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150/180

◇150 形無いもの

キリよく終わらせました。

「はぁ」


 私はつい溜息をついてしまった。

 それもその筈で、この間のレジャーが白紙になった。

 そのせいか、報酬が貰えなかった。

 あんな経験をしたのに、なんだか残念だ。


「はぁ」

「溜息なんて、お前らしくないぞ」


 そんな中、椅子に腰掛けたNightが私を慰めてくれた。

 その傍らで、文庫本を読んでいる。

 ペラペラとページを捲る音が心地よい。


「Nightは悔しくないの?」

「悔しい? なにがだ」

「なにがって……だって」


 私はこの間のことを思い起こす。

 ギルド会館に行った際、ミーNaさんがペコリと深々とお辞儀をしたのだ。




 私はギルド会館に呼ばれていた。

 なんで私だけが呼ばれたんだろう?

 色々と腑に落ちないけど、とりあえず来てみた。


「えっと、ミーNaさんは……あっ、手招きしてる」


 ギルド会館にやって来た私。

 するとカウンターの奥の方で、ミーNaさんが手招きしている。

 確実に私を呼んでいて、人目を気にしながら、私はミーNaさんに会いに行く。


「こんにちは、ミーNaさん」

「はい、こんにちはですね。アキラさん」


 ミーNaさんはいつも通り……じゃなかった。

 何故か人目を気にしている。

 それから私と目を合わせようとしてくれない。

 確実に、後ろめたさを感じている。


「あの、ミーNaさん?」

「すみませんでした!」


 まず早速頭を下げられた。

 突然のことに私は動揺する。


「ちょっと待ってください、ミーNaさん。なんで頭を下げるんですか?」

「アキラさんは薄々勘付いていると思いますが……」

「あの、報酬貰ってないですよね?」

「ぐはっ!」


 ミーNaさんは私の言葉に悲鳴を上げる。

 今にも血を吐き出してしまいそうになる。

 顔を上げることができなくなるも、報酬を貰っていないのは本当だ。


 私としてはてっきり、報酬が貰えるのかと思っていた。

 だけどこの雰囲気は真逆。

 こんなの顔色を窺わなくても、想像しなくても、意識を切り替えなくても答えは明らかだ。


「申し訳ございませんでした。今回のレジャー、様々な要因が重なってしまい、白紙に戻ってしまいました」

「は、白紙ですか? ……白紙!?」

「はい。ですので報酬を支払うことができません。本当に申し訳ございませんでした」


 最悪なことが起こった。

 あんなに苦労したのに、それはない。

 心の奥底で憎悪のようなものは湧き上がる。


「白紙なんですか?」

「ええっと……」

「なんで言い返してくれないんですか? 大変だったんですよ!


 流石にムカついて声を荒げてしまう。

 しかしミーNaさんの態度は変わらない。

 ここは話の筋を変えるしかないかも。

 そう思った私は考えて、頭を捻った。


「あの、ちなみにあの後なにがあったんですか?」

「わ、分かりません。少なくとも原因となったバグは排除されたのかと」

「バグ!?」


 突然のプログラムワード。

 私はNPCがそんな現実的なことを言いだすとは思いたくなかった。

 だけど聞いちゃった以上仕方ない。ここは諦める。


「っていうか、アレはバグだったんですか?」

「報告書によるとそうらしいです」

「報告書?」


 そんなものがあるなんて知らなかった。

 私はミーNaさんに頼んで見せて貰おうとする。

 それくらいの権利はある筈。そう思ったけど、首を横に振られた。


「報告書は既に上に提出してしまっていて、ここにはありません」

「それじゃあ控えは?」

「何故か送られて来た報告書は一枚だけでして……」


 もの凄い陰謀が感じられた。

 私は唖然としてしまう。

 言葉が出て来なくなると、目だけで圧を加えていた。


「わ、私もA-スさんから報告が上がった時は唖然としましたよ。ですが調査を進める中で真実だと分かり、報告書がその決定打でした」

「だとしても、それじゃあ私達には……」

「私だって昇進が遠のいてしまったんですよ。お相子です! 運命共同体です!」

「それは流石に嫌です……」

「薄情な! アキラさーん!」


 泣き付かれても困る。

 本当は私が泣き叫びたい。

 だけど目の前のミーNaさんが薄っすらと涙を浮かべていた。

 ガックシなって、顔を伏せてしまう。


「あの、アキラさん達はなにかありませんでしたか?」

「なにかですか?」

「はい。報告書にはバグのことしか書かれていなかったので、リュウシン大渓谷で体験したことはなにかありませんでしたか?」


 ミーNaさんは何とかして挽回を果たそうとする。

 その出汁に私達を使うのは明白。

 だけど何だか可愛そう。本当はこのまま見なかったことにしてもいいけど、何故かできない。私の優しさが炸裂し、記憶を引っ張り出す。


「怖いことばっかりでした」

「ほ、他にはありませんか?」

「他ですか!? 確かに色々大変で、怖いことが多かったです。でも龍には遭えましたよ!」


 ドン!


「み、ミーNaさん?」


 急にカウンターを叩いたミーNaさん。

 一斉に視線を集めてしまう。

 私は挙動不審な態度を取るも、苦笑いを浮かべて対応した。


「あっ、どうもー」


 私は「あはは」と遠い目をして笑った。

 すると視線も少しずつ引いて行く。

 如何やら興味を失って貰えたらしい。

 私は安堵したが、ミーNaさんに訊ねる。


「ミーNaさん、急にどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもありませんよ。アキラさん、本当に龍を目撃されたのですか?」

「は、はい。一応は」


 アレはきっと龍のカウントでいいんだよね?

 私は微妙なことを言ってしまう。

 そのせいで混乱を招きそうになるので、ここは押し通す。


「まさか龍に遭遇されるなんて、驚きです」

「あの、そんなにおかしいんですか?」

「おかしくはありませんよ。ですが、龍はなかなか人目には触れない、警戒心の強い個体が多いと聞きます」

「そ、そうだったんだ……」


 龍とはなかなか出遭えない。

 ミーNaさんの言葉を受け取るならそうだ。

 けれど私達は目撃した。それってつまり……


「つまり、貴重ってことですよね?」

「そういうことになりますね」

「はわぁ~」


 変な声を出してしまった。

 凄く貴重な体験だとはNightも言っていたけど、まさかこんなに問われるなんて。

 私は瞬きをするが、まだ言ってないことがある。


「あっ、でもマグロが龍になったんですよ!?」

「ええっ、どういうことですか」

「私もよく分からないんですけど、鯉の滝登り的な? いや、アレは登ってないよね?」


 色々と疑問が湧き上がった。

 何せあのマグロは鯉じゃない。ましてや滝を登ってもいない。

 つまりマグロの正体は最初から龍だった? それなら更に面白いかも。

 だけど今となっては分からない。でも私達が黒龍を目にしたのは間違いない。


「幸運ですね。きっといいことがありますよ」

「そうだといいんですけどね……あはは」


 もう笑っちゃうことしかできない。

 何せ結局報酬は貰えなかった。

 今更話の論点を戻しても、ミーNaさんは聞く耳を持ってくれない。

 このまま押し流してしまうことは間違いなしで、私の乾いた笑いだけが、遠い目として吐露された。





「ってことがあったんだよ?」


 それで今に至る訳だ。

 私は事の顛末を語った。

 結局の所、誰にも特はなかった。

 私はムッとした顔をすると、背後から声がした。


「結局白紙って、なんだかうやむやにされた感じね」

「そうですね。実際、無かったことにしたのですから、致し方ありませんね」


 振り返ると雷斬とベルの二人が立っていた。

 いつもの取り合わせ(セット)で私は安心する。

 笑みを浮かべる私に、ベルはリビングをキョロキョロ見回した。


「所で、あのうるさいフェルノは?」

「うるさいは止めてあげてよ」

「実際そうでしょ? それで、どうしていないのよ?」


 確かにうるさいにはうるさい。

 だけどあまりそんなこと言ってあげないで欲しい。

 ただテンションが高いだけ……は置いておくとして、今日居ないのは理由がある。


「部活だって」

「部活? へぇ、部活ね」

「テニス部の新生だから忙しいみたいだよ」


 実際、フェルノはスポーツなら何をやらせても上手い。

 その中でも、如何してテニスを選んだのかは分からない。

 けど強い。それだけは確かだ。


「テニス部の新生ね……まあそれはいいわ」

「いいんだ」

「いいわよ。結局、なんにも手に入らなかったわね」


 ベルは頬杖を付く。

 口を尖らせると、酸っぱいことを言う。

 確かに、手の中には何も手に入っていない。


「そんなことないぞ」

「Night?」

「確かに“物”としての形ある成果は得られなかった。けれど私は面白いものがたくさん見れた。リュウシン大渓谷、あの場所で見た一時は私の知識として記憶として生きる筈だ」


 Nightの言う通りかもしれない。

 結局は得られるものは形が無かった。

 だけど思い出みたいな、形は無いけど、確かに存在したものは得られたんだ。

 今回はそれを得られただけ、良しとしたい……けど。


「いい風にまとめてない?」

「そうですね、実際、双方に利益が発生していませんから」

「割り切るしかないだろ、今更駄々をこねても仕方が無い」

「うわぁ、それ言っちゃうんだ……」


 もうそれを言ったらお終いだよ。

 私はげんなりしてしまった。

 

 だけどNightの言うことは間違いない。

 的を射ている、射すぎている。

 私達は重苦しい空気を感じつつも、結果的にはいい思い出ってことにしてまとめた。

 

 それにしても、変なこともあるんだね。

 CUのバグ事情は分からないけど、なんだか大変そう。

 他人事の様に唱えると、私はテーブルに置かれたお茶を飲んだ。


【ステータス(四章終わり)】


■アキラ

性別:女

種族:<ヒューマン>

称号:《合成獣》

LV:11

HP:200/200

MP:200/200


STR(筋力):63/60

INT(知力):63/60

VIT(生命力):63/60

AGI(敏捷性):63/60

DEX(器用さ):63/60

LUK(運):63/60


装備(武器)

武器スロット:〈初心者の短剣〉


装備(防具)

頭:

体:〈朝桜のジャケット〉

腕:

足:〈朝桜のショートパンツ〉+〈朝桜のスカート〉

靴:〈朝桜の忍靴〉

装飾品:〈銀十字のネックレス〉


種族スキル:【適応力】

固有スキル:【キメラハント】+{【半液状化】,【甲蟲】,【灰爪】,【幽体化】,【熊手】,【蠍尾】, 【衝撃波】},【ユニゾンハート】


■Night

性別:女

種族:<吸血鬼>

LV:13

HP:220/220

MP:220/220


STR(筋力):48/70

INT(知力):105/70

VIT(生命力):60/70

AGI(敏捷性):48/70

DEX(器用さ):94/70

LUK(運):70/70


装備(武器)

武器スロット:〈十字架の剣〉


装備(防具)

頭:

体: 〈黒夜(ブラックナイト)・シャツ〉

腕:

足:〈黒夜(ブラックナイト)・パンツ〉

靴:〈黒夜(ブラックナイト)・ブーツ〉

装飾品: 〈銀十字の首飾り〉〈黒夜(ブラックナイト)・コート〉


■インフェルノ

性別:女

種族:<ファイアドレイク>

LV:8

HP:170/170

MP:170/170


STR(筋力):65/45

INT(知力):38/45

VIT(生命力):42/45

AGI(敏捷性):55/45

DEX(器用さ):44/45

LUK(運):45/45


装備(武器)

武器スロット:〈初心者の短剣〉


装備(防具)

頭:

体: 〈冒険者の軽装(上)〉

腕:

足: 〈冒険者の軽装(下)〉

靴: 〈冒険者の軽靴〉

装飾品:


種族スキル:【吸炎竜化】

固有スキル:【烈火心動】


■雷斬

性別:女

種族:<雷獣>

LV:10

HP:190/190

MP:190/190


STR(筋力):64/55

INT(知力):57/55

VIT(生命力):54/55

AGI(敏捷性):83/55

DEX(器用さ):67/55

LUK(運):55/55


装備(武器)

武器スロット:〈雷に打たれし鈍刀〉


装備(防具)

頭:

体: 〈封雷坊の装束(上)〉〈雷の羽織〉

腕:

足: 〈封雷坊の装束(下)

靴: 〈封雷坊の草鞋〉

装飾品: 〈雷模様の髪飾り〉


種族スキル:【雷鳴】

固有スキル:【陣刃】


■ベル

性別:女

種族:<シルフィード>

LV:10

HP:190/190

MP:190/190


STR(筋力):53/55

INT(知力):55/55

VIT(生命力):56/55

AGI(敏捷性):73/55

DEX(器用さ):92/55

LUK(運):54/55


装備(武器)

武器スロット:〈蜻蛉翅〉


装備(防具)

頭:

体: 〈妖風のブラウス〉

腕:

足: 〈妖風のタイトパンツ〉

靴: 〈妖風のブーツ〉

装飾品:


種族スキル:【風招き】

固有スキル:【仮面装着】

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