◇124 反撃のメガビブラート
今回はベル視点。
私は一人、タイコモリ―を歩いていた。
人目が無くなり、ホッと一安心。
胸を撫で下ろしていると、弓を背中に背負っている。
「以外に早く終わったわね」
私は解放感を全身に浴びている。
そう思うと、タイコモリ―の静けさも悪くないかも。
そう思ったのは一瞬、すぐに怪訝な表情になる。
「って、本当に変り者ばかりだったわね」
早速口から飛び出したのは悪態混じりの悪口だった。
実際、雷斬から聞いていた通り、変わり者の巣窟。
そんな姿が対面直後の行動から丸分かりとなり、私はげんなりした。
「あのメンツの何所に惹かれたのかしら? 私には分からないわ」
教官の仕様もない程に、ギルドとしての完成度が低い。
一人一人のポテンシャルは高そうには見えたけれど、私には関係がない。
むしろ面倒なまでの取り合わせに、私は姿を隠しても苛立つ。
「チッ、なんであんな子達に私が実力を見せてあげないといけないのよ? 普通に考えてみれば、なにもかも足りて無いでしょ?」
想像はしていた。けれど想像以下だった。
それだけ適当な、ノリを大事にしているギルドと馬が合わない。
私は自分のことをよく知っている。雷斬からは注意されるけれど、私は私。
これ以上でもこれ以下にもならない。それが私のポリシーでプライドだ。
「ハッ。さっさと戻ろ。で、さっさろ帰ろ」
そうとなれば、まずは矢の回収だ。
恐らくこの辺りだろうと、周囲を見回してみる。
すると木の幹に、私の射た矢が突き刺さっている。
「見つけた。やっぱりここにあったわね」
予定通りの場所に矢が突き刺さっていた。
もちろん木の幹を狙った訳じゃない。
問題は、矢が霞めている薄い膜だ。
「おまけにちゃんと捉えてるわね」
矢は木の幹に突き刺さるだけじゃなかった。鏃が何かを捉えている。
見れば小さな薄い膜が挟まっていて、それを捉えるように、木の幹に当たった。
「この膜は……詳しく無いけど、昆虫のものよね? ってことは」
太陽の陽射しがそこまで無い。
そのためくわしいことは言えないけれど、恐らくは昆虫のもの。
しかもこれだけの薄さとなると、狙いは定まっていた。
私は自分の実力の高さに惚れ惚れする。
「やっぱり私の腕は鈍ってないわね。まぁ、鈍らせる気は無いけど」
自信を持って矢を回収し、矢箇の中に戻した。
再利用できる自慢の矢を取り戻し、今度は地面を見る。
草の裏。やっぱりあった。マジで超デカい巨大トンボだ。
「ふふん。やっぱりいたわね」
メガビブラートは草の上に落っこちていた。
丁度翅の一枚が破けていて、標本としての勝ちは無いけれど、無事に捕まえることはできた。
もう死んでいるのか? 何故かピクリともしないけど、そんなの私には関係が無いの。
さっさと回収して戻ることにした私は、仮面を付け直すことにした。
「さてと、仮面を付け直して……まって、なんで動かないのよ?」
私は自分のしたこと・目で見たことに疑いを向ける。
何せ私の矢が捉えたのは翅だけだ。
直接当たってくれればよかったけれど、そこまで上手くはいかず、矢は木の幹に突き刺さっていた。つまり、メガビブラートが動かなくなるのはおかしいのよ。
「一体どうして……まさか!」
私はメガビブラートに触れようとした。
すると指先がメガビブラートの体をすり抜ける。
「ええっ!?」
メガビブラートは完全に霞だった。私の指先から消えてしまった。
これはどういうこと?
そう思って見てみれば、不可解すぎる生態をしていた。
「これ、脱皮ってこと? トンボが脱皮? ええっ!?」
あり得ない。いや、あり得ないわよね?
私はそこまでトンボの生態に詳しくないけれど、トンボって脱皮をするのだろうか?
いや、私の想像だと、トンボがトンボに脱皮するとは思えない。
「待ってよ。ヤゴからトンボじゃないの? やっぱりゲームね」
一から百まで、この世界はゲームだ。
現実ではあり得ないことが、当たり前のように起きてしまう。
常識を疑うことを思い起こさせると、私が疑問を抱く。
「それじゃあ、本体は何処に消えたのよ?」
これが仮に脱皮だとして、本体は何処に行ってしまったのか。
私は周囲を見回す。否、耳を頼って音を辿る。
忘れてはいけない。脱皮したものが皮ならば、何処かに飛躍している筈だ。
「何処よ。一体何処に私の目を掻い潜って……はっ!」
その瞬間、背後から異様な翅音が聞こえた。
私は嫌な予感がして、ソッと振り返る。
すると巨大なトンボの姿がそこにある。宙を停滞し、複眼で私を見ている。
ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギューン!
メガビブラートは私を見ている。
四枚の翅を巧みに操り、空気を震わしている。
体を痛めつけるような激しい騒めきが、私の体を包み込んだ。
「くっ。この、ウザいわね!」
背中に背負った弓を手にした。
矢筒から矢を引き抜き、矢を番え、弦を引く。
メガビブラートへ射線を合わせると、私は射抜こうとした。
「このっ。私が射手だと思ってバカにしてるわね?」
超近距離での戦いなら、私に不利?
そんなの誰が決めたのよ。私がただの射手だと思って貰ったら困るわ。
苛立ちが募り、私が弦を引き離すと、矢がパシュン! と放たれた。
ギュン!
「やっぱり、この距離じゃ当たらないわね」
私は残念なことに矢を外してしまった。
流石にこの距離だとトンボの方が強い。
悔しいけれど、遠距離武器では戦えないので、私は嫌な顔をした。
「仕方ないわね。それじゃあ……」
ここは仮面を付け替える必要がある。
私は弓をソッと変形させようとする。
ここからは近接戦の出番だ。
「やってやるか!」
「おらぁ」
私は戦おうとした。けれど弓を変形させようとする私の前で、変なことが巻き起こった。
突然少女が突っ込んで来ると、メガビブラートに拳を振りかざす。
そこに現れたのは紛れもなくアキラで、私は瞬きをする。
「えっ、アキラ!?」
「大丈夫、ベル!?」
「だ、大丈夫よ……じゃなかった。えっ、なにが起きたの!?」
私はついつい素に戻ってしまった。
けれどアキラが目の前に居るのは確か。
私は何が起きたのか分からないが、正直真っ当な思考ではなく、頭を傾けてしまった。
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