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◇146 滝壺からの帰還

普通は死にます……

 ボコボコ……

 ボコッ……ポコッ……

 ああ……ああっ……あああ……


 体が冷たい。おまけに痛い。

 真上には光が見える。

 息ができない。早く浮き上がらないと。

 浮き上がる……ってなんだっけ?


(あっ! そっか、ここは……)


 そこで私は思い出した。

 ここは滝壺の中。

 今口から溢れる気泡の正体は、私の息だ。

 酸素が体から抜けていくと同時に、眩しい陽の光が私の視界を覆う。


(急いで、ここから上がらないと……)


 生きているだけで奇跡だ。

 強制ログアウトしなかっただけマシ。

 私はボロボロになった体を、急いで浮上させる。

 みんなのことは……多分気にしなくてもいい。みんな大丈夫だ。


(ううっ……なんで生き残れたのかな? やっぱり奇跡?)


 私は水を掻きながら、滝壺から浮上する。

 上から流れ落ちる激流が私のことを邪魔する。

 上手く水を掻けない。おまけに流される。

 それでも私は必死に水を掻き分けると、光を目指した。

 とにかく上へ上へ。生き残るために、私は足搔いた。


「ううっ……ぷはっ! はぁはぁはぁはぁ……はぁ……はぁはぁ」


 私は水の中から飛び出す。

 水面から顔を出すと、大量の酸素を吸い込む。

 そのせいで肺が痛い。目が焼けるような衝撃が走ると、私の頭がボーッとする。


「し、死ぬかと思ったよ」


 私の感想はそれに尽きる。

 だけど顔を上げたけど、誰も居ない。

 もしかして助かったのは私だけ? そう思った矢先、背後から音が反響する。


「ぷはっ!」

「ううっ、危なかったねー」

「はい。皆さん無事ですか?」

「無時もなにも無いでしょ! 苦しいったらありゃしないわ!」


 振り返ってみると、みんなの顔があった。

 如何やら全員無事だったらしい。

 だけど全員苦しそうで、特にNightは顔色が青紫色で、フェルノに支えられている。


「みんな、無事!?」

「だから無事じゃないって言ってるでしょ!」

「でも生きてるよね?」

「それはそうだけど……もう、最悪なんだけど」


 ベルの言う通り最悪なのは間違いない。

 気が付けば滝壺には大量の気が転がっている。

 ぶっ壊された筏の残骸で、私達はなんとか泳いで、適当な木の棒に掴み掛った。


「みんな、大丈夫!?」

「とりあえずはね」

「ですがアキラさん、このままだと大変よろしくないかと」


 雷斬の言う通りよろしくは無かった。

 ここは滝壺。真上からは激流が絶えず振り注ぐ。

 そんな物をずっと浴びていたら体が持たないのは当然だ。


 おまけにもっと直接的にヤバいことがある。

 私達に体力はもう残ってない。

 目の前には一応対岸が見える。このまま泳げば辿り着けるかもしれない。

 だけど、それが遠く感じる。


「遠いね、岸」

「うん。Night、起きて―」

「起きてはいる。だが、私は体力が限界だ」


 HPじゃなくてリアルの方の体力がNightは限界近い。

 このままだと、別の意味で強制ログアウトだ。

 如何しようかと私は考えた。だけど水は、自然は容赦しない。


 ゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポ!


「な、なに。流されてない?」

「流されていますね。滝壺に吸い寄せられています」

「クソッ。水流か」


 Nightが叫んだ通りだった。

 私達の体は木の板に預けている。

 そのせいか、平気で流されてしまった。

 泳ぐ体力も残ってないから仕方ないけど、こんなに水が恐ろしいなんて思わなかった。


 まるで洗面台の排水溝の気分だ。

 私達の体は水に押し負け、まさに絶体絶命。

 流されてしまい、万事休すだった。


「おいおい、アンタ等大丈夫か!?」


 そんな中、岸から声が聞こえた。

 この声、聞いたことある。

 だけどそんなこと言っていられない。


「よっと。コレに掴まれ!」


 木の板に掴まっている私達に対し、何か差し出してくれた。

 すると水面を長いロープが漂う。

 助かった。私達はロープを掴んだ。


「ちゃんと掴んだな。そのままこっち来られるか?」

「は、はい」

「なんとか辿り着けそうです」


 私達はロープを頼りに泳ぐ。

 何とか岸まで辿り着ければOK。

 残った体力を駆使して、私達はなんとか岸を目指す。


「よっと」


 おまけにロープを差し出してくれた女性も、ロープを引っ張ってくれる。

 たった一人で凄い。

 そう思った私達は、一生懸命ロープを掴むと、なんとか目の前の岸に辿り着いた。

 ここまででびしょ濡れ。もう体力は残ってないし、体が寒くて仕方がない。


「ううっ、よいしょ」

「そうだ、よく頑張ったな」


 私達は岸まで辿り着く。

 地べたを這って何とか辿り着く。

 温かい。地面が温かい。私達は四つん這いになると、みんな肩で呼吸をした。


「はぁはぁはぁはぁ……助かったな」

「うん。本当に死ぬかと思ったよ」

「あはは、でもスリルがあって良かったねー」

「よくないわよ、全くもう」

「ベル、怒りすぎてもいけませよ。終わったことですから」


 それぞれの感想が飛び交った。

 だけどなにはともあれ助かった。

 今はそれだけ噛み締めると、冷えた体のせいか、大きなくしゃみが出る。


「はくしゅん!」


 私は鼻を鳴らした。

 体が寒い。流石に夏でも滝壺の激流は冷たい。

 しかもピタッとなった服のせいで、平気で体温が奪われていた。


「おいおい風邪引くなよな。コレ使えろ」


 そう言うと女性は大きめのタオルを差し出した。

 全員分用意してくれたのか、受け取ったタオルを体に纏わせる。

 温かい。気持ちだけじゃなくて、体が温かい。


「あの、ありがとうございました」

「いいってことよ。それよりお前等はどうしてこんな所にいるんだ?」


 なに言ってるんだろう。

 私達はポカンとしてしまう。

 しかし女性の態度は依然として変わらず、本当に分かっていなかった。

 記憶が飛んでしまったのかと、私は不安になる。


「おい、このコースを案内したのはお前だろ!」

「はっ? なに言ってんだよ、アタシは知らないっての」

「……ん?」

「あー、もしかしてアンタ等がミーNaが言ってた奴等か?」


 ん? 本当になに言ってるんだろう。

 そう説明した筈なんだけど、何処かで齟齬が生まれたのかな?

 私達はポカンとしてしまう中、女性はニヤッと笑みを浮かべた。


「なんだよ、それなら早く言ってくれよな。んじゃ自己紹介だ。アタシは七つの海を駆け巡り、この世の宝を全て手に入れ、大海賊の名を欲しいままにした伝説の海賊の娘、Aース様だ! つーわけで、よろしくな」


 ちょっとだけ自己紹介が違った。

 ニヤリと笑みを浮かべたAースさんの姿。

 間違いなく初見の反応で、私達は意味が分からず取り残されてしまった。


少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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