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嘘の名前  作者: 冬野天
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2

 小学四年生の時に貯めたお小遣いでこっそりワンピースを買って、家に誰もいない時に自分の部屋で着てみた。

 胸元にリボンが付いた花柄の黄色のワンピース。

 親に内緒で買ってしまった罪悪感もあったけれど、手に入った事が嬉しくて最高の気分だ。

 体を動かすたびにフワフワと揺れるワンピース。

 可愛くて可愛くて、ずっと着ていたい。


 だから、夢中になり過ぎていて母親が家に帰ってきた物音に気付かなかった。 

 回される部屋のドアノブの音でやっと気づく。

「部屋にいるのー? 今日の夜ご飯……」

 驚愕の顔をした母親。

 言い訳をしようとしたが思い付かず、何も言えずにいた。

 そしたら、怒りながらワンピースを脱がそうとした為、必死に抵抗してそのまま家を飛び出した。


ひたすらに走って辿り着いたのは小さな公園。

 人もほとんどおらず、砂場で遊ぶ子供が二人と、それを近くのベンチで見守っている高校生ぐらいの男の人が一人いた。

 その人達から離れた場所に別なベンチがあった為、そこに座った。

 先程の母親の言葉が頭に残っている。

 ーー何でそんな服を着ているの!?

   早く脱ぎなさい! 気持ち悪い! ーー

 目から涙が溢れ出てきた。

 こんな所で泣いてはダメだと思っても一度出だした涙は止まらない。

 両手で顔を覆い俯いた。

 指の隙間から落ちた涙がワンピースにシミを作る。


「お姉ちゃん、泣いてるの?」

 声が聞こえた為、顔を上げると自分より幼い男の子がいた。 先程、砂場にいた内の一人だった。

「大丈夫? どこかいたいの?」

 こちらを心配そうに見てきたので慌てて答えた。

「どこも痛くないよ。だから大丈夫」

 そう答えた。

 でも、泣きながら大丈夫と言っても説得力はない。

 男の子がさらに問いかけてきた。

「なにか悲しいことがあったの?」

 さらに涙が溢れ出てきた。

 自分より小さな子供の前で泣いて情けない気持ちもあったが、だいぶ心が弱っていたのだろう。

「……この洋服を着たらね、気持ち悪いって言われちゃったんだ」

 目の前の子に話してしまった。


「えー! 気持ち悪くないよ? お姉ちゃんに似合ってるし、かわいいよ!」

 そう答えてくれたけれど、この子は自分がワンピースを着てるから女の子だと思って言ってくれてるんだろう。

 それでも嬉しくなった。

「本当に? ありがとう」

 お礼を言うとニコニコしていた。


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