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◇149 デバッグは大変です

メチャ怖な話。

「ポンポコポンポコ。上手く行ったポコ」


 リュウシン大渓谷の森の中。

 ケタケタと笑う声が響く。

 人間の声にしては何処か不気味で、語尾も変でした。


「ポンポコポンポコ」


 次第に人間の言葉を止めてしまいます。

 姿形も気の幹に映っていた影から変わります。

 その姿は人間の状態から、小さな獣の様。

 黒く禍々しい陰を纏い、ましてやバグっているのか、所々が欠けます。


「ポンポコポコポコ」


 それにしても何故笑っているのか。

 単純な話です。

 久々に見つけた人間達を化かして嘲笑っているのです。

 それこそがタヌキ=アクイタヌキにとって、最高の御褒美でした。


「ポコポコポコポコ」


 絶えず笑い続けていました。

 そんなアクイタヌキに対し、何処からか殺気が飛びます。

 形を成した殺気は、気配の外側、意識の範疇でない所から、アクイタヌキに振りかざされました。


 ギュンギュンギュンギュンギューン!


「ポコッ!」


 何かが飛んできました。

 アクイタヌキは恐怖を感じて急いで逃げます。

 すると木の幹に突き刺さったそれは、完全に鉈でした。


「ポコッ!?」

「あれ~外しちゃったかー」


 明らかに人間の声。しかもアクイタヌキ自信を狙っていたらしい。

 アクイタヌキは先程似せたA-スの声を真似ます。

 発声器官を利用すると、警戒しつつも訊ねました。


「誰ポコ」

「ポコってことは、タヌキのバグかな~」

「なんでもいいよー。どうせ片付けるんだからさー」


 別の人間の声。

 否、これは人間の声ではありません。

 プレイヤーそれともNPC? いいえ、ただのNPCではありません。


「ポコッ!」

「それドーン!」


 アクイタヌキの真上から何かが降って来た。

 人間の姿をしたそれは、オレンジ色の髪をしています。

 腕にはガントレットを装備し、アクイタヌキ目掛けて振って来ました。


「ポ、ポコ、危機一髪だったポコ」

「あれれー? 外しちゃったね」

「なにやってるの、オレンジ~」

「ごめんなさーい。でもフォッチェットさーん」

「でもじゃないよ~だ。とっとと倒して、デバッグしないと」


 草むらから出て来た人間は、木の幹に突き刺さっていた鉈を手にした。

 アクイタヌキの前に立ち、オレンジ色をした髪の少女の横に並ぶ。

 しかしオレンジ色を髪をした少女はいつもと違う。

 フォッチェットと呼ばれた女性に頭が上がらない。


「そんなことよりさ、早くやっちゃうよ~」

「はーい」


 少女の名前はF=オレンジ。

 フォッチェットと共に目の前のアクイタヌキを倒すためにやって来た。

 

 もちろんただ倒す訳ではない。

 バグであるアクイタヌキをデバッグするために来たのだ。


「ポンポコ、そう簡単にやられてたまるかポコ!」

「はいはーい、無駄だよー」


 アクイタヌキは自分の体を変化させる。

 難にだって悪意で化ける。

 丁度よく鉈なんていい武器が目の前にあるんだ。すぐさまその姿形を取り、宙を舞って攻撃を仕掛ける。


「死ねっ、ポコ!」


 アクイタヌキは飛んで来た。

 けれどF=オレンジとフォッチェットには届かない。

 触れそうになった瞬間、特殊なバリアが阻んだ。


「ポコっ!? 痛い、ポコ」

「あはは、私達に悪意は届かないよーだ」

「そういうことだよ~。それじゃあ、デバッグデバッグ」


 二人の目的はただ一つ。

 デバッグをすることでこの世界の在り方を整える。

 そうすることで、この世界は、幻想の世界は均衡を保つ。


「や、止めるポコ。止めて欲しいポコっ!」

「ごめんね~。なんて言わないよ?」

「そうそう。被害を出しちゃったらダメ。更生の余地もないんだからさー」


 更生の余地があるのなら、助けてあげてもいい。

 しかしその余地さえないのは明らか。

 隙を見せれば攻撃を仕掛けて来るのなら、ここで止めるしかない。

 そう思うと、フォッチェットはスタスタと近づいた。


「じゃあね~」

「ポコッ!」


 バサッ!


 アクイタヌキは鉈に切り裂かれる。

 頭が胴体と分かれると、ピクリとも動かなくなる。

 そのまま如何なってしまったのか、HPは〇になり、全身を包んでいた陰は消えた。


 おまけにまみれていたバグも消滅。

 そのおかげもあり、最悪の事態に発展しないで済みます。

 F=オレンジとフォッチェットは笑みを浮かべると、鉈を回収しました。


「なんとかなったねー」

「うん、そうだね~」


 バグを上手い具合にデバッグしました。

 異変が広がる前で助かったのです。

 この世界の平和は安寧は保たれました。


「それにしても、まさかあのレジャー自体がバグだったなんて」

「いやいや、アレはバグじゃないと思うよ~」

「えー、それ本当?」

「うん。私達がレジャーを試乗した時は、変なことはなにも無かったからね。でもさ、危険だったけど~。まあ、なんとかなかったか?」


 フォッチェットは事前に試乗していた。

 その際には多少危険ではあったものの、なんとかなったようです。

 それ故に今日があったのですが、残念なことにレジャーは中止になりそうでした。


「まっ、デバッグが完了してよかったよ。オレンジ、ちゃんとこの世界を」

「分かってるよー。ねぇねぇフォッチェットさんは、もう帰っちゃうのー?」

「当り前だよ~。うち、残業は緊急時以外NGだからね~。ふはぁ、それじゃあログアウトっと」


 デバッグ作業も終わったようです。

 如何やら残業はNGらしく、大きな欠伸をフォッチェットは掻きました。

 パネルを操作し早速ログアウトしてしまうと、取り残されたF=オレンジはつまらなそうに舌打ちを鳴らします。


「(チェッ)つまんないのーだ……はぁ」


 溜息を付いてしまいました。

 なにせこのような面倒な作業はなかなか起きない。

 だから異変が起きなくてつまらないのです。


「バグは無事にデバッグできたけどー、レジャーがねー」


 せっかくギルド会館が始めようとしていたレジャーが開催できなくなる。

 もはやそれは決定事項だ。

 そのせいか、F=オレンジは詰まらなそうな顔をし、それでも仕方が無いと受け入れるしかない。


 少なくとも被害が最小限に済んでよかった。

 今はそう思うことが安寧だ。

 F=オレンジ自身も、その光景を知識として吸収する私も、儚い幕引きを受け入れることしかできなかった。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

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