◇131 安心感が無い
ブチ切れ案件。
「……ってことになっちゃって」
「「なっちゃってじゃないだろ」じゃないわよ」
私はギルドホームでみんなに集まって貰った。
色々あったけど、ミーNaさんからの頼みごとを引き受けちゃった。
そのことを伝えると、やっぱり怒られた。
特にNightとベルはカンカンだ。
「お前、勝手なことをするな」
「そうよ。私達にも一言言ってからにしなさいよ」
「ごめんなさい」
私はなんでか謝っちゃった。
別に私が悪い訳じゃないのに。
「まぁまぁ、いいじゃんかー」
「「よくない!」」
フェルノも私の味方をしてくれる。
元を辿れば、フェルノが引き受けた依頼だ。
最後ミーNaさんも渋ってたけど、結局フェルノのせいだ。
「大体お前が勝手なことをしたからだろ」
「えっ? 私が悪いのー?」
「お前の性だろ」
Nightは呆れて言葉を失う。
けれどフェルノは何も分かってない。むしろ自分が悪いなんて一切思ってない。
呆れちゃうのは昔からだけど、フェルノはにやけている。
「でもさー、楽しそうじゃない?」
「楽しいだと? 危険の間違いだ」
「危険ってー?」
「お前、試乗試験も碌にやってないようなレジャーをしたいと思うのか?」
「したい!」
「バカだな、コイツ」
流石にフェルノのバカさ加減が分かって来たらしい。
顔に手を当て、嘆いてしまうNight。ご愁傷様。
私は手を合わせると、ジロッと睨まれる。
「親友ならなんとかしろ」
「無理だよ」
「無理なのか。まぁ仕方が無い。ここは恩を売っておくことにするか」
最高に良い切り替えを見せるNight。
私は惚れ惚れするも、状況が状況だ。
Nightは諦めた顔をすると、面倒そうに話を訊く。
「それで、一体どんなレジャーなんだ?」
「えっとねー。川下り」
「……ん?」
Nightは固まってしまった。
そうだよね、絶対そうなるよね。
私も同じことを思ってしまうと、コクリと首を縦に振る。
「他にないのか?」
「ないよー」
「……それはスリルだな。試乗試験もしていない川を下るなんて」
「いや、絶対にヤバいでしょ? 私達のこと、なにも考えて無いでしょ」
「ですね」
ここで雷斬も始めて声を上げた。
確かにそれは間違ってない。
私達はここから恐怖と戦うことになる。そう、得体知れない“安心”が欠落した地獄を。
「とにかくやるからには生き残ることだけ考えるぞ」
「なんだか、違うベクトルの話してない?」
「そうだな。だが、下手に危険な真似をして心身に影響が出るのも問題だろ」
「「「確かに」」」
下手なことになれば、心身に影響が出る。それがこのVRゲームの特徴だ。
それに対して、保証なんて一切無い。そう言う契約だ。
私達は完全にテスターになってしまった事実をしかと受け入れると、面倒な顔をする。
「なんだかな」
「お前が言うなよ」
「ごめんなさい!」
だからなんで謝らないといけないんだろう。
私だって被害者なのにと思い、辛い気持ちになる。
だけどこの責任はミーNaさんにある。今頃くしゃみでもしてるんだろうなと、ちょっとだけ呪った。
「はくしゅん!」
ミーNaさんは仕事中に珍しく咳が出た。
鼻がムズムズしたとか、喉が引っかかったとかじゃない。
勝手に何の変哲もないタイミングの咳に唖然とする。
「おかしいですね。何処かで私の噂でもしているのでしょうか?」
そんな迷信を信じざるを得ない。
瞬きをして手にした資料をギュッと握ると、心の中で唱えた。
(お願いしますね、〈《継ぎ接ぎ》〉の皆さん)。完全に他力本願してしまうミーNaは、フェルノの提案を如何丸め込むか、必死に考えるのだった。
「なるほど、それは面白い変化ですね」
私は社長室で資料を手にしていました。
今回持って来てくれたのは、エンジニアの弧鉈さんだ。
受取った資料をVRドライブ越しに確認すると、私は笑みを浮かべました。
「AIの進歩をこの瞬間に目撃しています」
「ですね~。エンジニアやって良かったですよ」
「そうですね。これは私達の特権ですね」
確かにこの変化はAIの進歩によるもの。
たくさんのプレイヤー(人間)と交流することで、また新しい変化を生みました。
「それにしても、かなり無茶をしましたね」
「あはは、それはNPC達に言ってくださいよ」
実際、今回の資料によると、提案は無理難題。
けれど現実でもあるような問題に良い切り口を付けてくれます。
私は賛辞を贈るのですが、やはり許せない面もあります。
「それにしても、かなり危険なことをしていますね」
「あはは、確かに。私も同意見ですよ」
「私の耳に入っておいてよかったです」
眼鏡をクイッとさせると、弧鉈は小さなパソコンを取り出した。
左手で支えると、早速権限を利用して、CUの世界にアクセス。
プレグラムを少し書き換えるらしい。
「流石は弧鉈さんですね。私の言いたいこと、理解してくれましたか」
「もちろんですよ~。安心安全がモットーですもんね」
「そう言う訳ではありませんが、最低限慎みたいですね」
私は弧鉈さんがエンジニアとして、プログラマーとして、作業をしている姿をアシストしました。
弧鉈さんの腕は確かなものです。私も安心します。
複雑なコードを打ち込んでいく中、私もパソコンを介して、プログラムを書き換えます。
「うわぁ」
「どうされましたか、弧鉈さん?」
突然弧鉈さんが声を上げました。
珍しいこともありますね。
私は首を捻ると、弧鉈さんに嫌味を言われました。
「社長~。私の仕事取らないでくださいよ」
「仕事を奪ってはいませんが?」
「奪ってますよ。だって、私と同速度でタイピングしてるじゃないですか~」
確かに私は弧鉈さん以上に正確かつタイピングも早いです。
けれどそれ以上でもそれ以下でも無いのです。
私は笑みを浮かべると、弧鉈さんと共に修正を終えました。
「(パチッ)! これで終わりですね」
「ですね~。いや、このまま放置してたらマズいですよね」
「そうです。とりあえず、一度私達で見に行きましょうか」
「OKで~す」
私と弧鉈さんは一緒にCUにログインすることにしました。
時刻は深夜。今から三時間後に、緊急メンテナンスを行うことにします。
私と弧鉈さんはその間に修正パッチをインストールしつつ、ダウンロードして貰います。
今回修正したもの。それはほとんどプレイヤーの行き来が無い場所。
リュウシン大渓谷の調査を決行する私は、弧鉈さんと共に、レジャーの試運転をするのでした。
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