◇142 カワマグロ
川に生息するマグロ?
「Night、アレはサメじゃないんだよね?」
「そうだ」
「それじゃあなんなの?」
私はあまりにも子供でバカな質問をした。
中身が全く無いし、あまりにも普遍的。
外側だけの質問をしてしまうが、Nightは教えてくれた。
「アレはカワマグロだ」
「カワマグロ?」
「そうだ。その中でも、カワサメモドキの部類に入るんだろうな」
「カワサメモドキ?」
はい、この時点で分かりません。置いてけぼりを喰らいました。
私はポカンとしてしまう中、Nightは更に詳しく教えてくれた。
「まず、この世界にはカワマグロやカワサメのように、川に生息する回遊魚は多い」
「でも川だと回遊できないよ?」
「そうだ。だから根本が違う。あくまでもマグロやサメと言った生物の総称を冠しているだけで、生態はまるで違うんだ。それが普通、あくまでも一般的なのがこのゲーム世界の標準ってことになる」
Nightの説明は単純だけどかなり難しい。
要するに現実のソレを落とし込み過ぎたらダメってこと。
この世界には川にマグロやサメがいてもおかしくないってことが現実だと理解する。
「その中でも私達を追って来ていたのは、サメに擬態したマグロ。学術的に、“モドキ”と呼ばれる種だな」
「モドキって、またややこしい」
「実際、ややこしい種は多いからな。あくまで“モドキ”を付けたのは、種として別種だった際に、既に存在している種に類似する特徴が多いせいで付ける、人間の自己の醜態以外の何物でも無いんだ」
Nightが難しいことを説明する。
要するに、サメっぽい見た目をしたマグロ。
そのせいで“モドキ”なんて呼び方をされているんだろう。
「モドキね。ふーん」
「まあ感想は出ないよね。でも、答えが判ったからかな? 恐ろしさが半減した気がする」
「実際、サメとマグロでは雲泥の差があるからな」
私だけじゃなくて、ここまでサメだと思っていたから、恐怖していた。
けれどサメじゃなくてマグロだって分かれば可愛いもの。
にはならないけれど、恐ろしさは随分と減って、私達は安心する。
「胸撫で下ろしてるとこ悪いけど、安心できないでしょ?」
ホッと胸を撫で下ろしていた私達。
そんな空気感を何故かベルが咎めた。
安心するのはまだ早いのかな?
「それじゃあなんで襲って来るのよ」
「アレは襲ってるんじゃない」
ベルが最もなことを訊ねた。
頬杖を付き、ここまでの緊張感が一気に解けている。
そのせいか、不服そうな顔が目の前にあった。
「襲って来てるんじゃない? それじゃあなに、遊んでるの?」
「それも違う。カワマグロにイルカやシャチのような発達した知性はない」
「凄く悲しいこと言われてる」
あまりにも言葉が辛辣だった。
下手したら虐めに抵触しそうで怖い。
私はそう思うと、肩を持つ気は無いけれど、カワマグロを憐れんだ。
「それじゃなにしてるのよ?」
「本能だ」
「本能!? 本能で攻撃して来てるってこと?」
「それも違う」
普通に考えれば生き物の本能的な行動が原因だ。
筏を敵と認識していて、絶えず襲ってきているだけ。追って来るのもその習性が原因かな? あまりにも単純に物事を考える。
しかし随分とNightは否定的だ。
ここまで聞いてだけど、なんとなく私は分かった気がする。
「動いてるから?」
「正解だ。カワマグロは水流に添って泳ぐ性質がある。つまり、カワマグロは決して攻撃的になって私達を襲ってきている訳じゃない」
「つまるところ、水流の先に筏があるからぶつかっているだけ、と言うことでしょうか?」
「それが真実だな。つまりカワマグロは……(ドスン!)」
カワマグロは水流に逆らわずに泳ぐ。
その進行方向には筏があった。
丸みを帯びた三角形の頭を槍のようにして、尾びれを使って水を掻く。
ドスンと筏に向かって体当たりをすると、パキンと軋む音を上げた。
「まただよ!」
「そういうことだ。このマグロ、単純に筏にぶつかっているだけだな」
その度にとんでもない衝撃が伝わる。
筏の方が壊れるのが先か、マグロが死んじゃうのが先か。
どちらにせよ、答えが分かれば対処は簡単だ。ここは普通に試してみよう。
「雷斬、オールを動かしてくれ」
「分かりました。どうしますか?」
「少し道を開けるだけでいい。きっとこれで変わる筈だ」
Nightは雷斬に指示を出す。
ここまで投げ出していたオールを再び手にする。
水をソッと掻くと、筏は軌道を変えた。少しだけ真ん中に広がりを見せ、マグロの進路を確保する。
「これでどうでしょうか?」
「充分だ。これで変化が出る筈……」
雷斬はオールを使って筏を左右片方に寄せた。
そのおかげで真ん中の水路が開く。
マグロの動きをNightは目で追うと、背びれが水を掻いた。
「あれ、マグロが勝手に行っちゃうよ?」
「成功だな。やはり進路妨害をしていたのは私達だったらしい」
マグロは私達に興味を示さない。
ましてや筏を襲う素振りもない。
真っ直ぐ泳いで行ってしまうと、筏を置いて行ってしまった。
「ふぅ。これで筏が壊されることは無さそうね」
「ですがアウトリガーはボロボロですね」
ベルもようやく安心感を得られたらしい。
種族スキルを使う必要も無くなる。
ギリギリ筏が沈まずに済むと、プカプカ浮かんだ。
とは言え雷斬の言う通り、アウトリガーはボロボロだ。
ただでさえ穴が開いている。
アウトリガー自体は、沈むのも時間の問題だった。
「うわぁ、水が……」
「流石にスキルを使うのは禁物だな」
「あはは、私が使うと重くなるもんねー」
この状況だとスキルもまともに使えない。
できることがかなり制限を掛けられてしまった。
「とは言え、スキルを使う必要は無いな。雷斬、このままゆっくりだ」
「はい、分かりました」
Nightはオールを雷斬に任せる。
随分と慣れたからか、オール捌きは見事な物。
筏はゆっくりとだが、安定感を得る。
「このまま何事も無く終わればいいね」
「だからフラグは止めろ」
「ごめんなさい」
またしても私はフラグを立てちゃった。
だけど別に何か起こる訳でも無い。
周囲に敵の影は無く、筏は少しずつ水没しつつも、何とか持ち堪えていた。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




