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◇145 滝を駆ける龍

感動に対して絶望。

 今私達は不思議な光景を目の当たりにしている。

 ここがゲームなのは理解しているつもりだ。

 だけど今まで見たことが無い出来事に、頭の中は真っ白になった。


「一体なにが起きたの?」

「進化だ」

「「進化!?」」


 なにそれ。ポケ〇ンみたいなこと!?

 私は目を見開くと、Nightの発言に心躍る。


「Nightさん、進化とは?」

「モンスターだって成長する。それが成長型AIの特徴だ」

「つまり、AIが成長したってこと?」

「それもあるが、この場合は本能だろう。お前達は知らないだろうが、このリュウシン大渓谷のモチーフは鯉の滝登り。それを具現化しているんだ」

「具現化?」


 凄いファンタジーだけど壮大な話になって来た。

 私達は今自分達が置かれている状況をすっかり忘れる。

 それくらい凄いことが起こっており、Nightの話に耳を傾けた。


「いいか。リュウシン大渓谷には一つの噂がある。それはリュウシン大渓谷の滝を超えることができれば、その姿は龍へと変貌するというものだ」

「龍に変貌? それが進化ってこと!?」

「極論だとな。鯉の滝登りをモチーフにしているからだが、まさかマグロまで龍になるとな。しかも黒龍か。雄大だな」


 Nightはとても感心していた。

 確かにマグロだって成長すれば龍になれる。

 そんな御伽噺が本当になったらなんだって慣れる気がする。

 私も迫力も相まってか、龍の成長に心打たれてしまった。


「感心してる場合? 攻撃されたらひとたまりもないのよ!」


 ベルの言う通り油断できない。

 マグロの姿からは想像もできない進化を遂げた黒龍。

 尻尾が当たっただけでも筏は大破確定で、私達は慄いた。


「いや、その気はないらしいぞ」

「えっ?」


 黒龍に攻撃の意思はなかった。

 大きな体を上手く使い、本当ならぶつかってもおかしくはない。

 にもかかわらず、何故か黒龍は私達を避けている。筏を壊さないように、尻尾の動きが最小限だった。


「気に掛けてくれてる?」

「恐らくそうだろう。龍に進化したことで、知能がかなり向上しているだろうからな」

「知能が向上してるからって……でもそうとしか考えられないわよね?」


 不思議な出来事に巻き込まれていた。

 本当ならお遊びでも筏を攻撃して来る筈だ。

 だけど黒龍はそんなバカな真似しない。私達から完全に興味が失われている。


「ってことは攻撃されないのね? よかったわ」

「あの、安心するのは早いかと思いますが」

「そうだな。雷斬の言う通りだ」


 黒龍からの攻撃が無いことに安心する私達。

 そんな安全を断ち切るように、雷斬は手を挙げる。

 Nightも同意したからか、緊張が一瞬で高まる。


「この筏は絶えず進んでいる。しかもこの流れの急さだ。今更停まることはできないぞ」

「そんな、止まらないの!?」

「止まらないんじゃない。停められないんだ」


 黒龍が川の中から飛び出したことで巨大な水飛沫が上がった。

 そのせいか後ろから押し流される形になっている。

 オールを使ってもプロペラを回しても制御できる流れじゃないらしく、私達の乗った筏は、ただ流されているだけだった。


 バッシャーン!


「大きな波が来るぞ。気を付けろ」

「気を付けろって言われても」

「どうやって気を付けるのー? うわぁ!」


 巨大な波が背後から襲って来た。

 Nightは気を付けろって無茶なことを言う。

 そんなの気を付けることもできないよ。

 私達は大破寸前の筏にしがみつくだけで精一杯で、そのまま波に押し流された。


「マズいわよ。このままじゃ滝壺に落ちるわ」

「いや、確定だな」

「皆さんスキルを使ってみませんか?」

「この状況でスキル!? ああ、それしかないかもね」


 雷斬の提案を飲むことにした。

 私達は今使えそうなスキルを捻り出す。

 だけど有効打はあるのかな? 意識が(マイナス)に切り替わろうとする中、フェルノが炎を出した。


「【吸炎竜化】! 波を燃やしちゃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 フェルノの高温の炎が炸裂。

 波を押し流そうとするが、炎が水に触れると軽く蒸発する程度。

 火力が水力に負かされると、フェルノの苦い顔が浮かぶ。


「ま、負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 それでもフェルノは必死に攻防する。

 炎を両手のひらから撃ち出す。

 すると炎は勢いを増してか、波を少しだけ押し負かすと、同時に焦げ臭いニオイがした。


 ジュワァァァァァ……バキッ!


「あっ!」

「ちょっとフェルノ! ロープ切ってどうするのよ」

「ごめんごめん。あはは、これってヤバい?」

「当り前よ!」


 炎が湿った木の板を焦がし、ロープに引火。

 木の板は悲鳴を上げ、結んでいたロープは燃えた。

 大破寸前だった筏はその弾みに乗じてか、少しずつ罅が生まれ、水没の方が早くなる。


「み、水が入って来た!」

「そんなこと言ってる場合? 滝の方が迫ってるわ」


 ベルの言う通り、水没よりも先に滝に辿り着いていた。

 もはや操縦は不可能。

 私達は筏から振り落とされないように耐える。

 

「投げ出される!」

「ドラァ!」


 筏は激流に流された。

 そのまま滝の真上から空へと放り投げられる。

 その瞬間だった。突然黒龍は水面を叩くと、何故か私達の真横を陣取る。


「もしかして、助けてくれるのかな?」


 このタイミングで龍が飛び出したんだ。

 きっと私達の筏を壊し掛けたお礼に助けてくれようとしているに違いない。

 私はそんな期待を寄せてしまうが、残念、そんな御伽噺はない。


「あれ? 助けてくれない……」

「最初からそんな気なんて無かっただろ」


 龍は私達の真横を悠々と飛んで行く。

 滝壺に向かって急降下なんてする気は無い。

 グングン空に向かって登って行くと、高らかに吠えた。


「ドラァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 カッコいい。素直にそう思える。

 真っ黒な黒龍は私達のことを一瞬だけ見届けた。

 けれど助けてくれる様子は一切無く、邪魔に思う訳でも無く、一瞥する。


「凄い。今、私達のこと見たよ!」

「そうだな。まさか認識したのか?」

「きっとそうだよ。でも助けてはくれないんだね」


 結局助けてはくれなかった。

 確かにそんな義理はないかもしれない。

 だけど助けてくれてもいいのにと、ちょっとだけムカつく。


「ちょっと待ちなさいよ。助けてくれないってことは!」

「そういうことだな」


 しかもベルは気が付いてしまった。もちろん私達も気が付いている。

 今筏は川を流され、滝から吹き飛ばされた。

 つまりこのまま待っているのは、最悪の未来だけだ。


「全員、衝撃に備えろよ」

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 Nightの号令が最後になった。

 私達の乗った筏はあらゆる抵抗を失う。

 そのまま滝から投げ出されると、真下には激流が渦巻く滝壺。

 そこ目掛けて筏は落っこちて行き、私達の悲鳴が木霊する。


「やっぱりこうなるんだねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 最後に断末魔がお腹の底から弾き出された。

 喉が締め付けられるくらい痛い。

 筏から投げ出され、ただ滝壺になんの抵抗虚しく落ちていく私達。

 その真上を龍へと進化したカワマグロは悠々と超えて行く姿が、目に焼き付いてしまった。


 そこからの記憶はない。

 体が水の上に叩き付けられ、重苦しく沈んでいく。

 意識が薄っすらと消えていくと、私達は全員滝壺に飲み込まれてしまったらしい。

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