◇148 アクイタヌキに化かされて
頑張って足しました。
本当に何が起きてるの?
私達は戸惑ってしまう。
しかし考えてみれば単純で、ギルド職員がそんなことする訳ない。
だけどまだ忘れていることがあった。
「あれ、ちょっと待ってよ」
「どうしたの、アキラー?」
ここで忘れていたことがあった。
さっきまで会っていたA―スさんは見間違いだった。
おまけに筏の正体も偽物だった。
それじゃあA-スさんは?
「それじゃあ私達が会っていたAースさんって」
「偽者だった訳か? そんなバカな……」
Nightは顔を押さえていた。
目が怖い。そんなことあり得ないって思うのが普通。
もちろん私も同じで、頭を抱えてパニックになる。
「ん? もしかしてアンタ等、タヌキにでも化かされたのか?」
「タヌキ、だと?」
「ああ、そうだぜ。このダンジョンにはよ、アクイタヌキって言う人間を騙して楽しむ陰湿なモンスターがいるんだよ。そのせいで、普段は立ち入れないようにしてんだけどさ、多分アタシの姿に化けたんだな」
アクイタヌキ。そんなモンスター知らない。
Nightも初耳だったのか、記憶に留める。
一体どんなモンスターなのか。姿形は分からなくても、少なくとも嫌なモンスターだと判った。
「それじゃあなに? 私達、まんまと化かされたってこと!?」
「そういうことになりますね」
「ムカー。なんか腹が立つよー」
「フェルノだけじゃない。私もムカついている」
〈《継ぎ接ぎの絆》〉全員が怒っていた。
当然だ。こんな怖い目に遭ったんだ。
しかもそれが一匹のタヌキの仕業なんて許せない。
「タヌキに化かされるか。どれだけ、このダンジョンはことわざが好きなんだ」
「そんなことどうでもいいよ!」
「実際問題、このダンジョンはことわざをモチーフにしていただろ」
「そうだけど……やっぱりムカつくよ!」
私はついつい本気になってしまった。
だけどモチーフをそのまま使うのは面白いかも。
ふとそんな意識が芽生えるが、A-スさんはこのやり取りに終止符を打つ。
「まあ命があっただけでよかっただろ?」
「そんなこと言われても……Aースさんは、自分の姿を真似られて、迷惑じゃないんですか!?」
私はついついA―スさんに当たってしまった。
もちろん悪気があった訳じゃない。
すぐに反省した私はA-スさんに怒られずに済んだけど、同時にA-スさんの本音が飛び出す。
「迷惑? 当たり前だ。迷惑に決まってる」
A-スさんは鬼のような形相になる。
海賊帽を押し上げると、ムカついた顔をした。
けれど私達を怒鳴り付けても仕方が無い。
A-スさんは大人だ。
「けどな、私に化けてたタヌキはもういないんだ。こんな広いダンジョン内を探し回るなんて無理な話だろ?」
「そ、そうですけど」
「だから今回は命があっただけよかったって思おうぜ。それと、結局楽しめただろ?」
A-スさんはニカッと笑った。
確かに怖い目にはたくさん遭ったけど、結局楽しんでいた。
本来のレジャーの形じゃなくて、アドベンチャーになっちゃったけど、それでも結果的にはオーライだ。
「確かに楽しかった……よね?」
「うんうん。すっごく楽しかったー」
「大変だったけどね。にしてもあの龍まで化かされた内なんて、ちょっと残念ね」
「龍? そう言えば、さっき黒龍が飛んでったな。アレはなんだったんだよ!」
私達は龍を見かけた。
アレさえアクイタヌキの仕業、かと思えば如何やら違うらしい。
A-スさんは食い気味に顔を近付けると、目をキラキラさせる。
お宝を求める海賊の目だ。
「えっ、アクイタヌキの仕業じゃないんですか?」
「あはは、面白い冗談だな。アクイタヌキがそこまでするわけないっての」
「えっ、それじゃああの龍は……」
「幸運だったらしいな。まあ、龍が見れただけよかったと思うか」
まさかの本物だった。
ってことは私達は幸運だったってこと?
思えばあのマグロは私達のことを助けてくれていたのかも?
今となっては真実は分からないけど、何故かホッとする。
私達は凄いものを見ちゃったんだ。
それが正直に嬉しく感じる。
私達は貴重な体験に笑むを浮かべると、A-スさんは気を取り直す。
「ふん。そんじゃあアンタ等はとっとと帰りな。ここは立ち入り禁止だ」
「ええっ、立ち入り禁止なんですか!?」
「当り前だっての。アクイタヌキが化かすようなとこ、レジャーに使える訳ないって。はぁ、ミーNaには後で説明しないとな」
A-スさんは溜息を付いていた。
確かにせっかく計画したイベントが中止になるなんて。
まだ大々的に告知していなかっただけよかったかもと、私達は胸を撫で下ろした。
だけど貴重な体験をしたことは変わらない。
私達は龍に出会ったんだ。それとアクイタヌキって言う恐ろしいモンスターにも。
これは全部まとめてよかったって思うべき? 色々頭を悩まされる。
「もしかして、コレがお宝?」
「おっ、言うこと言うじゃねぇか。捉え方だよな」
「捉え方って……うわぁ」
私はA-スさんに腕を引かれた。
それとフェルノも腕を引かれた。
A-スさんは楽しそうで、ニヤニヤ笑みを浮かべている。
本物の笑顔。アクイタヌキが見せた狡猾な物とは違う。
「A-スさん!?」
「アンタ等にとってのお宝は手に入ったんだ。つー訳だ、これで今回のレジャーは終了。アタシは船長として、船員達を守る義務があるんだよ」
「ええっ、まだ続いてるんですか?」
A-スさんのペースは続いている。
未だにここはレジャー会場だ。
埋め合わせも兼ねてか、A-スさんのテンションはやけに高い。
「当り前だろ。それじゃあ全速前進、ヨーソロー」
A-スさんは腰に携えた短剣を抜く。
指し示す先に陽の光が当たると、煌めいて眩しい。
「ちょっと待て、A-ス。この後はどうするんだ?」
「どうすもなにも無いだろ。誰かがなんとかする」
「誰か? ギルドの職員かなにかか?」
「はっ。アンタ等が気にしなくてもいいんだよ」
A―スはNightが食い気味で来るので面倒そうにあしらう。
これ以上この一件にかかわってはいけないのかな?
多分だけど、かかわっても碌なことが無いからだ。
「ほらほら、私達のアジトに戻るまでが冒険。気を引き締めろよ」
「お、おー?」
「声が小さい! 後違うだろ」
「「「あ、アイアイサー???!!!」」」
私達のことを最後まで楽しませようとする。流石はギルド職員。
何故だか上手く丸められたような、アクイタヌキさえ利用してしまったA-スさんにすっかり乗せられると、私達はリュウシン大渓谷を離れるのだった。
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