◇141 サメじゃない?
それを言ったらお終いよー!
「ここまでくれば安心だね」
「そうだねー。後は岸に停まるだけかな~?」
私達は無事にサメを振り切った。
フェルノの活躍もあり、筏は誰にも留められない速度を実現。
そのおかげでとんでもない目には遭ったけれど、こうして無事を得られた。
「安心するのはまだ早いぞ。ここは川、四方を囲まれているんだ」
「大袈裟だなー。また振り切ればいいでしょー?」
「そんな単純な話じゃない。筏にだって耐久値はあるんだ」
確かにここは水の上。河をプカプカ浮いているだけだ。
つまりは逃げ道は無いし、逃げ場が確保されていない。
いざ追撃されればお終いなのは分かる。
おまけにフェルノは呑気だった。
だけどそれを打ち砕くように筏の方が持たない。
ピキン! 何だか聞きたくない音を聞いたけど、きっときのせいだよね?
私は首を横に振って聞かなかったことにする。
「この筏も持たないか」
「止めてよ、縁起でもない。そんなこと言ったらまた」
「それが一番のフラグだ」
「あっ」
確かに自分で言っておいて気が付いた。
口元に手を当てると、目をハッと見開く。
「ま、まあ、大丈夫だよね?」
私は苦笑いを浮かべた。
自分でフラグを立てて置いて回収したりしないよね?
そんな偶然は起きたりしないと高を括った私だったけど、事件はやっぱり起きた。
ドーン!
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
筏が下から突き上げられた。
ドンと激しく軋み出し、体がフワリと浮き上がる。
一体何が起きたのかと、私達は目を見開く。
「えっ、ええっ? なにが起きたの」
「下から突き上げられたな」
「下から!? そんなバカな話ある訳ないでしょ。だってちゃんと逃げ切った筈で……」
ベルが動揺してしまう。
それは私も同じで、フェルノがアレだけの速度を実現した。
私達だって酷い目に遭ったのに、追い付かれたなんて信じたくない。
「だが事実だ」
「そのようですね」
「納得してんじゃないわよ!」
Nightと雷斬はしみじみと事実を受け入れた。
私もベルも納得したくない。
けれどそうこうしている間も背びれが飛び出し、筏をサメは攻撃する。
ドーン!
「うわぁ、まただ!」
「ちょっとフェルノ、もう一回逃げきれないの!?」
「逃げきれないよー。だって、筏が持たないんでしょー?」
「その通りだ。あれ以上の速度で筏を走らせれば、簡単に真っ二つだぞ」
こんな時に限って現実的だ。
ベルは悔しい顔をすると、私も如何しようと考える。
意識をクリアにし、今やるべきことはなにか。逃げること……それは簡単だ。
だけどこのサメは何処までも追って来る。それなら逃げたって無駄だってすぐに分かった。
「こうなったら!」
「なにをする気だ、アキラ?」
私は筏の後方に走る。
振り落とされないように体を支えると、短剣を抜いた。
一体何をするのか。そんなの決まってる。
「えいっ!」
私はサメの背中が見えた瞬間、短剣を突き刺した。
ツルンと短剣の剣先が弾かれてしまいそうになる。
そのまま滑って落ちそうになる中、短剣を何とか突き刺すことに成功する。
ドーン! ドーンドーンドン!!
「やった。これなら……うわぁ」
「アキラさん!?」
サメは暴れ狂った。それもその筈でHPが削れる。
暴走して体を筏に擦り付けると、私は効いていると喜んだ。
その拍子に足が滑りそうになると、雷斬が腕を伸ばし、私のことを引き寄せた。
「(ストン)おっと」
「痛たたぁ。ごめんね、雷斬」
「大丈夫ですよ、アキラさん。それより無茶をしないでください」
「ごめん。でもこれで……」
私は雷斬にもたれかかった。
振動が衝撃として全身に伝わる。
お互い怪我はしなかったけど、体を強くぶつけてしまった。
「そうだな。少しは時間も稼げただろ」
Nightが私の成果を褒めてくれる。
サメは狂ったように水の中で暴れる。
距離を稼ぐことに成功すると、Nightは水の中にガラス製の箱を落とした。
「さて、一体正体は……はっ?」
何処からともなく取り出した箱。
その正体はガラス製で、水中の様子を確認できる、所謂箱メガネって奴だ。
初めて見た私は雷斬にもたれかかったままで、何故か驚く素振りを見せるNightに訊ねた。
「なるほど。そういうことか」
「Night?」
「なにか分かったの?」
水中の様子を始めて確認した。
するとNightの顔色が変わる。
口角が緩み切っていて、覇気が無くなった。
「残念なお知らせだ。アレはサメじゃない」
「……ん?」
急にNightの口振りが軽くなった。
全然“残念”な感じがしない。
もっとこう漠然とした“満足”な気がする。
こんな顔をするってことは、相当なことだ。
しかも“サメじゃない”とか言ってる。
そんなバカな。普通に呆れるけれど、一応繰り返す。
「えっ、もしかして、サメじゃない?」
「そうらしいな」
急に話が百八十度変わった。
私はポカンとしてしまい、たどたどしい口調になる。
「それじゃあ一体なんなのよ? うわぁ」
ベルは納得ができない。
もちろん私も同じだ。
だけどNightは無理やり納得させることにした。
何処からともなく双眼鏡を渡す。
ベルは咄嗟に受け取ると、表情が歪んだ。
まさかと思いつつ、川の中に視線を落とした。
「ここまでやったのよ? サメじゃないなんてこと……はっ?」
ベルは納得ができなかった。
それは声として発せられると、マヌケな声を上げる。
もしかしなくても、サメじゃないの確定だ。
「ちょっとどういうことよ! 顔が全然違うじゃない」
「顔が違う?」
「ベル、一体なにを見たのですか?」
顔が違うってことは、獰猛なサメの顔じゃないってことだ。
凛々しい生き物の顔じゃない。一体どんな顔?
雷斬も興味を抱くと、ベルの口から出た言葉は突飛だった。
「どうもこうもないわ。アレ、マグロじゃない」
「「マグロ?」」
「マグロー?」
何を言ってるんだろう。全然話が見えない。
私達はポケッとしてしまうと、ベルは嘘を付いていない。
顔が正直で、Nightに呆れ顔を浮かべている。
「マグロから逃げてたの、私達?」
「そうらしいな」
「そうらしいなって。そんなのってないわよ」
ベルはつい項垂れてしまった。
私達は顔を互いに見合わせる。
これは真実なのかな? まだ夢の中にいるみたいだ。
「Night、マグロって?」
「事実だ。アレはサメなんかじゃない、正体はマグロだ」
「マグロ?」
この雰囲気、如何転んでも話が変わることは無い。
私達を追っていた、追われていたのはサメじゃなかった。
正体はマグロ。マグロ……か? 私はイマイチな反応になる。
そんなのは誰だって当たり前の反応だ。
なにせ、本当に怖かった。
死んじゃうと錯覚するくらいには迫力があった。
それをマグロだとは言いたくないし、言わせない。
だけどどのみち変だよね。
サメが川にいるのも不思議だけど、回遊魚のマグロが川にいる方が普通じゃない。
私は理解が追い付かないけれど、Nightはやれやれな顔をしている。
やれやれなのはこっちだよとは、流石にツッコめなかった。
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