一、津堅島
津堅島へ。
2人はうるま市にある平敷港からフェリーで30分かけ津堅島へと到着した。
津堅島は面積1.88㎞の小さな島である。島の面積の1/3がニンジン畑であり、別名キャロットアイランドと呼ばれている。
観光やリゾート地としては、穴場として知る人ぞ知る島である。
琉球古典音楽の始祖、赤犬子の生まれた地で、かつて太平洋戦争末期、激戦地でもあった。
四月上旬、春休みともあって、地元の人に混じり観光客など数十名の人が次々と降りていく。
港には白いワンピースを着て麦わら帽子を被っている少女が立っていた。
彼女は受雷の姿を見つけると大きく手を振った。
「にーに」
「ワコ」
「?」
受雷は笑顔を見せ、手を振り返す。
真美は彼の横顔を見、親し気な様子に訝し気な顔をした。
「久しぶりね」
「ああ」
「突然、連絡するんだもん。びっくりしたわ」
「すまない、今回は仕事なんだ」
「ふーん、こちらは真美さん」
「ああ、私の妻だ」
少女は真美の方を向くと、ぺこりとおじぎをした。
「こんにちは、真美さん」
「・・・こんにちは」
「すいません。真美さん、挙式の時は出られなくて、その日は大事な御嶽の儀式があって」
「?あっ」
真美は受雷の親戚の子だと理解した。
「そう、うちのばあちゃんの妹さんの孫、安里和子」
受雷は頷き、彼女に紹介する。
「ワコです」
和子は真美へ、微笑んだ。
「お兄ちゃん」
「ん」
「悪いけど、春休みで友達が帰って来ているの。家まで送ったら、ちょっと遊びに出かけてもいい?」
「勿論、悪いな」
「どういたしまして」
2人はくすりと笑い合った。
だが、受雷はすぐに真顔となる。
「ワコ」
「ん?」
「ここで人がいなくなったのを知っているか」
「うん。警察が来て大変だったよ」
「そうか」
「でも・・・」
和子は目を伏せて呟く。
「そうだな」
「・・・・・・」
2人は険しい顔をして黙り込んだ。
「???」
そんな2人の様子に、思わず首を傾げる真美だった。
島の少女ワコ。