◇129 ギルド自慢のレジャー
レジャーなのかアトラクションなのか、それともこれはなんなのか?
「ふふぅーん」
スタットの街のギルド会館。
そこは特に巨大なギルド会館の一つであり、スタットの街のシンボルの一つ。
今日もたくさんのプレイヤーやNPCが出入りする中、珍しい格好をした少女が参る。
「おっ、ここだねー」
頭の上で腕を組んでいる。
笑顔を貼り付けた顔を浮かべ、一体何を見ているのか分からない。
けれど愉快が満点。とても派手なオレンジを基調とした服を纏っていた。
「よいしょー」
そこまで力を入れなくてもいい扉の開閉に無駄な労力を加えました。
流石にバカバカしい。と思ってしまうのも必然ですが、周りを歩くプレイヤーは一部、視線を奪われます。
「あれ?」
「あの人って、確かAIの……」
「知ってる。オレンジさんだ!」
彼女の正体は、CUが誇るAIナビゲーターの一人。
名前はF=オレンジ。
イメージカラーはオレンジで、とにかく元気がいい。それが何よりも取り柄だ。
そんなF=オレンジが如何してギルド会館に足を運んだのか。
もちろん決まっている。
意味の全くない視察だ。
「うーん……これをこうしたらよさそうですね」
F=オレンジの視線に一人のNPCが止まる。
彼女の名前はミーNa。スタッとのギルド会館で忙しなく働くNPCの一人。
かなり人気がある存在として認識していた。
「なにやってるのー」
「あっ、おはようございます。えっと……貴女は?」
「そんなことどうでもいいからさー。ねぇ、なにやってるのー?」
ミーNaは声を掛けられたので、すぐさま応対する。
けれどミーNaはF=オレンジのことをあまり知らない。
恐らく初見の筈なので、丁寧にテンプレートをなぞった。
「硬いね、君」
「あ、あの、貴女は?」
「私のことはどうでもいいよー。でさでさ、なに見てるの?」
F=オレンジは自分への興味を一切抱かせない。
完全に談笑しに来た子供のふりをする。
するとミーNaも安心したのか、周りに人が居ないこと、並んでいるプレイヤーやNPCが無いことを確認し、丁寧に子供をあやした。
「えっとですね、これは当ギルドが企画しているイベントなんです」
「イベント?」
「はい。この場合はレジャーと言うべきでしょうか? 夏季限定のレジャーを企画したのです」
何やらワクワクする言葉がたくさん出てきました。
F=オレンジはそれを聞いた瞬間、目をキラキラと輝かせます。
オレンジのショートカットがキラリと光ると、ミーNaは目を奪われます。
「すみませんが、当ギルドでのスキルの発動は……」
「これスキルじゃないよー。でもいいねいいね、なんかいいね!」
ミーNaは注意しようとするが、F=オレンジがそれを遮断した。
代わりにミーNaが持っていた紙を取り上げる。
一瞬の出来事に目が追えない。いつの間にか手の中から消えていると、ミーNaは声を上げた。
「なにをしておられるのですか? 当ギルド会館から強制退去していただきますよ」
「大丈夫だよ。すぐに出て行くから」
「は、はい?」
まるで掴み所が無かった。
一体何処を如何すればいいのか、ミーNaも頭を抱えてしまう。
完全に自由人。天真爛漫さが悪目立ちしていた。
「ふーん、急流スライダーかー」
「は、はい。今回企画したレジャーは、リュウシン大渓谷を舞台にした、川下りです」
「へぇー、川下り。いいねいいね、夏にピッタリだねー」
聴いているだけで涼しさが溢れ出す。
眩しいほどに輝くF=オレンジには逆効果に聞こえるが、ミーNaも痛感した。
このレジャーのテーマは、即ち夏感。加えて、ヒヤリ感だった。
(このような方にもスリルを味わって貰うための企画なのですが……)
ミーNaは自分が提案したネタが、この時点で崩壊する音が聞こえた。
何か月も掛けて考案し、しっかりと多くのNPCと連携を取った筈でした。
けれど無縁の人が現れてしまい、スリルが消えてしまいそうです。
「あの!」
「ん?」
「恐縮ですが、貴女はこのレジャーをどう思われますか?」
漠然とした質問を投げかける。
自信を取り戻そうと、強い眼光でF=オレンジを見つめる。
するとF=オレンジは迷うことなく即答した。
「面白そうだねー」
「……」
「面白そうだねー」
「それだけですか?」
「うん、それだけー。楽しければなんでもあり……でも、安全は確認しないとね」
F=オレンジはアバウトかつ中身の無い返答をした。
ミーNaは困ってしまうが、視線が痛々しい。
チラチラと強弱を付けた口調をし、F=オレンジはミーNaを煽る。
「安全は充分確保している筈です」
「本当にそうかなー?」
「はい?」
一体なにがおかしいのでしょうか?
一度現場を確認したミーNaはイラっとしました。
F=オレンジのことを凝視すると、地図を取り出し、ミーNaに追及しました。
「確かこの部分、大きな滝があったよね?」
「はい。ございますが?」
何故知っているのか。しかもピンポイントな指摘。
ミーNaはF=オレンジのことを見つめました。
「この滝の落差、確か五十メートルはあるよねー?」
「はい。ございますが?」
「危なくない? 安全、保証できないでしょー?」
落差五十メートルの川を下る。
そんな危険な真似、安全が充分確保できているとは言えない。
万が一落ちるようなことがあれば、死は免れない。
それさえレジャーの一部だとすれば、流石に心外だ。即刻ギルドから退去……否、存在の消滅だ。
「どうかなー?」
「それでしたらご安心ください。滝に面する前には止まるように、川の流れをコントロールしていますから」
「どうやって?」
「大岩を使っています。それに、滝は後で観光の一環として立ち寄っていただき、本当のスリルは別に用意してあります」
ミーNaも流石に返しの札を用意していた。
F=オレンジとの言葉勝負には万全の用意をしている。
まさにその風格が現れると、これ以上の会話は避け、F=オレンジはミーNaの目を見る。
「そっかー。それじゃあ、一回テストしておいた方がいいかもねー」
「て、テストですか?」
「そう。テストだよー。なにかあってからじゃ遅いからねー」
あまりにも意味深かつ評判を下げるような発言。
ミーNaは怒鳴り付けようとしますが、F=オレンジはそれ以前に退散。
頭の上で腕を組むと、最後に一つ忠告をする。
「あっ、そうだー」
「まだなにかございますか?」
「期待してるよー、アレ以外のスリルをねー」
F=オレンジはそう言い残すと、ミーNaの前から消えました。
一体何だったのか。まるで太陽のようだった。
自由気ままで抉る一言。ミーNaはゾクゾクしましたが、同時に胸の内に考える。
「彼女は一体? それに、私がミスを犯しているような発言でしたね……安全の確保、ですか」
もちろん図ったつもりだ。充分したつもりでいる。
けれどそれでは足りないのだろうか?
もちろん俄かには信じられないが、ミーNaは自分の間違いを見つめ直すと、業務に身が入らなくなった。そんな姿を認識しつつ、新しいデータとして取り込んだ。
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