七、解決
まるっとお見通し。
暗がりの中、男は驚いた表情を見せる。
「どうして、私が牧田だと?」
「葵さんが教えてくれました」
「馬鹿な」
真美がそう告げた。
「牧田さん、受雷さんは鎮魂探偵です。ご存じでしょう」
「にわかには信じ難いな」
「その私に依頼したのはあなただ」
「あなたが何故ここに来たの」
和子は蔑む眼差しを送る。
「何故って・・・気になったからね。婚約者の安否を気遣うのは当然だろ」
牧田は悪びれもせず冷静に言った。
「にしても、こんな夜中に」
真美はそう呟くが、夜の静寂でその声は牧田の耳に届く。
「たまたま、あなた方を見かけて・・・」
「たまたま?そんなことが」
武利は言った。
「まあいいでしょう。葵さんが呼んでくれたんですよね」
受雷は静かに言い、毛布にくるまれた彼女に手の平を広げ示す。
「・・・まさか」
彼は冷めた目で頷く。
「ああ、葵っ!なんてことだ」
牧田は駆け出し、彼女の前でうずくまる。
「もう、いいんじゃないんですか。実にヘタな芝居だ」
受雷は大げさに首を振った。
「なにを・・・」
「葵さんがすべてを教えてくれました」
「なにが言いたい」
「あなたが葵さんを殺しましたね」
「そんなことあるかっ!・・・よくもこんな時にっ!」
牧田は激昂した。
「・・・そうですか」
受雷は両手を広げ上げさらに彼を煽った。
「お前・・・だいたい葵は、一人旅でしょ。私はずっと仕事でした」
怒りを抑えつつ、牧田は冷静を保とうとする。
「・・・そうですか」
彼は言葉を繰り返す。
「行けるはずがないんだ!」
「牧田さん」
「何だ」
「あなたは会社の社長ですよね。職権を使って部下の休暇ということにしたのでは」
「なにを馬鹿な。実に回りくどい事を・・・私がするはず」
「・・・そうですか」
受雷はスマホを取り出し、ハンズフリーにして電話を入れる。
「もしもし、警部?」
電話の先は警視庁の丸出為男警部だった。
「伊武探偵か」
ぶっきらぼうな口調の警部の声が聞こえる。
「例の件ですが」
「おう。牧田IT会社の平社員野口ってヤツが、女性失踪の翌日から5日間の旅行休暇をとっていた。だけど野口本人はずっと都内にいたんだ。これ本人から聞いたから間違いない」
「やはり」
「それとな、社長は失踪期間の3日は出社せず、会社へは電話でのやりとりだったそうだ」
「そうですか」
「おい、伊武」
「はい」
「お前の見立て通りなのか」
「はい」
「よっしゃ!沖縄県警に連絡してすぐ手配する。これでまたまたワシの出世が・・・」
プチっ。
と、受雷は電話を切った。
「牧田さん、あなたは部下に休暇をとらせ、自らのアリバイをつくった。そして、あなたは沖縄で彼女を・・・」
「すべて憶測だ。馬鹿馬鹿しい」
「では、何故、あなたはここにいるのです」
「?」
「犯人は必ず一度、現場へ戻る。だが、あなたは完全犯罪を成し遂げたつもり・・・だが自ら依頼した探偵がひょっとしたら事件の真相をつきとめるかも・・・」
「黙れっ!憶測推測ばかり」
「牧田さん。でも違うんですよ」
「何がだっ!」
「あなたが呼ばれたんですよ」
「誰にだ」
「もう一度言います。葵さんそれと彼女に」
受雷は静かに言い放った。
受雷は空気を吸い込み、一気に喋りはじめる。
「では、葵さんの思いを伝えましょう。独占欲の強いあなたは突然、彼女が独身最後の旅行に行くと聞いて驚き嫉妬した。強い妄想にかられたあなたは不安にかられ、あらぬ妄想をいだき殺意にかられる・・・そう、またして・・・津堅島が大潮の日にアフ島に渡れるのをネット情報などで知っていたあなたは、偶然を装いこの島で再開する。彼女の男の影におびえるあなたは、それとなく聞いてみるが、彼女は冗談と思い笑ってはぐらかす・・・が、あなたはそれを浮気と断定してで殺意を確かなものにした」
「いい加減な事を!」
「これは2度目の・・・ですね」
「!」
「中島結さん」
「・・・ど、どうしてその名を」
「葵さんのお姉さんですよね。両親が離婚して2人は、母父それぞれの方へ・・・だけど2人は仲のいい姉妹だった。のち姉が突然の失踪・・・彼女は結さんが失踪した事件を、自分で解決しようとして、のち、あなたが姉が付き合っていたことを知った」
「・・・・・・」
「そしてあなたが犯人であることを確信する」
「・・・なんで、分かる」
「そりゃあ、姉の大切な・・・母から貰ったネックレスを自室の机にしまっていたら、それとカマをかけた時のあなたの心の乱れようで確信したそうです」
「・・・うう、何故そんな事まで」
「だけど、葵さんは同時に不覚にもあなたを好きになってしまった。まさに姉妹なのですね」
「・・・・・・」
「彼女は凄まじい葛藤の中で、すべてを不問にし、あなたと共に生きていくことを決めた」
「・・・そんな」
牧田はその場に膝まづいた。
「彼女があなたに殺される瞬間・・・」
そっと受雷は人差し指を牧田に向けた。
「お姉さんを殺したあなたの理由が分かったと・・・独占欲の強いあなたは些細な疑いに、姉妹の愛を信じることが出来なかった」
「・・・・・・」
和子は鋭い眼差しを、牧田へ向ける。
「サイコパス野郎・・・」
武利がそう呟く。
「うわわわわわわわわわわっ!」
牧田はジャケットのポケットから短刀を取り出し、自分の心臓を突き刺そうとする。
受雷は素早く手刀で、彼の持ち手から短刀を叩き落とす。
刹那。
バチーン。
と乾いた音が響き渡った。
真美が強烈な平手打ちを牧田にお見舞いした。
「ちゃんと責任とんなさいよ」
彼は泣き崩れ落ちた。
紬は満天の星空を仰ぎ呟く。
「ここでは、悪さは絶対出来ねえ。いっぱいの人が見てるでな」
やがて夜が明ける。