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143/230

◇143 目の前は絶景と滝

本当はこんなに長く描く章じゃなかったのに……

 カワマグロは戻って来ない。

 私達から完全に興味を失ってしまった。

 もちろん良いことだけど、何だか寂しくもある。


「平和だねー」

「そうだね。モンスターも襲ってこないし、本当によかったよ」


 私達は平和の中に居た。

 本当にレジャーを楽しんでいる状態だ。

 おかげで周りの景色に視線を預ける余裕を持つ。


「ここまで忘れてたけど、かなり景色いいわよね」

「そうですね。危険さえなければレジャーとしては満足が行くはずです」


 ベルと雷斬が互いに首を縦に振る。

 自然の美しさ儚さを噛み締めている。

 実際、崖の削れ具合が、風化した姿形が、生き物のようだった。


「見てよ、あの崖の形、龍みたいだよ!」

「本当だ。見ようによっては龍かも」


 フェルノが指を指すと、私は崖の陰影部分を見た。

 登って行く龍のような形に削れている。

 とても雄大で、真上の木々達も龍が登るための道を開けていた。


「リュウシン大渓谷は、元々鯉の滝登りをモチーフにしているらしい」

「鯉の滝登り?」

「勢いがあることの例えに使われるな。まあ、ことわざをモチーフにする場合は、何を引き合いに出しても多い」

「試練を乗り越えたと言うことですね」

「そういうことだ。とは言え、この大渓谷自体が人の出入りが極めて少ない保護区に指定されている。龍の伝説なんてもの、存在しないかもしれない」


 確かにNightの言う通りだ。

 リュウシン大渓谷は分からないことが多い。

 そのせいか、モチーフを言われてもピンと来ない。それが現状だった。


「でも本当に龍がいたらカッコいいよね」

「ねー。鯉の一匹も見かけないけどねー」

「そうだな。マグロしかいなかったな」

「マグロがいる方がおかしいのよ」


 ベルに突き付けられた仮想現実。

 鯉の一匹さえこの川では見かけない。

 代わりに川を泳ぐマグロを見かけたけど、なにか関係があるのかな?

 何となくありそうだけど、私達に知る由も無い。


 それからしばらくの間、私達は自分達の置かれた状況を忘れていた。

 けれど絶えず聞こえてくるものがある。

 それは自然の音だ。


 パシャン! パシャンパシャン!

 プカプカプカプカ……!!


「うわぁ……」

「これは冗談でも言えなくなって来たな」


 筏の表面に水が入って来ている。

 少しずつ座る場所も無くなってしまい、私達は中腰姿勢だ。

 膝立ちをして、最小限濡れることを許容する。

 けれど冗談でも「沈んだらどうしよう……」なんて言えないくらいには、水が入って来ていた。


「どうするのよ、筏、持たないわよ?」

「そうだな。とりあえず補強するぞ」


 流石に対策を用意してくれていた。

 インベントリを操作するNight。

 一体何を取り出すのかな? そう思って期待はすると、その期待はパリンと打ち破られた。


「ろ、ロープ?」

「ちょっと、【ライフ・オブ・メイク】はお終い?」

「これ以上は無理だ。私のスキルは一日に限度があるからな」


 取り出したのは何の変哲もない、THE・ロープだった。

 長さは充分に確保されているが、それ以上でもそれ以下でもない。

 そのせいか、ベルは不満が漏れてしまった。


 本当ならNightのスキルが活躍する場面だ。

 けれど一日に使える回数があるのは知っている。

 HPの総量を消費する【ライフ・オブ・メイク】では、これ以上のことはできない。


「諦めろ」

「諦めろって……はぁ。仕方ないわね」


 ベルはロープを掴むと、ゆっくり筏の上を移動する。

 とりあえず一周グルリとロープを回した。

 キツく縛り付けると、筏を構成する木の板を引き絞り、何とか体勢を立て直す。


「ふぅ。とりあえず応急処置ね」

「凄いベル。この筏の上を歩けるなんて」

「当然よ。これくらいしないと、的は射抜けないわ」


 ベルは弓道をしているおかげか、足腰が尋常じゃ無く強い。

 そのおかげもあり不安定な筏の上を自由に歩けた。

 水もまた入って来ちゃったけれど、これなら下流までは持ちそうだ。


「あの……」


 そんな中、雷斬がソッと手を挙げた。

 このタイミングでなんだろう?

 雷斬が珍しいなと思った私達は、視線を全て注いでしまう。


「どうしたの、雷斬?」

「あの皆さん。この状況で口にするのは少々心苦しいのですが、よろしいでしょうか?」


 雷斬はソッと手を挙げた。

 ゆっくりと申し訳なさが漂う。

 何かあるのかな? ベルは真っ先に訊ねた。


「なによ、雷斬」

「この筏は何処に向かっているのでしょうか?」


 雷斬の口から発せられた爆弾発言。

 私達は瞬きをする時間を与えられる。

 意識が振り返ることを忘れると、雷斬は更に続けた。


「その、上流から下流に向かっているのは分かります。ですが水量に変化が著しくないのは、おかしな話だと思いまして」


 雷斬に言われて気が付いた。

 確かに水嵩に変化も無ければ、水流の圧も変わっていない。

 筏は一定の水量に身を任せると、ここまで地形に阻まれつつ進んできた。


「それになにより、Aースさんの姿が無いのが気掛かりでして」


 確かにAースさんの姿を最初見た時から見ていない。

 気にしていなかったと言えば気にしていなかった。

 実際、周りを崖や谷に囲まれているから、人の姿を確認はできない。

 それはさておくとして、狼煙を上げるみたいな配慮がまるでなかった。


「あの、皆さんはどう思われますか?」


 雷斬は視線をキョロキョロ動かした。

 不安そうに私達に訊ねる。

 申し訳ないことを言った気持ちで一杯なのだろうが、そんなことより先に、私達はポカンとしてしまった。


「あっ!」

「そう言えば知らないよねー。この筏、何処に行き着くのー?」


 私もフェルノも今更だけど気になった。

 互いに顔を見合わせ、マヌケな顔をする。

 ここまで気が付かないふりをしていた。否、最初から気にしていなかった。

 筏は川を下るものだからと、勝手な固定観念に駆られていたが、今思えばこの筏は何処を目的に下っているのか知らない。


「Night、この先になにがあるのよ?」

「……」

「Night? 勿体ぶってないで、早く教えなさいよ」


 ベルはNightに催促した。

 もしかしてNightも知らないのかな?

 そんなバカな話は無いと思っていたけれど、Nightの顔色が悪い。


「もしかしてNightも知らないの?」

「……滝だ」

「「「ん?」」」


 今、“滝”って言った気がする。多分気のせいだよね?

 私達は三人揃って首を捻った。

 けれどNightは嘘を付いている様子が無く、真顔になって答える。


「この先には滝がある。つまりこの筏の行き付く先は滝壺だ」


 ……嘘じゃないらしい。

 大真面目な話らしい。

 私達は固まってしまい、言葉を失ってしまうには充分で、信じる以外に道は無かった。

 いや、この先には道なんて行く先なんて無かった。

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