◇103 砂漠の底
流砂の向こう側に空間があるって、ファンタジーだとあるあるじゃないですか。
「ううっ……」
「アキラさん」
「うっ……」
「アキラさん!」
私はむち打ちになったみたいに激痛が走る体を揺すられた。
正直気分は良くない。けれど瞼を押し上げると、視界には雷斬の顔がある。
心配そうに私に声を掛けてくれて、必死に体を揺すっている。
「雷……斬?」
「よかったです、目覚められたみたいですね」
私は体を起こした。全身砂だらけになっている。
おまけにHPもMPも削られていて、無意識にインベントリから回復ポーションを取り出そうとした。
けれど今はイベント中。今回はポーション類のアイテムは使えないので、私は思い出して手を引っ込めた。
「そっか。私達、生きてるんだね。よかった」
「確かに、命があることがなによりの救いですよね」
「うん。でもここは?」
私の視界がはっきりした。
世界が砂の色をしている。しかし空間が広がっていて、幻想的だった。
天井からは絶えず細かい砂が落ちている。まるで砂時計の中みたいで、私はゆっくり立ち上がる。
「もしかして、ここが砂漠の底?」
「その様ですね。美しい場所ではありますが、何故このような場所が」
「うーん、もしかしなくても、プレイヤーをこの場所に連れてくるためだったのかな?」
「つまり、私達はまんまとその罠に嵌ってしまった訳ですね」
それは言わないで欲しい。だって、こんな目に遭ってるの、きっと私達だけだ。
ムッとした表情になってしまうと、雷斬はどうどうと私を宥める。
「大丈夫ですよ、アキラさん。私達は生きているんですから」
「そうだよね。雷斬、ありがとう。急いで地上に戻ろうか」
「はい……と言いたい所ですが」
「どうやって戻ればいいのかな?」
正直階段のようなものもなければ、糸も垂れていない。
おとぎ話の様な展開は当然期待できない。
私達は砂漠の中は外に比べて異様に冷たいことを膚で捉えつつ、立ち止まらずに歩き出す。
「それにしても、寒いね」
「そうですね。光が届かないからでしょうか?」
「かもしれない。あっ、もしかしてここにメダルが落ちてるかも?」
砂漠の底にメダルが落ちている可能性……大いにあると思う。
だって地上の方にほとんど落ちていなかった。
にもかかわらず、まさか砂漠の底までフィールドが広がっているんだ。
それならメダルの一枚くらい落ちていてもおかしくない。
「確かに一理ありますね」
「でも、落ちてたら気が付くよね?」
「あっ」
ここまでずーっと探している。だけど一枚も落ちていない。
私も雷斬も見逃すような真似はしない……多分。
「どうしよう。本当に成果無いよ」
「足止めの可能性はありますね」
「うわぁ、それならちょっと嫌だな」
「そのためにも早く皆さんの所に戻らないといけませんよね」
雷斬はとってもポジティブだった。
私はそんな雷斬に心を打たれ、意識を切り替える。
Nightとフェルノもきっと心配している筈で、私達の足も速く動く。
「そうと決まったら頑張らないとね」
「はい。頑張りましょうか」
「それじゃあ早速……うわぁ!」
ドササァァァ!
威勢を表す私に砂漠から反撃が喰らう。
まさしく鉄槌で、大量の砂が私に降り注がれた。
頭から砂を被ると口の中にまで入っちゃって、私はペッペと吐き出した。
「ううっ、なんでこんな目に? あれ」
「見てください、アキラさん。メダルですよ」
「本当だ。もしかして、ラッキー?」
「はい。とても幸運ですよ」
砂に埋もれた私は何とか這い出る。
すると砂の中にメダルが混ざっていた。
しかも星は一つでちゃんとカウントされる奴だったので、私はとってもラッキーだった。
「もしかして、砂の中に埋まってるの?」
「その可能性もありますね」
「ううっ、大変そうだよ。流石に諦めた方が良さそうだね」
「そうですね。これ以上立ち止まっている暇はありません」
残念なことに、砂の中にメダルが埋まっていたらお終いだ。
何せメダルを探している間にNightとフェルノが暑さで終わっちゃう。
ましてやメダルを探す時間は無くて、イベント終了を迎えてしまう。
「後二時間も無いですね」
「ううっ、ゲームの中だと時間の進みが早く感じるよ」
ゲームを遊んでいると、まるでトリップしたみたいに時間の流れを早く感じる。
それもその筈、現実の時間と流れるスピードは同じ。
それでもゲームの中では一日の内に何度も日を繰り返す。
けれどそれはゲーム内の時間であって、現実には反映されない。あくまでも一日を複数に分けているだけで、その齟齬が頭や時間を狂わせた。
「アキラさん、この道広いですよ」
「本当だ。道幅がある」
「と言うことは、大きな道と言うことですね。この先にはなにがあるんでしょうか?」
そうは言っても先に行くしかない。
丁度目の前の道は開けていて、道幅もかなりある。
きっと何かが待っている筈。そんな期待を寄せると、私達は自然とスピードアップした。
「うわぁ、広い!」
「そうですね。縦は二十メートル。横は七十メートル程ですね」
「それってかなり広いよね!?」
「はい。広々とした環境ですね」
突然現れた開けた空間。
ここだけ何か変わっていて、私も雷斬も怪しく思う。
だってこんな開けた空間ってことは、絶対になにかあるに決まっていた。
それこそ中ボスが出てきそうで仕方が無く、私はフラグを立てるのを止めた。
「見てください、アキラさん」
「どうしたの、雷斬って……えっ?」
「宝箱が置いてありますよ」
私は雷斬に促され、視線を雷斬に合わせた。
開けた空間の真ん中に、明らかに触れてはいけない物がある。
それこそ、赤と金の二色で構成された宝箱。絶対に罠だって言い切れるので、ここは深追いはしない。
「避けよっか」
「そうですね。触らぬ神に祟りなしです」
「賛成。それじゃあ逃げて……ん?」
私も雷斬も宝箱を避けて回りこもうとした。
きっとこの奥にも何かあるのは確実で、道が二つも見える。
宝箱はスルーして行こうとするが、急に地面がガタガタ揺れ始め、天井から砂が零れ落ちた。
ゴゴゴゴゴォォォォォ!!
「ま、待って待って。なんかヤバい気が……」
「アキラさん、なにか来ます」
「なにかって、なに? うわぁ!」
急に地面の中から巨大な手が飛び出した。
分厚い鋏の形をしていて、とんでもなく怪しい。
私と雷斬は何とか避けるが、突然の振動に驚いてしまう。
「待ってよ。もしかして逃げられないってこと?」
「アキラさん、下がってください。恐らく私達は既に」
「分かってるよ、雷斬。コレ、逃げられないんだよね」
「恐らくは」
地面の中から飛び出した巨大な鋏。
しかも一つだけではなく、二つも出て来て、細長い尖った尻尾も出て来る。
砂を浚って現れると、私と雷斬は絶句する。目の前に飛び出したのは、気持ち悪い黄金色の巨大サソリだった。
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