四、島内サイクリング
島内サイクリング。
早朝7時、朝メシもそこそこに2人はレンタサイクルで島内を散策にでた。
受雷の自転車カゴには3ℓのさんぴん茶のペットボトルが入っている。
まずは、ちいさな町の集落を巡り、聞き込みを行う。
が、誰に聞いても葵を見たという人はいるが後の事は分からないと言う。
一通り終え、
「だろうな」
「だろうなって・・・」
受雷はペットボトルの蓋を開け、茶をがぶ飲みすると、真美へ手渡した。
彼女もがぶ飲みをして喉を潤す。
「これからどうするの?」
真美は受雷に尋ねる。
「ぐるりと回ろう。狭い島内だ。何か事件の手がかりがあるかもしれない」
受雷は言った。
2人は海沿いのホートゥガーを見て、島の名所ニンジン展望へと登った。
4月初旬の沖縄だが熱い。
2人はじんわり額に汗をかきつつ絶景の眺望を見た。
「わー空の青と海の青が凄い!そして風が気持ちいい」
「ああ、でも、この展望台。あんまり高くないんだよな」
「そうね。島全体は見渡せないのね。あ、でも、トゥマイ浜が見える」
「ああ」
「ん、浜辺に女性の人が見えるよ」
「・・・真美。見えるのか」
「ん?どうして」
「いや、別に」
「あの人が葵さんだったらいいのに」
「・・・そうだな。次の場所へ行こう」
2人はトゥマイ浜にある中の御嶽へと向かった。
御嶽では紬が祈りを捧げていた。
「ばあちゃん」
「受雷、来たか」
「ああ」
「どうだ」
「分からん」
「そうさな。どれ2人も祈っていきなさい。喜舎場子(※島の祖神)さんにお願いしたけんども、まだ教えてくれんとさー」
「そっか」
「そうですか」
「受雷」
「ん?」
「シヌグガマの拝所にワコが祈っとる。行ってみ」
「ありがとう」
「ん、娘さん、見つかるといいな」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
2人は、紬に礼を伝えると、自転車に乗り込み、狭い道を進んだ。
受雷たちがシヌグガマの拝所に訪れると、和子が拝所の前で三線を弾いていた。
彼女は目を閉じ「てぃんさぐぬ花」を弾き歌っている。
2人はそっと和子の後ろへ回って座り、歌に耳を傾ける。
てぃんさぐぬ花や
爪先に染みてぃ
親ぬ寄し事や
肝に染みいり
天ぬ群り星や
読みば読まりしが
親ぬ寄し事や
読みやならぬ
夜走らす船や
子ぬ方星目当てぃ
我ん生ちぇる親や
我んどぅ目当てぃ
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
和子は10番までの歌詞を淀みなく朗々と歌いあげると静かに目を開き、辺りを見た。
そして2人に気づいた。
「・・・・・わっ!お兄ちゃんたち」
「素敵だったよ」
真美は思わずパチパチと手を叩きつつ、リスペクトの眼差しを向ける。
「相変わらず、うまいな」
受雷も唸った。
「やめてよ。恥ずかしい」
和子は顔を赤らめて俯く。
「ここは琉球音楽の祖、赤犬子の生まれた場所と言われている」
「はあ。そうなの」
「そうさー。赤犬子さんに聞いてみようと思って、ちょっとだけ弾こうとしたら、ずっとやっちゃって」
「で、どうだった」
「うん。なんにも。だけど、この島にいるよって聞こえたような気がする」
「そうか、ありがとう」
「さてと、帰ろっかな。ごめんね。お兄ちゃん。力になれなくて」
「いいや、かなり助かっている」
「うん。そうそう。お兄ちゃん、真美さん、今日の約束忘れないでよ」
「分かった」
「勿論」
和子は傍らに置いた麦藁帽をかぶると手を振りその場から離れた。
「次行ってみよう」
「うん」
ふたりは自転車に乗り、ヒガ岬を訪れ眺め、ヤジリ浜へ着いた。
白い砂浜とターコイズブルーの海が広がっている。
「わ、海が綺麗。向うに島がある」
「あれはアフ島だ。干潮時にはあっちに歩いて渡れる」
「うわあ、行ってみたいね」
「・・・・・・」
受雷は黙って先のアフ島を眺め続けている。
「受雷さん?」
「ああ、ちょっと彼女の気配を感じたんで・・・」
「え!だったら。島にいるかも」
「うん。だけど薄い・・・微弱で深い」
「・・・受雷さん」
「・・・ここではないかも」
「そう」
「次行こう」
「はい」
島の西に位置するギガ浜では、生い茂る植物をかき分け浜へ降りる。
「ここはひと気のないところだけど」
真美は周りを一望して呟く。
「いや、ここじゃない」
受雷は首を振った。
島の南まできて、旧・津堅島灯台跡に来た頃には、時間は正午を過ぎていた。
ぎゅるるる。
真美のお腹が鳴り、彼女は赤面する。
「メシにするか」
受雷は笑った。
「うん」
真美は恥ずかしそうに頷いた。
2人は港の近くのカフェで軽食をとる。
ソーキそばと焼きそばがテーブルに運ばれてくる。
「なにか分かった?」
真美はお冷をぐびりと飲んで、ソースの香りいっぱいの焼きそばを頬張った。
「うん、まあ、なんなく」
受雷はフリスクをシャカシャカして手の平にのせると、頬張りバリバリ噛み砕きながらソーキそばをすすった。
「あいかわらず、うへぇだわ」
「・・・・・・」
「なんでもない」
港と海が見える景色を眺め、2人は食事を終えた。
「もう13時か。一旦、神谷荘に戻って休憩して、ワコたちと合流しよう」
「わかった」
2人は島内をぐるりと自転車で巡り神谷荘へと戻った。
失踪事件の糸口は?