◇122 今回限りの付き合い
”仮面”を付けてさぁ参上。
「なんか、納得できないわね」
鈴忌は不満が溜まっているようでした。
それも仕方がありません。
弓道勝負の結果、私も鈴忌も的には当たらなかったのですが、言葉のあやを使い、屁理屈を言い出した私に、鈴忌は折れてくれたのだ。
「すみません、鈴忌」
「もういいわよ。それにしても、斬禍をここまで本気にするような相手って。一体どんな子達なのよ」
「そうですね。世間一般では変り者と呼ばれるような方達です」
「変り者!?」
渡しはあまり言葉を選ばずに、分かりやすい文言で伝えました。
すると興味を示していて鈴忌は声を上げ、眉根を寄せます。
額に皺ができると、怪訝な顔をしてしまいました。
「そんな子達のために本気になってたの? バカじゃない」
「いえ、私は至って真面目ですよ」
「それがバカなのよ。はぁ、なんか損した気分」
鈴忌は肩を落としてしまい、背中が丸くなりました。
如何やらアキラさん達のことを見くびっているようです。
そう思っていられるのは今のうち。渡しは笑みを浮かべました。
「ちょっと、なに笑ってるのよ」
「いえ、きっと皆さんを知れば、鈴忌も仮面を脱ぎ捨てる筈です」
「仮面をって……ふん。そう上手く行くかしらね?」
鈴忌は何故か自信を抱いた。如何したのでしょうか? 何かよくないことでもしてしまったのでしょうか?
私は変に気を紛らわしてしまったことを反省しますが、鈴忌は逆に期待を寄せます。
「いいわよ、負けたとは思ってないけど、そこまで斬禍を歪めた相手だもの。会ってあげるわ」
「鈴忌!?」
「でも勘違いしないで。手伝うのは今回だけ。興味を失ったら、速攻でバックレるから」
「それでも構いませんよ。ですが一つだけ約束してください」
「約束?」
何が如何したのか、鈴忌の気が変わってくれた。
渡しはここぞとばかりに踏み込むと、一つだけ約束を言いつける。
「もし鈴忌の気が変わるようでしたら、皆さんと仲良くしてください」
「仲良く? バカなこと言ってる? 馴れ合いうためにやるんじゃないわよ!」
「そうだとしてもです。気が変わればで大丈夫です」
「そんな簡単に変わる訳ないでしょ、バカ」
鈴忌は最後まで不貞腐れた様子で、頑固になっていました。
頬を膨らませ、そっぽを向いてしまいます。
目の前の的を凝視し、再び矢を放つと、今度は真っ直ぐ的のど真ん中に命中しました。
「本当、どうしてさっきは外したの?」
鈴忌は最後まで納得できていません。
ですが私としては好都合でした。
何はともあれ約束を果たすことはでき、後は鈴忌次第。
塞ぎこんでいた高い壁を乗り越えると、私は鈴忌が練習を終えるまで待つのでした。
「って報告を、昨日雷斬から貰ったよ!」
私はギルドホームでNightとフェルノに説明した。
昨日の夜、夜ご飯を食べていたらいきなりVRドライブにメッセージが届いた。
何かと思って開いてみると雷斬で。何とか上手く行ったらしい。
とりあえずスタートラインには立てたような気がして、私は舞い上がってしまった。
「そうか。とりあえずひと段落だな」
「うんうん。そうだねー」
「だが油断はするなよ。何処で木が変わるか分からない」
「そうだよね。それを危惧してたよ」
雷斬も同じことを危惧していた。それだけ気難しいらしい。
私は緊張してしまうと、ドクンドクンと棟が鳴る。
多分上手く行くとは思うけど、心配は常に犇めいている。
「まあきっと大丈かな?」
「信じるしかない」
「信じるかー。まあいっか、所でさ?」
「うん。私も同じこと思ってた」
フェルノが何かを気にしている。
部屋の中には無いけれど、時計を探している様子だ。
実際、あれから一時間と三十分以上経っているので、少しだけ心配になる。
「Night、ベルさんが仲間になってくれるかは分からないけれど、それより雷斬はちゃんと来れるかな?」
「問題無いだろ。迷子になる様な年齢でもない」
「うわぁ、敵作りそ―。大人になっても迷子になる人は世の中いるよー」
「アホか。私は迷わないからな。それにスペアの鍵も渡したんだ。辿り着いて貰わないと困る」
私は雷斬に鍵を渡している。もちろん複製したスペアキーだ。
この島のことは他のプレイヤーには秘密。
だから信頼できる相手にしかこの島のことも鍵も渡していない。
だからこそ、迷子にでもなられたらお終いだ。
私達でさえ、この島の全容を知らない。そもそも探索していないから、いつかしたい。そのレベルだ。
もちろん迷わないように目印も付けてはいるけれど、ちゃんと辿り着けるか不安だ。
「まあ、心配しなくても後で連絡すればいい」
Nightは机も椅子も無いリビングで、コーヒーを片手に飲む。
直接床に座ってくつろごうとしていた。
早く椅子が欲しいと私が思うと、廊下から声が聞こえた。
「皆さん、遅くなりました」
「「雷斬!」」
そこにやって来たのは雷斬だった。
少し遅れるとは聞いていたけれど、意外に早い。
私とフェルノはやって来た雷斬を迎えると、雷斬はまず感想を答えた。
「なかなか珍しい建物ですね。しかも離れ小島とは驚きました」
「だよね。私達もだよ」
「外から見ても中を見ても、この建物は変っているからな」
ファンタジーを完全にぶち壊してしまう建物。
明らかな近未来人工物を相手に、雷斬は言葉を選ぶ。
無機質な建物の中、一応洋館のリビングのようになった部屋を訪れると、雷斬は意外な顔をした。
「この部屋は例外のようですが?」
「うん。模様替えしたんだ」
「そこにあるスイッチだよー」
「スイッチ? 確かにステッカーが貼ってありますね」
「ダサいとか言うなよ。それが無いと分からなくなるからな」
「「確かに」」
この建物の中には大量のステッカーが手作業で貼られている。
一つでも剥がれたら、何処にスイッチがあるのか分からなくなる。
絶対に触っちゃダメなので、雷斬はソッと手を離す。
「それより皆さん、遅くなりました、お約束通り、連れて参りました」
「連れて来たって、それじゃあ……」
「はい。ではベル、こちらに……って、なにをしているんですか!」
如何やら廊下に雷斬の親友がいるらしい。
けれど戸惑っているのか、なかなか顔を見せてくれない。
私は不安になってしまったけれど、廊下から扉の前に、少女は現れる。
「ふぅ……皆さん、こんにちは。ベルです。雷斬に呼ばれ参りました」
現れたのは雷斬と同じくらいの背丈の少女だ。
淡い緑色をした髪を一部ゆるふわ三つ編みに結っており、何処となく筋肉質だが手足が長い。
何だか不思議な口調で無理をしているように見えたけれど、初対面の私はウットリ笑みを浮かべるベルさんに言えなかった。
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