五、ビーチ・イン・ザ・サン
つかの間の・・・。
受雷は黒の海水パンツに上はかりゆしウェアを羽織り、真美は白のビキニにパレオ、彼とペアルックのかりゆしを着ている。
14時半、約束の時間が近づき、2人は神谷荘の食堂でぼーっと佇んでいた。
水粒の汗をかいたグラスの氷が、コロンと音をたてる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ふう」
「はあ」
旅の疲れと激走サイクリングで眠たさがMAXなのである。
ぼんやりと外を眺め続ける。
そんな受雷が不意に真美を見つめる。
「ど、どうしたの?」
「いや、思いきったなあと」
「へ?やだ」
彼女は自身のやや小さな胸を隠す。
「うん、いいよ」
「馬鹿っ!水着。これくらいしかいいのがなかったじゃない。知ってるくせに」
「そうだったな」
「もうっ」
2人がじゃれ合っていると、食堂の入り口から声がした。
「おまたせ~」
和子たちである。
「行くか」
「うん」
2人は立ち上がった。
トゥマイ浜はマリンアクティビティで人気のビーチだ。
4月もまだ初旬とはいえ、今年の沖縄は平年に比べるとだいぶ熱い。
最も沖縄に住む人は、真夏の海水浴の恐ろしさを知っているので、時期をずらすか、プールを利用する。
夏はそういった事情を知らない観光客がエライ目に会うのだ。
和子たち友人グループは全部で4人。
和子と元クラスメイトの真理その妹の凜、そして自称和子のボーイフレンドの佐為だ。
和子はすらりとしたスレンダーボディ、青いビキニの水着姿が良く似合っている。
真理は整った顔立ちで大きな瞳が特徴的、髪はストレートで肩まであり、健康的な肉付き、赤地に白の水玉がデザインされた、和子とお揃いのビキニを着ている。
凜はまだ幼さの残るあどけない顔をしていて、ピンクのワンピーススタイルの水着姿だ。
佐為は身長180㎝くらいで褐色に焼けた大柄な少年で笑うと白い歯が光る。かりゆしのシャツにビキニパンツの水着で、どう見ても身体に自信があると思える。
その女性陣は木陰で熱心に日焼け止めを塗っている。
「真美さん、まずはしっかり日焼け止め。塗ってね」
和子は何より先にと彼女に伝える。
「わかったわ」
真美は頷き、和子の隣に座り日焼け止めを塗りはじめる。
「ここの紫外線は強いからな」
サングラスをかけた受雷は両手を腰にあてて言った。
「そうさーこの時期の紫外線は強いからさー」
佐為は2人を見ながらサムアップすると、白い歯を光らせた。
その様子を眺め、ニコニコと笑う姉妹。
「ああ、そうだった。お兄ちゃんと真美さんに紹介するね。私の幼馴染で真理、今は広島に住んでいて、春休みにおじいとおばあに会いに帰って来たのよね」
和子が慌てて皆を紹介する。
「うん。海野真理です。こっちが」
真理は2人におじぎをする。
「妹の凜だよ」
凜は元気に手を振った。
「そして、こいつが・・・」
「ワコのボーイフレンド佐為さー」
「違うでしょ!」
「え?」
「ははははははは」
4人は顔を見合わせると笑った。
「仲がいいんだね」
「腐れ縁なのかしら・・・ま、真理は以前、私の事忘れていたけどね」
「・・・あー今言う。ごめんって何度も言っているでしょ」
「冗談よ」
ふくれっ面を見せる真理に、和子はぺろっと舌をだして海へと駆けだした。
「待て~」
追いかける真理に続く、凛と佐為たち。
そんな若者の背中を見つつ、受雷と真美は微笑み合うと手を繋ぎ青い海へと向かう。
春の沖縄の海を満喫する。
小二時間、みんなは目一杯遊んだ。
シュノーケリングで海に潜る真美と凛。
沖まで競争をする受雷と佐為。
サップを楽しむ和子と真理。
みんなは遊びを変わりながら、身体を動かした。
少し日が落ちはじめ、みんなは神谷荘の食堂で休憩をとった。
「俺が奢るよ。マスター注文頼む」
「はいよ」
大人の嗜みとして、受雷は言った。
「やったー」
和子たちが喜ぶ。
皆はめいめい好きなものを頼む。
受雷と真美は生ビールで乾杯する。
「くう~」
「きくう~」
「美味しそう」
思わず凜は言い、いちごかき氷を食べる。
「大人になってね」
真美お姉さんは笑った。
「やっぱオリオンビールは最高さー」
佐為はコーラを一気飲みする。
「なんて」
佐為の聞き捨てならない台詞に、和子はシークワーサージュースのグラスを叩きつけた。
「冗談さー。お酒は20になってからさー」
「よろしい」
真理はトロピカルドリンクを飲んだ。
「ワコ」
受雷はビールを二口飲んで。グラスを置いた。
泡の線が汗をかいたグラスの半分に入っている。
「ん?」
「ヤジリ浜な」
「なんか感じた」
「ああ」
「そう」
「そういや、ヤジリ浜ってたらさー」
佐為はぐっと身を乗り出した。
「そうそう。凜が迷子になったんだよね」
真理が呟いた。
「あーやだ・・・ごめんなさい」
凜は目を伏せた。
「?」
真美は和子たちが急に盛りあがったのをみて驚いた。
「ごめんなさい。お兄ちゃん、真美さん。2年前だったかしら、凜ちゃんアフ岩に渡って迷子になったの」
「アフ岩って、あの海の向こうに見えていた小さな島?」
「そうさー」
「そっか、あの島、渡れるんだったな」
「そう、大潮の時、道が出来るの」
「ワコ」
「次の大潮はいつだ」
「えっと」
「今日の夜さー」
佐為は何気に言った。
「そうか」
受雷は神妙な顔をして呟いた。
バカンス。