◇154 もしかして落とし穴?
人類が発明した罠、落とし穴の出番だ!
私達は荒野を歩き回っていた。
ここまで大体三十分ほど、ほぼ無言。
おまけに成果が出ていない。タンクライノスの姿がない。
「Night、一体何処に向かってるの?」
「何所でもない」
「はい?」
まさかの返しだった。
いつもはあんなに隈なく考える筈のNightが思考を放棄している。
そんなのNightらしくない。と思ったのは、私だけじゃなかった。
「どういうことよ、Night。いつもみたいに偉そうなこと言わないの?」
「言う訳が無いだろ」
「あっ、最初から戦うことを放棄してるわね」
もはや口喧嘩の舞台にも上がっていない。
いくら罵っても調子に乗らない。
これはダメだ。戦うことを放棄しているというより、戦う意思がない。
完全にスマートなやり方に切り替えしている。
「調子が狂うわね」
「そんな気負いするな」
「気負いなんてしてないわよ。それで、なに企んでるの?」
ベルは追及を忘れない。
するとNightは憶測でものを言った。
「私もタンクライノスに付いての情報は片手程しか集まっていない。なんと言ってもレアなモンスターだからな」
今回の相手、タンクライノスは非常に好戦的。
一度視界に捉えた相手は何処までも追い続ける。
だけど動き自体や本能に忠実な側面。その辺りの内面的な行動については多く情報が集まっていた。
それでも片手程。
何しろ目撃例が少ない。
そのせいか、ネットの広大な海に潜っても、有益な情報はなかなか見つからない。
それがNightの思考を乱した。
「それじゃあ外見の情報はほとんど無いって訳?」
「そんなこともない。タンクライノス、ある程度の形の想像は付くだろ」
確かにタンクライノスなんて名前、想像しやすい。
如何想像しやすいのか。
簡単だ。戦車でサイなんて組み合わせは二つだけ。
一つは下が戦車で、上がサイ。
サイの角に戦車のキャタピラ。
可愛くは無いけど、カッコいいかも?
もう一つは最悪のパターン。
下がサイで、上が戦車。
強そうだけど何だか気持ち悪い。私は顔色を歪めた。
「戦車でサイ……だよね」
「そうだ。想像できるパターンは二種類が精々、分かってるな?」
もちろん分かっている。
だけどどっちのパターンだとしても、私は下が戦車の方がいい。
頭の中の靄を切り払うと、コクンと首を縦に振る。
「そのどちらにも有効そうな仕掛け……つまりは罠を用意する」
「そんなことできるのー?」
「できるかじゃない。やるんだ」
凄くカッコいい。
主人公って言うよりも主人公の先輩ポジションの台詞だ。
私は感嘆とするが、Nightは目を見開いて声を上げた。
「おっ!」
目の前が急に開けた。
空が見える。地面がない。
一体どういうこと? そう思うけど、Nightは小走りすると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「いいものを見つけたぞ」
「いいもの? 低いね」
私は眼下を覗き込み。
するとそこまでの高さはない。
拍子抜けしてしまう私に、Nightは答える。
「これだけの段差があれば使えるな」
「使えるって?」
「もちろん罠にだ」
私達の目の前には段差があった。
大体一メートルくらいかな?
軽く跳び越えられそうで、罠に使えるとか分からない。
「Nightさん、本当にここを使われるのですか?」
「不満か?」
「いえ。ただ、これほどの段差では脅威には……」
「脅威になるかならないかじゃない。脅威にするんだ」
メチャメチャカッコいい言葉だった。
確かに思い込ませることが大事。
ちょっと意味が違うかもしれないけど、催眠術とかそうだ。
後はマジックとかもそれっぽいかも? とにかく思い込ませることで、効果を発揮する。
「って、意味違うんじゃないかな?」
「お前、催眠術やマジックとは違うぞ」
「なんで分かるの!?」
「むしろどうしてそこまで飛躍させた」
完全に読み当てられてしまった。
否、多分Night的には色々と私の仕草を観察したんだ。
複数の想像を同時に働かせて私の思考を暴いた。
うわぁ、ちょっと怖いかも。とは、私は言えない。
「って、対比したアキラが怖いわよ」
ベルにグサリと刺さる言葉を言われた。
流石に傷付く。私は落ち込んでしまう。
まあ確かに飛躍はし過ぎたかも。これは反省ものだ。
「さてと、状態も把握した。充分だ」
Nightはしゃがみ込んで地面を叩く。
するとボロボロと崩れてしまう。
かなり脆い。特にこの辺りはそれが顕著だ。
「よし、それじゃあ始めるぞ」
「始める? 一体なにをするの」
Nightは段差を跳び越える。
一瞬足がグニャリ掛けていたけど何とか耐える。
それから私達に振り返ると、疑問に答えてくれた。
「決まっているだろ。それっ、受取れ」
「うわぁ!? ってシャベル?」
突然渡されたのはシャベルだった。
全員分行き渡ると、堂々とした口調を取る。
「今からここを掘るぞ」
「ほ、掘るって?」
「一体なにする気よ」
私とベルはもちろん首を捻る。
けれどNightは眉間に皺を寄せた。
「分からないのか?」とか今にも言いそう。
「なにをする気だと? 決まっている、コレは罠だ」
「「罠?」」
「そうだ、深い穴を掘る。それが今回の罠だ」
あまりにも自然な流れだった。
この段差を利用して、罠を作るってこと?
だけどそれって落とし穴じゃ……なんてことを思う前に、Nightはニヤリと笑ってしまった。
「よいしょよいしょ!」
「もっと深くだ」
「はーい」
フェルノが一生懸命掘っている。
もちろん私達も頑張っていた。
だけど一人、Nightに対してイラっとする。
「Nightも手伝ってよ」
「私が手伝って、なんの足しになるんだ?」
Nightは一切手伝ってくれない。
ましてやサボっているっていうよりも、グチグチ指示だけしてくる。
しかも自分が体力が無いことを分かった上でだ。
なんだろう、正直納得はできない。
「そうだとしても手伝ってよ」
「ふーん、仕方が無いな」
傾斜を滑り降りるNight。
羽織るマントに土が付く。
もちろんそれだけじゃない。フラリと倒れそうになってしまった。
「おっとっと……」
「あっ、Night!?」
私はNightを支える。
ただ傾斜を滑り降りただけなのに、こんなにフラつくなんて……。
体幹が弱いのかな? それとも疲れが溜まっているのかな?
ここまでの移動でかなり発汗していた。
「大丈夫、Night?」
「ああ、大丈夫だ。さて、手伝うか」
インベントリからシャベルを取り出した。
Nightはシャベルを地面に突き刺す。
すると腕に激痛が走り、険しい顔をした。
「大丈夫、Night? 硬い石でもあったの?」
「いや、無かったが……」
私は地面を見た。確かに石は埋まっていない。
つまりただ単に硬い土をショベルが貫いただけ。
否、弾かれただけだ。
「本当だ、なにも無い」
「はぁ。私の体力と筋力の無さには絶望するしかないな」
ステータスが-になることもある。
もしかすると、今のNight……なんて野暮なことは考えない。
だからここは意識を切り替える。
「あはは、Nightも気落ちしないで頑張ろうね」
「そうだな。私は私ができることをする」
「よーし、みんなもう少しだけ頑張るよ!」
「「「おー!!」」はぁー」」
私の号令にみんな応えてくれた。
フェルノと雷斬は黙々と作業を続ける。
対してNightとベルは溜息を付いた。
正味意味を考えだしている。
けれどそんなこと言っていられない。
ここまで来たんだ。目標まで掘るしかない。
そう、私達の目標は……深さ十メートルだ。
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