◇121 放課後の弓道場
勝つ可能性があるのなら。
放課後、生徒達が部活を終え、急ぎ下校しようとしています。
そんな中、私は暗がりの中で立ち尽くしています。
目の前には大きな弓道場。週に三日程しか部活はありませんが、今日は開いています。
「それでは参りましょうか」
私は弓道場に足を踏み入れました。
ガランと引き戸の扉を開くと、中からパシュン! と音が聞こえます。
空を貫き、鼓膜を突き破る様な感覚です。
パンッ!
視線を矢の方に向けると、遠くに置かれた的に命中していました。
相変わらずの腕前です。
真ん中の部分に的確に当てると、弓を下ろす少女の姿があります。
「ふぅ。まぁまぁね」
「(パチパチパチパチ)お見事です」
「なによ、冷やかしにでも来たの?」
鈴忌は私のことをジッと睨みました。
もしかするとよくないことをしたのでしょうか?
私は反省しましたが、何を反省すれば分かりませんでした。
「すみません、鈴忌」
「別に謝って欲しい訳じゃないから。で、個々に来たってことは本当にやるのね?」
「はい。鈴忌に手伝っていただきたいのです」
「はぁー……悪いけど、何度言われてもパスよ。絶対に嫌、そう言うのはもっと他の人に頼んで欲しいわ」
鈴忌は弓を振り回しました。相当面倒に思われています。
それなら力付くで引き込むまでです。
私は珍しく譲らない姿勢を取ると、頑なな私に鈴忌は弓を投げ渡しました。
「それじゃあ私と勝負して。勝ったら手伝ってあげるわ」
「私が鈴忌に勝つですか?」
「なによ、怖気づいた? なんなら私よりも的の真ん中に矢を当てられたら勝ちでもいいわよ?」
「大人げないですね、鈴忌」
非常に大人げないことをされてしまった。
私が鈴忌に単純な纏当て対決で勝てる訳がありません。
けれど受けないことには鈴忌は振り向いてもくれません。
それならばと思い、私は弓を手にします。
「本気でやるのね……はぁ、仕方ない」
鈴忌は面倒そうに別の弓を手にする。
弦を引き、硬さを調整しています。
更には矢を二本用意すると、うち一本、羽根が黄色に塗られているものを私に手渡しました。
「その矢を使いなさい。斬禍でも扱いやすい弓と矢を渡した筈よ」
「ありがとうございます」
「ルールは一射勝負でいいわよね。的の中心に近い方が勝ち。それでどう?」
「分かりました。それで構いませんよ」
私は決して弓が得意ではありません。むしろ苦手な部類です。
弓を構え、矢を番えると、凛とした態度の鈴忌が隣に立ちます。
目の前には的が一つ。既に刺さっている矢が邪魔になりますが、それはそれです。
ここからは真剣勝負の場。とは言え圧倒的に鈴忌が有利です。私が勝つためには精神を研ぎ澄ます必要がありますが、鈴忌は仮面を被っています。
(勝たせてくれる気は無いみたいですね)
鈴忌を相手に余裕は一切ありません。
私は結った髪を更に束ねると、視線を的に向けます。
けれど的に当てたとして勝てるでしょうか?
私はドクンと胸を打つと、鈴忌と同時に射ます。
パシュン!
二本の矢が的に向かって飛びました。
真っ直ぐにただひたすらに飛んで行き、空気を切り裂きました。
全身を痛めつけるような感覚に陥ると、慣れない弓に筋肉のバネが悲鳴を上げました。
(くっ……少し狙いが逸れましたね)
私が射た矢の軌道は、少し逸れてしまいました。
そのせいでしょうか。余計な空気に触れてしまい、矢がブレてしまいます。
鈴忌の射た矢は真っ直ぐに飛びますが、私の場合は少しずつ抵抗を受けて遅くなりました。
(これは勝てませんね)
私はソッと目を閉じました。流石にもう勝てません。
鈴忌の腕は一切鈍っていないので、私の腕では届かない。
そう実感させられてしまう中、この後のことを考えました。
鈴忌を実力で連れ回せなくなった私が如何すればよいのか。頭を悩ませて考えます。
「……えっ?」
そんな中、鈴忌は声を上げました。
弓道の場合、姿勢がとても大事になります。
声を上げると言うことは礼儀に反しているのですが、一体何が起きているのか。
渡しは瞼を開くと、瞬きをしてしまいました。
「えっ?」
何が起きているのか、一言で言えば、“私の射た矢が鈴忌の射た矢に触れて”いる。
同じ的を狙うと言うことは、矢が触れる可能性はありました。
もちろんお互いのタイミングがピッタリでなければなかなか難しいことではあります。
けれど私の矢は遅く、ブレています。当たる訳が無い、そう思ったのですが、ブレてくれたおかげで鈴忌の射た矢に触れてしまったようです。
(こんなことが起こるのでしょうか?)
私が見ているのは一体何なのでしょうか?
これはゲームの中なのではないかと、疑ってしまう程です。
けれど矢は確実に鈴忌の射た矢に触れて擦ると、空気の抵抗を受けて落っこちてしまいました。
グサッ!
「「……」」
私と鈴忌は無言になりました。
空気の抵抗というよりも、完全に私が射た矢のせいで威力が殺されてしまったようです。
息の絶えた矢が砂の上に突き刺さると、私達は瞬きをしました。
「なに、これ?」
「えっと、鈴忌」
「ノーカンよね? 流石にノーカンでいいわよね?」
「えっと、ルールはルールですよね? 現に的の真ん中に近い方が勝ちと言われていましたから」
「それはそうだけど、場合があるでしょ?」
「もちろんです。ですが今回は譲りませんよ」
渡しは絶対に譲る気はありません。何故なら的からの距離です。
落ちた矢。重なり合うよりに砂の上にあります。
鏃が突き刺さっているのは後ろに緑、前に黄色です。
つまりは私の方が的に近いと言うこと。これは単なる偶然、それを引きせられたかどうかは分かりませんが、少なくとも今回の場合、髪のご加護は私に傾きました。
「鈴忌、私の勝ちよ」
「これで勝ちって誇るの!? どれだけ切羽詰まってるのよ」
「私の勝ちです」
絶対に引き下がる気はありません。
渡しは鈴忌に自分の想いを伝えます。
篭った眼光が鈴忌に届けられると、言葉は無く、シンとした空気が包んだ。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




