◇115 シェルダーウッド
伏線回収しました!
私達は今日もゲームの世界にいた。
現実では七月になり、「もう夏かー」と言いたくなる季節。
火傷しそうな暑さを前に、私達がやって来たのは鬱蒼とした森だった。
「Night、この森は?」
「ここはカイバシラの森だ」
「「カイバシラの森?」」
私とフェルノは声を上げた。だってそんな森合ってほしくない。
現に私達が今いるのは何処から如何見ても普通の森。
別に貝柱っぽさは……まあ無いかな?
流石に物申してしまうと、Nightは指を指した。鬱蒼としていて、何を指さしているのか全く分からない。
「私達が探しているのはシェルダーウッドだ」
「それは分かってるよ。それを採りに来たんだよね?」
「分かっているじゃないか」
「分かってるよ。でもそんな木何処にも……まさか!?」
「もしかすると、この森に生えている木がシェルダーウッドなのではないでしょうか?」
雷斬の言うことには一理あった。確かにカイバシラ=貝柱って考えると納得だ。
何せシェルダーウッドは貝のように硬い木。
シェル=貝を現わしているって考えたら、尚更そんな気しかしない。いや、絶対それだ。
「そもそも、Deep Skyとの関係性をより築くために、シェルダーウッドが必要なんだろ?」
「あっ、そっか。イベント前に言ってた奴だー」
「うっ、あの無理難題をついにやるんだね」
「そうだな。で、その無理難題を解決するのは……」
「私ですか?」
何故かNightは雷斬を見つめている。
無理難題な理由は単純で、シェルダーウッドがとんでもなく硬いから。
しかもただのパワー系ならフェルノがいる。それでも採れないのは理由があるらしい。
「シェルダーウッドは芯まで硬い。フェルノの力技も私の【ライフ・オブ・メイク】で生み出した道具もほとんど意味がない。現実離れした硬度。それがシェルダーウッドの希少性の理由だ」
「希少性?」
「何処にも生えてはいるが、流通が少ないから希少になる。非常に厄介な代物だが、雷斬の腕なら採れるかもしれない」
Nightは雷斬に期待していた。
正直可哀そうだと思ったけれど、雷斬は期待に応えようと胸に手を当てる。
「期待に添えられるかは分かりませんが、善処させていただきます」
「頼んだぞ。お前が頼りだ」
「はい、任されました」
雷斬は頼られたことでスイッチが入った。
私は無理は禁物だと雷斬に伝える。
こうして体制が整った私達は、目の前に現れたとんでもなく巨大な木に目を奪われてしまった。
「えっと、これはなに?」
「コレがシェルダーウッドだ」
「コレが……シェルダーウッド……えっ!?」
「デカ過ぎるってー」
フェルノは超が付く程ストレートで最も簡潔な感想を発した。
だけど私も同じ意見で、とんでもなく大きい。
幹は太くて背は高い。多分だけど二十五メートル以上は軽くあり、目を丸くしてしまった。
「無理無理無理無理、絶対に無理だって!」
「無理だと? まあそうだな、このサイズは無理があるな」
「そうでしょ? だから……って雷斬はどうして構えてるの?」
私はNightに無理だと絶対抗議した。
するとNightも分かっていたらしく、珍しく冗談のつもりだったらしい。
流石にこのサイズは無い。ホッとしたのも束の間で、雷斬はマジになってる。
「この木を切ればいいのですね?」
「待ってよ、Nightも冗談のつもりで言ったんだよ?」
「そうだぞ。大体このサイズだと……」
「いえ、結果を残し相手に大きな借りを作るのであれば、このサイズは的確だと」
「そう言う損得勘定や貸し借りで測っている訳じゃない。いいか、このサイズは……」
「では、行きます。皆さん、離れてください」
雷斬はとんでもなく真面目だった。目の前の木を切ることが大事だと悟った。
流石に言っても聞いてくれそうにない。
だけどこのサイズだ。多分Nightの心配は分かるけど、雷斬の腕でも樹皮に跡を付けるくらいしかできないかも。そう思い私達は道を開けた。
「まさかね」
「ああ、まさかそこまで考えていない筈は……」
「いっけぇ、雷斬!」
「はい」
「「ああ……」」
フェルノは何一つ分かっていなかったけど、雷斬は少し距離を取る。
一体何をするのか、と思えば全身から電撃が流れた。
青白い光、種族スキル【雷鳴】を発動。眩い輝きに包まれると、シェルダーウッドに向かって走り出す。
「雷流剣術—水輪」
雷斬は刀を鞘から抜いた。その瞬間には、木の幹の後ろに居る。
目にも止まらぬ速さとはまさにこのことだって気がした。
だけどシェルダーウッドには傷は何も無く、倒れる気配もない。
「お疲れさま、雷斬。やっぱりこのサイズは……」
「皆さん、少し離れてください」
「ん? 充分離れているだろ」
「いえ、その方向に倒しますので、離れてください。それっ」
雷斬に言われ、私達は反対側にやって来た。
それを確認してから、雷斬は木の幹を蹴る。
軽くチョンと押すと、木はメキメキと言う怪しげな音を立て初め、次第に傾き始める。
「えっ、ちょっと待ってよ。まさか!」
「倒れますよ」
雷斬がそう答え、木の幹はメキメキと必死の抵抗を見せる。
けれどそれも虚しく、バッサリ倒されてしまった。
ドス―ン! と轟音が響き渡り、森の中で休んでいた鳥達が一斉に空へと逃げる。
巨大な切り株が目の前に生まれると、私達は言葉を失い唾を飲む。
「えっ、ちょっと待ってよ。嘘でしょ?」
「嘘じゃない。現実だ」
「現実って言うかゲームだけどねー」
「それじゃあ偽物なんだけど……これは本物だよね?」
「はい、本物ですよ。無事に倒すことができました。後はどのようにして持ち帰りましょうか?」
二十五メートル級のシェルダーウッドは雷斬の超絶すぎる技に倒された。
バッサリ切り株の断面まで真っ平で綺麗になっている。
あまりにもおかしな技に頭を抱えるが、雷斬は満足そうにしていた。
「雷斬、今のなにしたの?」
「少しだけですが、技を使いました」
「技?」
「はい。雷流の剣術です。あまり人前で見せるような技では無いのですが、Nightさん、これで大丈夫ですか?」
「ん、ああ、大丈夫だ。だが、如何やって持ち帰るつもりだ? このサイズはインベントリに入らないぞ」
雷斬の活躍を素直に褒めたいけれど、今回はそうもいかない。
何せこのサイズはインベントリに入らない。ましてや切り分けても難しい。
だから雷斬のやったことは手間を増やしただけ……最初から気にしていたけれど、やっぱりこうなっちゃった。私もNightも必死に止めればよかった後悔したが、とりあえず雷斬は気にしていない。一応はセーフだ。
「それでは切り分けましょうか」
「そうだな。余ったものは……引き摺って持って帰るか」
「イェーイ、なんだか上手く行ったね!」
「はい、お役に立ててよかったです」
Nightが【ライフ・オブ・メイク】でソリを作る間、雷斬もフェルノも満足そうな顔になっていた。
私はNightに近付き、「ありがとう」と声を掛ける。
「気にするな」と返されると、私達はシェルダーウッドを持ち帰るため奮闘した。
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