◇133 筏に乗ってみよう
これははたして筏なのか?
「A-スさん、何処に向かっているんですか?」
私達はA-スさんを先頭に歩いていた。
合流地点から少しだけ下流に向かうと、A-スさんは口にする。
「筏だよ。筏。アタシ達の船」
「「筏?」」
私とフェルノは声を出す。
ここに来て、ファンタジー味が一層強まる。
だけど感嘆と言えば簡単に紐づく。私達はA-スさんに続くと、何か見つけたのか、A-スさんは指差す。
「アレだぜ!
「「アレ?」」
指差す先にあったのは岸に寄せられた船。
しかも木製で、職人が手造りした感満載だった。
「この筏ですか!?」
「そうだよ。その筏だ!」
A-スさんに案内されて見つけたのは、そこそこ大きめの筏だった。
しかし、瞬きをしてしまう形をしている。
「い、筏ですね。ですが……」
「少し違うわね」
「確かにー」
何が違うって全体的に違う。
まず先端がどんぐり型。水の抵抗を上手く受け流してくれそう。
それと左右にヘンテコな何かが棒で繋がっている。コレはなんだろう?
「ねぇ、これはなに?」
「ん? これはよぉ」
「アウトリガーだな。カヌーやサップを安定させるための浮きだ」
A-スさんが説明しようとするが、Nightが言葉を奪った。
アウトリガー? 何だか聞いたこともある。
だけど筏と言うより、カヌーやサップを安定させるものを積んでいるんだ。なかなかハイテクに仕上げている。
「おっ、知ってんのか船員」
「船員?」
「おうよ。アタシは船に乗る奴らを船員って呼ぶようにしてんだ」
ますますアトラクション感が強まった。
ついつい言葉に出してツッコんでしまう。
「本当、何処かで聞いたようなアトラクションだよ」
「あはは、まあいいじゃんかー」
「人の認知はイメージに結び付きやすいからな」
Nightの言っていることは間違ってない。
人がイメージしやすいってことは、それだけ親しみやすい。
結びつくものが近ければ近い程、関心は寄り惹くことができる。
そんな所かな? 私はちょっとだけ頭を使った。
「それは筏じゃないんじゃないかな?」
「気にすんなよ。もうこれで行くしかないんだからさ」
今の台詞、もの凄く向こうサイドの言い分に聞こえる。
きっと広告をそれで作っちゃったんだ。
今更変更ができない仕様のせいか、カヌーを筏と言い張る。
「とりあえず、乗って大丈夫かな?」
私は不安になりながら、筏に足を掛けようとする。
けれどちょっとだけ怖い。
私は臆病になりそうだったけど、A-スさんに背中を押された。
「ほらほら、とっとと乗ったー」
「うわぁ!?」
絶対にやっちゃいけないことをされた。
私は背中を押さえ、筏に足を引っかける。
転びそうになった瞬間、体重移動で何とか耐える。体幹、鍛えておいて良かった。
「なにするんですか、A-スさん!」
私は踵を返してA-スさんに怒鳴り付ける。
危うく怪我をするところだった。
しかしA-スさんは意外そうな顔をする。もちろんA-スさんだけじゃない。
みんな私の顔を見て、ドン引きしていた。
「あ、あれ?」
「アタシさ、押したは押したけど、すぐに引き寄せる気だったんだぜ?」
「押してるじゃないですか!」
「ちょっとしたジョークだよ」
「ジョークの粋じゃないです!?」
これはジョークで済ませられない。
私は本気で怒ってしまうと、A-スさんは頬を掻く。
もちろん悪気が……あったんだろうけど、他のみんなの顔が気になる。
「それで、みんなはどうしたの?」
「いや、お前は相変らずどんな鍛錬を積んでいるんだ?」
「鍛錬って?」
「今の体幹よ。筏の上で、しかも初見で立ち上がってクルンと振り返る。いくら岸だからって、水の上なのよ? 錨もなにもないのに、そんなのできる方がおかしいわ!」
完全にドン引きされていた。
私は普通にやっただけなんだけど、これは普通じゃなかったのかな>
私はモジモジしてしまうと、フェルノが次に筏に乗る。
「よっと。うおっ、結構安定するねー」
「当然だ。なんのためのアウトリガーだと思ってるんだ」
「さぁ? 安定させるためでしょー?」
「転覆防止にも繋がる。私達の命のリスクを軽減してくれるんだぞ。ありがたく思え」
乗せられている身なんだから、ありがたいとかじゃない気がする。
私は口が裂けても言えないので、ここは押し黙る。
その後はNightにベルとゆっくり乗り込む。意外に安定していて、丈夫そうだ。
それから雷斬が最後に乗り込もうとした時、A-スさんが何か手渡す。
「ほい、コレな」
「コレは? オールですね」
「「「オール!?」」」
確かにこの世界に科学文明は無い。
私達のギルドホームとかNightがおかしいだけ。
これが普通だと理解し、雷斬はオールを受け取った。
「オールですか。初めて使いますね」
「おっ、そうなのか? それはなこうやって」
A-スさんは体を使ってレクチャーしてくれた。
雷斬は真面目にレクチャーを受け、体に染み込ませる。
流石は剣を嗜んでいる雷斬だ。とにかく覚えが早い。
「なるほど。覚えました」
「早っ!?」
「よし。一人覚えたらなんとかなるよな。それじゃあ全員分だ!」
A-スさんは満足すると、残ったオールを私達にも手渡す。
全員の手元に配られると、正直レクチャーして欲しい。
けれどそんな時間は無いのか。A-スさんはノリと流れで戦う。
「それじゃあオールを使って行ってみようか!」
「いきなりですか!?」
「おうよ。そこの船員、岸からオールを使って離れろ! 錨を上げろー」
A-スさんに促され、雷斬は「はい」と声を出す。
オールを使って近くの岩を蹴ると、筏がゆっくり動く。
私達は岸から離れ、いきなり川の中央に寄る。
「うわぁ、動いちゃった。動いちゃった!」
「落ち着け、アキラ」
「落ち着けないって!」
これで逆に落ち着いていられる方がおかしい。
むしろ色んな意味でパニックになる。
例えば私みたいに初めての経験でドギマギしてしまうように。
「あははあははあはは、楽しいー!」
「フェルノさん、楽しそうですね」
「うん。だって揺れてるんだよ、今にも転覆しそうなんだよー」
「ちょっと、縁起でも無いこと言わないで」
フェルノは色んな意味で楽しんでいた。
とにかく笑顔で、この状況を楽しんでいる。
ワクワクが止まらないせいか、胸の騒めきが止まらない。
「はぁ。とりあえず気を付けて進むぞ」
「それじゃあ楽しんでな。ヨーソロー」
「絶対に違う気がする」
ここは海じゃない。だけどA-スさんは海に捉える。
そのせいか何所までも海賊っぽいレジャーにする。
本当にアトラクションのスタッフのようで、私達は変な顔で川を下った。
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