三、海へ
トゥマイ浜を歩く。
受雷たちは、島唯一の民宿ホテル上谷荘にチェックインを済ませると近くのトゥマイ浜へと出た。
時刻は15時を回っていた。
真美は部屋で一人正座をして神妙な顔をしている。
「どうした?」
気にかけた受雷が彼女に声をかける。
「受雷さん」
真美はぽつり呟く。
「ん」
「葵さんって・・・もう」
「多分、そうだな」
「でも、生きている可能性もあるよね」
「だといいな」
「・・・・・・」
真美は押し黙ってしまう。
そんな彼女に彼は肩をすくめる。
それから優しくぽんと肩を叩いた。
「ちょっと散歩にでも行こうか」
「うん」
2人は上谷荘をでて、近くのトゥマイ浜の砂浜を歩いた。
マリンアクティビティで人気のビーチである。
海は透き通って青く、陽光でキラキラ輝いていた。
受雷と真美は手を繋ぎ歩いていた。
真美は海を指さす。
「あ、泳いでいる人いるよ」
受雷は答えた。
「沖縄の海開きは早いからな。この時期、泳いでいるヤツがいたっておかしくはない」
「ふーん・・・って、ワコちゃんよ。おーい」
真美は大きく手を振って、和子に知らせる。
気づいた少女は手を振り返し、周りの友人に何事か告げ、2人のもとへやって来た。
「お兄ちゃん、真美さん」
和子は息を切らして喋っている。
「よお」
「こんにちは」
「ばあちゃんには会えた?」
「ああ」
「どうだった?」
「どうだったも、何もあいかわず元気だな」
「じゃなくて・・・」
「ん、まあ、自分で解決しろと」
「そう、まあ、そうだよね。お兄ちゃん、この島の難事件よろしくお願いします」
和子はビシッと敬礼し、頭を下げた。
「あのな」
思わずなやりとりに3人は笑ってしまう。
「ワコちゃん、泳いでいたの?」
真美が話題を変える。
「うん、友だちと一緒に真美さんもどうですか?」
和子の言葉に、戸惑いつつ真美は受雷の顔を見てうかがった。
彼は苦笑いを浮かべ首をすくめる。
「・・・でも、水着持って来てないし」
「上谷荘に売っているんじゃないか」
受雷はさりげなくアシストを言う。
「いいの?じゃあ、明日でも泳ごうかしら」
「いいですね。私たちも一緒に」
海では彼女の友人たちが、手を振って呼んでいる。
「そろそろ、行かなくちゃ。お兄ちゃん、あとでラインするね」
「ああ」
受雷は片手をあげる。
和子はおじぎをして、皆の元へ駆けだして行った。
2人は上谷荘へと戻り、夕食を済ませると、部屋でくつろぐ。
彼はミンティアを飲み込み、ゼロコーラを流し込み思案する。
彼女はペットボトルのさんぴん茶に口をつける。
「どうしたのもか」
受雷は呟く。
「進展ありそう?」
真美は尋ねた。
「んー失踪した彼女がいなくなった。それを誰も見ていない。行方も分からないときている」
「でも、依頼主牧田さんの婚約者葵さんは、受雷さんや紬おばあちゃんワコちゃんは、もう死んでいると思っているのよね」
伊武真美は受雷の妻である。
彼女は単刀直入に言った。
「・・・真美。まあな。だが、生きている可能性もあるかもしれない」
「?・・・でも、それは希望が持てるけど、確かな霊能力者とユタの考えだから可能性は・・・」
「俺だって、紬ばあちゃんだって、ワコだって間違えはある」
「そうね。望みは捨てない方がいいね」
「ああ」
「だったら、彼女はもう津堅島を離れている可能性も」
「それはどうだろう」
「・・・そっか、この島にいる。受雷さんはそう確信してるのね」
「・・・・・・」
2人は無言のまま、ぐびりとドリンクを飲んだ。
喉を鳴らす音がやけに大きい。
キンコン。
沈黙の部屋に受雷のスマホのラインの着信音が響く。
「お、ワコからだ。昼の三時にトゥマイ浜で遊びましょうと」
「いいの?」
「いいのも何も、せっかくの沖縄だ。真美には楽しんでもらいたい」
「そっか、ありがとう」
「だが、明日は約束の時間まで、朝から俺にサイクリングに付き合ってもらう」
「?」
こうして2人の夜は更けていった。
次回はサイクリング。