◇15 VSグレーウルフ
ゲームだからアレだけど、絶対に痛い。
というか、100%大怪我でしょ。
私はグレーウルフと言うモンスターを調べた。
灰色の爪はグレーウルフを討伐した際のドロップアイテム。
となれば、グレーウルフを探すのが手っ取り早い。
だけど探すのはとっても大変。
私はグレーウルフが何処に生息しているかなんて知らない。
困ってしまった私だったけど、依頼書には丁寧に出やすい場所まで書いてある。
「それならソウラさんが行けばいいのに」
なんてボヤいてしまうが、それでも私はやって来た。
グレーウルフが生息しているらしい森。
スタットーンの近くにある、ペタットーンと言う森だ。
「ペタットーンってなに?」
そう思ってやってきた森。だけど名前とは全然関係無く、何処にでもあるような普通の森だった。
しかしスタットーンとの違いが明らかにある。
それは目で見れば一発で、プレイヤーがチラホラ居て賑わっていた。
「うわぁ、ここは人がたくさんいる。嬉しい」
スタットーンと違って人が居た。
それだけでなんだか嬉しくなれると、私はグッと拳を作る。
頑張ろうという気になると、早速森の中に入ったのだが、すると突然、森の中から悲鳴が上がった。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」
私はビクッとなって立ち止まる。
周りに居た他のプレイヤーも同じなようで、一瞬足を止める。
しかし悲鳴が上がったのはその一回限りで、別に何か特別なことが起きた訳でもなかった。
「な、なに? なにかあったの?」
私は少しだけ怖くなってしまった。
首を捻り、森の中に入るのが精神的に嫌になる。
けれど入らざるを得ない。ここは勇気を出して突入だ。
「で、森の中を歩いてみたけど……誰もいない?」
ペタットーンを歩き回った私。
しかしグレーウルフの姿どころか、他のプレイヤーの影もない。
もしかして、変な道に入っちゃった? かと記憶を辿るも、ここまで一本道だった。
つまり道に迷う何てことあり得ない。
「じゃあなんで? もしかして、名前が似ているから、ここもスタットーンと同じで、意思を持っているとか?」
昨日スタットーンに行った時も同じような目に遭った。
あの時は森が何故か動いていた。
そのせいで帰り道を封じられたのだが、今日はそんな様子は一切無く、振り返ると道が続いている。
「それじゃあなんで私だけ? もしかして、みんなさっきの悲鳴を聞いて逃げちゃったのかな?」
そう言えば、悲鳴が上がってから森の中に入ったのは私だけ。
あの時点で、私が先行しすぎたのか、それともみんな帰っちゃったのか。
どちらにせよ、今この森の中は私一人みたいだ。
昨日と全く同じ。流石に二連チャンは味気ない。
「天丼って奴? もしかして、おんなじネタで突き通すつもり? えっ、このゲームって、そういう系なの?」
などと私は口走る。そのくらいにはあまりにも何も起きない。
流石に暇、な上に不気味で肌が冷たい。
私は周囲をキョロキョロ見回ると、急に草むらがガサゴソ揺れた。
「な、なに!?」
私は短剣を取り出すと、草むらに突き付けた。
すると草むらが絶えずガサゴソ揺れている。
私は姿勢を低くして睨み付けると、草むらの中から飛び出してきた。
「プギュゥ!」
「兎?」
草むらの中から飛び出してきたのは一羽の兎。
私は首を捻り、短剣を構えるのを辞める。
だって相手は可愛い兎だ。何かから逃げて来たみたいで疲れている。
私でも簡単に倒せる。そう思ったのも束の間だった。
「ガルゥ!」
「ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! ……」
草むらの中から別の何かが飛び出す。
それは口を開くと、兎に噛み付いた。
鋭い牙で軟な肌を貫くと、兎は断末魔を上げて死んでしまった。
「えっ、な、なに、急に?」
「ガルルゥ」
「狼? しかも灰色……はっ! グレーウルフ!?」
兎を噛み殺したのは灰色の毛並みが特徴的な狼。
名前はグレーウルフ。私が探していたモンスターだ。
「まさかこんなタイミングで出遭うなんて……ごめんね、倒すよ。それっ!」
私は短剣を構えると、グレーウルフに早速飛び掛かる。
ギラッと光った刃先が、グレーウルフを狙った。
だけど私みたいな単純な攻撃、グレーウルフは難なくいなす。
「ガルゥ!」
「うわぁっ、避けられた?」
グレーウルフは簡単に身を翻して攻撃を避ける。
私は急には止まれず、グレーウルフがさっきまでいた場所を通過。
上手く止まれた。そう思った瞬間、グレーウルフは前脚で蹴って来る。
「ガルゥ!」
「痛っ! い、痛い……」
私は頭を蹴られた。
しかも切り裂かれたような気がする。
私は涙目になってしまうと、視線を背後のグレーウルフに向けた。
噛み殺した兎を放り出し、今度は私を標的にする。だけどその目は私のことを“ちょっかいを掛けて来た面倒な奴”としか思っていなかった。
「私、舐められてる? そうだよね、今の避けられたら、そうだよね」
私も分かっていた。ステータス的には圧倒的にグレーウルフが有利。
地の利もある。小回りも効く。私のことを舐めるのも無理ない。
だからかな。私は短剣の柄を強く握り、グレーウルフに突き付けた。
「私、負けないよ。だって楽しいから」
こんな時こそ笑顔を向ける。
無理をしているんじゃなくて、意識を切り替えて楽しんでみる。
するとグレーウルフは私の笑顔が怖かったのか、一瞬たじろいで後退する。
だけど喉を鳴らして私のことを威圧すると、一気に飛び掛かる。
「ガルァッ!」
(来たっ! 噛み付かれたらお終い。だったら……)
私は冷静に頭の中で考える。
目で見えている情報を高速で処理すると、グレーウルフの鋭い牙と爪が目の前にある。
噛まれる。切り裂かれる。色んな想像が湧いて来るけど、私は勇気を出して前に出る。
「ここっ!」
私はまるでクロスカウンターを避けるみたいに、体を捻る。
代わりに右の手で持っていた短剣を逆手に持つと、グレーウルフの口にはわせる。
上手くかかった。そう思うと、グレーウルフが飛び掛かった慣性で、そのまま口が切られた。
「ガルルラァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
グレーウルフの大絶叫が耳元で聞こえた。
私は耳を塞ぎたいけど、ここは我慢する。
口を引き裂き、グレーウルフに大ダメージを与えると、私は怒りを買って反撃されないようにすぐさまスキルを使った。
今回の出番は【キメラハント】+【甲蟲】だ。
「逃がさないよ!」
私はすぐさま腕を伸ばす。
慣性で地面に逃げようとするグレーウルフの尻尾を捕まえる。
【甲蟲】で武装した腕が伸び、ギュッとグレーウルフの尻尾を捕まえると、逃げられないグレーウルフは脚をバタバタし始めた。
「ガルゥ! ワフゥ!?」
「このまま一気に倒すね。せーのっ!」
「ワフッ!? ……ガッ」
私はグレーウルフを捕まえると、尻尾を起点に振り回す。
グレーウルフは私の腕で一回転。
そのまま地面に背中を叩き付けられると、鼻先まで強い衝撃が加わって潰れてしまった。
「はぁはぁはぁはぁ……倒せた?」
私はグレーウルフがピクピク動いていることを確認する。
もしかしたらただ気絶しているだけかも。
警戒して少し下がるも、グレーウルフのHPは残っていない。
そのまま緑から黄色、赤へとHPバーが変色すると、灰色になって空になる。
つまり、私の勝ち。グレーウルフは無事に倒された。
「やった? やったんだよね?」
戸惑った私。それもそのはず、こんな無茶苦茶なやり方で勝っていいのか不安だった。
だけどそんな私を肯定するみたいに、アナウンスが鳴り響く。
——レベルアップ! “アキラ”のレベルが4になりました——
——ドロップアイテム獲得! 灰色の爪を獲得しました——
「やった! レベルも上がって、ソウラさんに頼まれてたアイテムも……おっ?」
——固有スキル:【キメラハント】が新しいスキルを獲得しました——
——適合率判定の結果、スキルとの相性を確認し、固有スキル:【キメラハント】に、グレーウルフ・【灰爪】を追加しました——
「新スキルだ! でも、爪ってなんだか嫌だな。私、さっき……ううっ。考えないことにしよう」
私は少しだけ身震いがしてしまい、鳥肌が全身を走った。
二の腕を撫でると、私はあまりに嫌な思い出の方が強いので、恐怖心が過る。
だけど気にしちゃダメだ。私は首を横に振ると、代わりに死んでしまった兎を見た。
「ごめんね、私はなにもできなくて」
私は地面に横たわる小さな兎に手を合わせる。
もちろん私が悪い訳じゃないし、これは仕方がないことだ。
だけど後味があまり良くないので、私は私の気を晴らすためにせめてものことをすると、灰色の爪も手に入ったので、スタットに戻ることにした。
(納品は……明日でいいかな)
私はスタットに戻るとログアウトをすることにした。
今日は色々あった。
今着ているジャケットがそう思わせてくれると、CUというゲームを少し分かった気になっちゃった。
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