◇135 今度はコンドルですか!?
なんでコンドルを敵にしたのか分からない。
「ねぇみんな……」
「言うな」
私はこの状況を口にしようとした。
筏が完全に流されているのだ。
そのことをNightは頑なに言わせないようにする。
「でも、これってさ」
「言わなくても分かってる」
そうだ。この状況、全員言わなくても分かってる。
だから一々現実を突き付けられるのを嫌った。
そのせいか、全員の言葉が閉ざされる。
そんな状況でも、Nightは作業をしていた。
インベントリからよく分からないたくさんのアイテムを取り出す。
それを組み合わせると、得意の固有スキル【ライフ・オブ・メイク】が火を吹く。
「なに作ってるの、Night?」
「モーターだ。電源付きのな」
「「「はっ!?」」」
一気に世界観がぶっ壊れた。
私達は雷斬を除き声を上げてしまう。
もちろんこの感情は“怒り”だ。
「最初からそれでよかったよね?」
「世界観を大事にしようと思ったんだ。だが緊急事態に瀕した今、そうも言っていられないだろ」
私は元も子もないことを口にした。
けれどNightは否定的で、今になってようやく作業を始める。
きっと自重していたんだ。こんな時だけ真面目にならないでよ!
「なんだろう。Nightの口から似つかわしくない言葉がいっぱい出てる気がする」
私は最低な言葉を吐き出したが、Nightは気にしない。
今まで世界観を壊し続けて来た当の本人がこの調子だ。
もう訳が分からなくて、頭を抱えてしまう。
「よし。完成したな」
そうこうしている間に完成したらしい。
意外に小さいのは愛嬌……というより容量オーバーだからだ。
これで上手く行くのか逆に不安。
私達は固唾を飲んで見守ると、Nightは筏の後方にモーターを取り付けた。
そのままスイッチをONにすると、モーターが回転。取り付けたプロペラがグルグル回転する。
「起動したな」
モーターは壊れてなかった。当然そこには信頼がある。
モーターが回転すると、取り付けたプロペラも回る。
水を一気に押し流し、小さな気泡が浮かび上がった。
「凄い。推進力が……って!」
「戻ってどうするのよ!」
プロペラが水を掻いてくれる。
そのおかげでドンドン前に……に行かない。
ゆっくりとだけど、川を上り始めた。
「落ち着け。雷斬、ゆっくりオールを回転させろ」
「こうでしょうか?」
「そうだ。上手いぞ」
雷斬に指示を出すと、流れが急な中、少しずつオールを操る。
クルクルと向きを頑張って変えようとすると、流れに逆らってくれるプロペラのおかげか、動きがややスムーズだ。
「おっ、前が戻った!」
「あはは、これで進めるねー」
「って、オール要らないんじゃない、コレ?」
筏が少しずつ向きを変える。
巧みなオール捌きのおかげか、どんぐり形状が前になる。
プロペラの推進力も加わり、オール無しでも進んでいた。
「確かにこれじゃあ、レジャーじゃないよね?」
「私が改造したからな。試乗の意味がない」
私は気が付いてしまった。これは本来の形じゃない。
何せNight改造してしまったから。
本人もそれを自覚していた。これって規約違反じゃないのかな? 規約は無いけど。
「それって元も子もないんじゃ……」
「余計なことは言うな」
「ごめんなさい」
私はNightに黙らされてしまった。
だけどこれだとミーNaさん的にはよくないと思う。
次に体験する人が大丈夫なのかなと不安になってしまった。
「まあいっか」
「いいよいいよー。私達は楽しも―」
「そうだね。もう心配は……ん?」
正直もうこうなったら楽しむしかない。
私達に取り残された道を進むと、ヘンテコになったレジャーを遊んだ。
「どうしたのベル?」
「いや、なんだかまだありそうよ」
「ありそうって?」
「一悶着」
ベルの顔色が芳しくない。
何かあったのかな? しかも一悶着とか言ってる。
気味が悪くて私は目を逸らす。
「一悶着ですか? 一体なにが……アレは」
「鳥だな。コンドルか?」
「「コンドル!?」」
ベルに合わせ雷斬も視線を配った。
すると川の間を挟み込むように広がる崖。
そこに幾つもの鳥の影がある。Night曰くコンドルらしい。
「初めて見たよ」
「そうだな。私も実物を見るのは二回目か」
「二回目?」
「そうだ。アメリカに行った時、両親に連れられて……今はそんなことはどうでもいい」
確かにどうでもいいけど、気なる情報だった。
だけどNightが海外に言っても不思議じゃない。
それくらい身近な存在だからこそ、驚きもそこまで湧かなかった。
「凄い。やっぱり大自然だ」
「当然だ。ここは普段立ち入りを制限されているリュウシン大渓谷だぞ」
「それはそうだけど、あんなモンスターもいるんだ」
私は大自然の迫力に感化された。
このリュウシン大渓谷はいわゆる自然保護区。
そのせいかそのおかげか、珍しいモンスターも多数いる。
私達がここにいられるのも特別な許可を貰ったからで、自然と興奮してしまう。
「カッコいい!」
「そうだね。大きいよね」
「私も飛びたいなー」
「お前は飛べるだろ」
「そうだっけ? あんまり飛んだ覚え無いけどー?」
「それはお前の種族スキルの使い方が甘いだけだ」
フェルノは空に憧れていた。いや、多分カッコよかったんだ。
そのせいかコンドルから視線が外れない。
そんなフェルノを揶揄するのはNight。
<ファイアドレイク>なら飛べるらしいけど、そんな所まともに見てない。
だけど飛べたらきっと気持ちよさそうだ。
「ですが、なにか妙ですよ」
「そうよね。まるで待ち構えているみたい」
「カラスってこと?」
「バカ。そんなこと言ってないけど……そうよね?」
ベルに叱られちゃった。確かにコンドルとカラスは違うよね。
私は反省するけれど、ベルは何処かはにかむ。
唇を噛むと、弓をいつでも取り出せるように準備する。
「ベル、妙に警戒していますね」
「そりゃそうでしょ? この中でまともに遠距離仕えるのは誰よ?」
「ベルだけですね」
「でしょ? だから私が警戒するのよ……そう、警戒しましょうね」
ベルの口調と雰囲気が一気に変わる。
冷静沈着な弓使いが誕生する。
私達は目を見張ると、ベルはいつでも弓を使えるように、矢を番えた。
「ベル、なんだか顔が濃いわよ?」
「そうでしょうか?」
「うっ、やっぱり気持ち悪いよ」
何だか怖いな。だってコンドルはこっちを見てる。
明らかに獲物を見定める様子だ。
不穏な気配を感じる中、筏はプロペラの力を借りて進んだ。
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