦闘不能よ」
「みたいだね……あはは」
乾いた笑いを浮かべてしまった。
雷斬は完全に動けなくなっている。
もはや生きた石像で、雷斬は完全に戦闘不能だった。
「どのみち森の中だ。虫はいるだろ」
「ちょっと、余計なこと言わないでよ!」
「余計なことだと? 悪いな」
Nightの心無い一言が飛び出した。
ベルは素早く反応すると、Nightを咎める。
一体何か分かってなかったけど、雷斬の姿を見て反省した。
「とにかく、行くしかないぞ」
だけどそこからの割り切りが早かった。
結局ここまで来たからには行くしかない。行ってみないと分からない。
私は腕をグルンと回すと、「はぁ」と息を吐いた。
「でさー、この森の中にあるの?」
「そうだな。可能性は高いだろうな」
「可能性って……ガセネタを信じたんでしょ?」
「ガセと決め付けるのは早いだろ」
未だに本当か如何か分からない。ベルは未だ疑っている。
だけどNightもその辺りは弁えていた。疑って掛かるのは悪いことじゃない
私も同意見だけど、恥ずかしいから言えない。
(本当にあるのかな、古代遺跡なんて?)
「さてと、そろそろ行くか」
「えっ、もう行くの?」
「当り前だろ。こんな所で突っ立っていても、なにも始まらない」
しばらく遠目でゲッテツ林を見ていた。
けれどNightは動き出す。
確かにこのまま突っ立っていても、進展はしない。だけど問題もあった。
しかも大きな問題で、解決するのは大変そうだ。
「でも雷斬が……」
「雷斬、受取れ」
このままだと雷斬林に近付けない。
近付けてもそれは無理をしているのと同じ。
そんなんじゃ意味が無い。私はそう思うと、Nightは何かを雷斬に投げ渡す。
「おっと。Nightさん、これは?」
「虫除けスプレーだ。それを撒いておけば、虫は近付いて来ない」
雷斬は素早く受け取った。如何やらプラスチック製の筒らしい。
一体何? そう思うと、中身は虫除けスプレーらしい。
前に雷斬が使っていたものとは違うみたいで、しかも効力は高め。
そんなものが売っているなんて知らなかった。
「凄い。そんなもの売ってるんだ」
「私が作った」
「えっ!?」
「安心しろ。成分は自然由来のものだ。体に害はない」
まさかのNightの手作りだった。
こんなものまで作れるなんて、知識が無いと無理。
いや、Nightだからできるのかも。それだけ頭がいいって知っている。
それにしても最初から虫除けスプレーを用意していたなんて。
初めから雷斬に渡すつもりだったとしか思えない。
ちょっと意地悪なことをするなと思ったけど、それはさておきだ。
これならソウラさん達〈《Deep Sky》〉に売ってもいいかも。きっと高値で買い取ってくれる。
私はそう思ったけれど、流石に大量生産は厳しいかも。
そう思うと、私は断念した。否、そもそも思っていなかった。
「ねぇNight-。私達には?」
「必要ないだろ」
「ちょっと、勝手に決めつけないでよ!」
「そうだよ、Night。私達だって女の子だよ?」
「……私もなんだが?」
虫除けスプレーは一つしか用意できなかったらしい。
しかも少量しか用意できなかったらしい。
だから私達の分は無いみたいで、ちょっと残念だ。
「素材が入ったらまた作ってやる。今はとにかく行くぞ」
「「「はーい」」」
落ち込んだって仕方が無い。
私達はゲッテツ林に向かう。
その足取りは軽くも無ければ、重くも無くて、私達はゲッテツ林の古代遺跡を探しに向かった。
私達はゲッテツ林を歩いていた。
まばらに生えた見たこともない針葉樹。
私達は視線をキョロキョロさせて、興味津々に歩いていた。
いや、そうでもしないといつ襲われるか分からないからなんだけどね。
「明るいね、この森」
「森じゃなくて、林だがな」
「あっ、そっか」
正直、林と森の明確な違い何てほとんど覚えてない。
私達は歩き回って観察すると、Nightはポツリ呟く。
「しかしアレだな。この林は不思議だ」
「不思議?」
一体何が不思議なんだろう?
私は首を捻ってしまうが、確かに変な部分はある。
ここまでモンスターに出遭わない。あまりにも静かで気持ちが悪い。
「ねぇ、モンスターはいないのかな?」
「確かにー」
「そうですね。モンスターの気配は感じられませんね」
ここまでモンスターの影も形も見ていない。
明らかに不気味で、静かすぎる。
鳥の囀りもない、虫の羽音も聞こえない。
敵意のようなものが感じられなくはないけれど、何かしてくるような感覚が無かった。
「それも確かにあるにはあるが、もっと単純ではない部分だ」
「他にもあるってこと?」
「そうだ。なにより空気だな」
おかしなことを言い始めた。空気って一体何の事だろう?
私は首を捻ってしまうと、Nightだけではない。ベルも違和感を覚える。
「そうよね。なんだか変な感じがすると思ったわ」
「ベル?」
ベルは【風招き】を使った。クルクルと指先で渦ができる。
風を集め、小さな竜巻を作るなんて凄い。
私は言葉を失うと、ベルは口走る。
「この森の空気、温かくて冷たいのよ」
「ん?」
「なにそれー」
私もフェルノも訳が分からなかった。
それでもベルの言いたいことは少しだけ分かる気もする。
古代林だからなのか、単に人の出入りが少ないせいか、独特の雰囲気を持っている。
下手なことをしたら飲み込まれてしまいそう。謎が謎だけ取り残されていた。
「私が一番気になってるのよ。絶対にろくでもないものがあるわ」
「ろくでもないものって?」
「自然を乱すなにかってことよ」
「はたまた影響力の強いものかもしれないな」
何だか聞いただけで怖くなってきた。
だけど林の中を歩いて早十分。まだ成果が出ていない。
とりあえず古代遺跡の姿だけでも見つけないとダメだ。逸る気持ちを抑えると、私達は更に奥へと進んだ。異様な空気に溶け込むように、黒い瞳が私達を観察していることにまるで気が付かずに。
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