序
一年ぶりの受雷の季節です(笑)。
週一投稿予定です。
窓からは青空とまばらな雲、下を見れば青い海が広がっている。
「ねえねえ、受雷さん。凄い青だよ」
真美は隣の受雷に声をかける。
機内音楽を聴いていた受雷は、イヤホンを外すと、
「どれどれ」
「こらっ」
真美が恥ずかしがるのを無視し、覆い被さるように外の景色を見た。
「もう」
しばらく眺めていた受雷を両手で押しのける彼女。
「ごめんごめん」
受雷は顔をふくらませる真奈に笑顔で謝った。
この時、伊武受雷は30歳、伊武真美は26歳であった。
那覇空港に到着した2人は、空港のレストランで沖縄そばを食べる。
「これが本場の沖縄そばっ!」
真美は目を輝かせる。
「沖縄は、はじめてだっけ」
意外そうな顔をして言う受雷に真奈は、
「うん。来てみたかったんだけど・・・あれ?受雷さんこそ、はじめてじゃないの?」
「ああ、親戚がいるんだ。何度か来たことある」
「ふーん。お互いまだまだ知らない事があるんだね」
真美はそう言うと、麺を啜った。
「そうだな」
受雷はこくりと頷き、丼を両手に持ちスープを飲んだ。
ちらりそんな彼を麵越しに見つめ、彼女は笑う。
「また、来ようね」
「気が早いな。着いたばっかりだよ」
「ふふ、いいじゃん。旅行は楽しいもん」
「だな」
お腹を満たした2人は、空港をでた。
本州とは違って、4月の沖縄はあたたかく、受雷の額にはじんわりと汗をかいた。
ターミナル通路には、ずらりとレンタカー会社のバスが並んでいる。
「あっ、ここだよ」
真美は、スマホと見比べ、利用する会社を見つけた。
それから数名の客とともにハイエースに乗り込むと、少し離れたレンタカー会社へと向かった。
受付で手続きを終え、コンパクトカーに乗り込むと、受雷と真美はサングラスをかけ、おのぼりさんよろしく車を走らせた。
渋滞する那覇を抜けると、途端に快適なドライブとなる。
受雷はふと看板を目にして呟く。
「懐かしいな」
ハンドルを切りハンバーガーショップのJefへ立ち寄った。
「また、食べるの?」
「いや、つい」
「Jef?マックやモスじゃないんだ。知らないバーガー屋さんだね。」
「まあ・・・よくこのお店で食べていた」
「じゃ、行こう、行こう」
受雷は真美に背中を押され、店の中へ入った。
おのおの好きなセットバーガーを注文し、店員がドリンクを尋ねる。
「俺はアイスコーヒー」
「私は、沖縄と言ったら名物ドリンクがあるでしょう?」
「ルートビアですか」
店員が笑顔で答える。
「それそれっ!」
「やめといた方がいいと思うけど」
「どうして?」
「まあ、飲んでみたら分かるか」
「?」
「うーん、このゴーヤバーガー意外といける・・・けど、このジュース何?サロンパスの味がするう」
「言わんこっちゃない」
受雷は呆れ顔だ。
「教えてよ」
真美は受雷のアイスコーヒーを奪い飲んだ。
「・・・・・」
受雷はミンティアを手の平にのせると、彼女のルートビアを普通に飲んだ。
「げっ!流石」
「流石って何だよ」
「べつに~」
「ふん」
受雷はビジネスバックの中から書類を取り出した。
「それ今回の」
「ああ」
軽く一通り目を通し、
「行こうか」
受雷は席を立つ。
「あー待ってよ。まだルートビアが残ってる」
「2/3も飲めば十分だ」
車は青空の下、窓をあけ風を感じる。
受雷は改めてざっくりと真美に、今回依頼の件を話した。
「失踪?」
「ああ」
彼は彼女に窓を閉めるよう促し、エアコンの温度を下げた。
「依頼主はベンチャー企業◯◯IT会社社長の牧田理一郎さん。婚約者である鮫島葵さんから、結婚前に一人旅行にでる連絡があって、それからいなくなったそうだ」
「・・・それって、彼女が彼から逃げたなんてことじゃない?」
「いや。むこうの親御さんからは警察に捜索願いが出ているそうだ」
「行方不明?それこそ警察の仕事じゃない・・・でも、見つかってないってことは・・・受雷さんの力が必要ってこと」
「さあな、だけど依頼主たってのことだ」
「ふーん」
「それで、彼女が最後にラインのメールを送ったのが、沖縄の津堅島だそうだ。」
「津堅島かあ、南国の島ね。不謹慎かもしれないけど、なんかワクワクするなあ」
真美はそう言うと微笑んだ。
「そう」
頷いた受雷の言葉には郷愁を帯びた懐かしさがこめられていた。
津堅島へ。