◇139 川に現れたサメ
皆さん、サメに襲われた経験ありますか?
私は無いです。
だって海に行かないから。
「はぁ……とりあえず、なんとかなったね」
私は安堵して胸を撫で下ろす。
とは言え未だに波に揺られたまま。
気を抜いたら筏から簡単に振り落とされそうだ。
「まだ助かってはいないだろ」
現実を突き付けるNight。
確かにまだ助かってない。
私は言葉を失い、ゾクリとする。
「そうよ。私、ずっと風を招き続けるなんてごめんよ」
「そうだよね」
「そうよ。大体集中力が持たないわ」
確かにベルのやっていることは大概だ。
実際、ちょっとでも気を緩ませたらお終い。
筏は簡単に持っていかれるだろう。
「頑張って、ベル」
「頑張ってって……また他人事ね」
「うっ……」
確かに「頑張って」は言っちゃダメな言葉だ。
私は自分の口にチャックする。
だって他人を傷つける言葉だからだ。
「ベル、ひねくれていますね」
「そんなことないわよ」
「そんなことありますよ。もう少し冷静になって……と、そんな話は後ですね」
雷斬はベルのことを宥めようとする。
けれどベルは否定的になった。
そんなベルにうんざりしたのか……否、もっと別の意味で、雷斬は話を切る。
「なによ、自分から話し出しておいて」
ベルはムッとした顔をする。
確かに雷斬から話を切り上げるのは珍しいかも?
私はなにがあるのかな? と思って意識を切り替える。
不意に雷斬の視線が気になった。
「この先になにかあるの? ……ん?」
「アレは……」
双眼鏡片手に、Nightが何か見つける。
私も目を凝らしてみると、何だか川に似つかわしくない物が見える。
水面から顔を出しているのは、明らかに“背びれ”だ。
「あれ、背びれだよね?」
「そうだな。しかも黒いな」
「うん。後分厚いよ?」
水面から顔を出しているのは背びれ。
しかも黒くて分厚い。
厚みがあるってことはそれだけ推進力に繋がる。
「分厚いってことは、それだけ水の抵抗を面で受けて安定できるんだ」
確かに水の抵抗を受け流せば安定する。
それだけ推進力に繋がるのは間違いない。
私は確かにと首を縦に振ると、背びれがドンドン近付いて来ていた。
「ねぇ、なんだか近付いて来てない?」
「そうだな」
「そうだなじゃないよ! アレ、絶対よくないよね?」
私の直感は当たっている。
いや、現実がそう言っている。
非現実の現実が押し寄せると、私はドクンと背筋が弾む。
「うわぁ、来た!」
「まるでパニックスリラーだねー」
確かに有名なサメ映画はいっぱいある。
あの黒い背びれがサメっぽい。
いや、川にサメがいる訳ないか。
「パニックスリラーか。サメ映画が有名だな」
「でも川にサメはいないでしょ?」
「川にサメか。まぁ、あり得るだろうな」
「あり得る? えっ、いるの!」
「当り前だ。食われて死んだ奴だっているんだぞ」
それは聞きたくなかった。
今、そんな恐怖が押し寄せている。
私は恐怖に駆られると、自然と固有スキルを発動しようとする。
「おい、お前がスキルを使うと、筏が重くなる」
「あっ、そっか……」
確かに私のスキルは武装だ。
つまりその分重量が増す。
私は仕方なくスキルを解いた。
「大丈夫よ。もし襲って来るなら、さっさと来ているでしょ?」
「そうだけど……」
「それにこれだけ大きな筏よ? 襲って来る?」
「来るだろうな」
「「はっ!?」」
こんなに左右にも大きな筏だ。
襲われる心配はないと思っていた。
けれどそんな甘くない。
「筏ではないが、サーフボードをカメと見間違えて襲う事例はよくあるぞ」
「……」
「どうした? 威勢は何処に消えたんだ」
ベルは黙り込んでしまった。
集中力を余計な所に割かないように気を付ける。
「考えすぎだ。人が思う以上、悪いことは起きない物だろ」
「そうだけど……あれ?」
「いなくなってるねー」
目の前肩背びれが消えた。
一体何処に行ったの? この川から消えた訳じゃないけど、何処に消えたのか分からない。
「もしかして、いなくなった?」
「あり得ないな。恐らく……いや、マズい!」
Nightが急に焦り出す。
さっきまで冷静だったのに、急になに?
私は突然の反応に驚いた。
「雷斬、ベル、スピードを上げろ。振り切るぞ!」
「「えっ?」」
雷斬もベルも理解が追い付かない。
突然の判断に首を捻る。
しかしNightには考えがあり、顔色が悪い。
「どうしたの、Night?」
「忘れたのか、今この川にはなにが撒かれている?」
「はっ? もしかして……」
「そうだ。興奮剤……コンドルが襲って来たのもそれが原因だ」
全ての点が一つに繋がる。
自然を利用すること。
全てはここに帰着すると、私も理解ができた。
コンドルがアレだけ好戦的だった理由。
それは気化した興奮剤が風に乗り、吸い込んでしまったせいだ。
そのせいで興奮状態になると、私達を獲物だと思い襲って来た。
それと同じことが川の中でも起こっている。
あのサメっぽい何か、多分川に上って来たんだろうけど、興奮剤を体中に浴びている。
つまりは最大の敵になった訳だ。
そう、興奮剤の恐ろしさ。全ては仕組まれていたってこと?
「やってくれたな、ギルド職員達」
「うーん、ミーNaさんが悪気があってそんなことしたのかな?」
「もしかするとプレイヤーの助言でしょうか?」
「どちらにせよ悪趣味だ。いいな、振り切れるな!」
Nightは雷斬とベルに無理難題を押し付ける。
しかし二人の動きは機敏だ。
それが分かった段階で無言になっている。
「二人共聞こえてるのかな?」
「聞こえてるでしょー。それで、Nightは……あれ?」
Nightも残ったHPの総量を消費する。
今日分の固有スキルの代償を全て払い切ってしまう。
これでもう何もできない。それでもいいから急ぎ打開策を練る。
「でも何処に消えたのかな?」
「えっと、多分だけど、下」
「下!?」
消えることができるのは筏の下しかない。
そう思ったのも束の間。
強い振動が筏の下から伝わると、押し上げられてしまった。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
私とフェルノは叫んだ。
けれど筏が転覆しないようにベルがなんとか支える。
風で無理やり川に戻すと、バシャンと水飛沫が上がる。
「もう、なんでこんな面倒になるのよ!」
「全くだな」
ベルもNightも嫌気が差していた。
けれどスリルは満天だ。これ以上に無い。
川の中から姿を現わす黒い背びれ。それが後尾についてしまうと、私達は追われる立場になった。まさしく競争が始まった。命懸けのだけど。
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