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10. 余談


「ああ、キレイだな。眩しいよ、ほんと」

「うふふ。王太后様もお母様もお召しになられた花嫁衣裳ですの。裾丈はお母様の時に延ばしたそうですが……、ギルベルト様」

「ど、どうした。怖い顔して」

「わたくし、人並み程度にはあるつもりでいるのですけれど、お母様に合わせて修繕されたこの衣装の胸周りをかなり詰めましたの。……ギルベルト様は大小どちらがお好きかしら」

「……どちらがって、あのなあ、俺は別に」

「質問を変えます。お母様とわたくし、首から下はどちらがお好き?」

「おまえに決まってるだろ。なんでそんなとこで不安になるんだよ」

「だって。お祖父様が“デカけりゃデカいほどいい。それが男ってもんだ”って」

「あの人のそういう話を鵜呑みにしないでくれ。俺はどっちかっていうと手に余るコンスタンツェよりおまえのほうが…って、何言わせんだよ」

「わたくしのほうがお好き? 本当ね?」

「ツェリのほうが、じゃなくて、俺はツェリがいいの。つーか、おまえも人並み以上に……いや、もう止めよう、この話」

「大事な話ですのに」

「それより俺はおまえの兄ちゃんたち…いや、叔父さんたち? に殺されないか心配なんだが。特に第七王子」

「ヨハンですわね。大丈夫ですわ。あの子やお兄様たちよりギルベルト様のほうが物理的にお強いので返り討ちになさってくださいな。…マクシミリアンお兄様だけはちょっと心配ですけれど」

「第三王子か。確かに唯一動けそうな王子だったな。近衛の騎士団長やってるんだったけ?」

「ええ、そのようにヨハンの手紙に書いてありました」

「そうか。頑張ってんな。…第四王子は結婚したんだって?」

「はい。フォルスト侯爵家のラーラ嬢と。お二人は学生時代からのお付き合いで、ラファエルお兄様とは同い年でらっしゃいますわ」

「侯爵令嬢? ……おまえまた何かしたんじゃ」

「あら。ラーラ嬢の父君に“想い合う二人の邪魔をすると馬に蹴られて死んでしまいますわよ”程度のことは申しましたけれど。たかが十二の小娘の戯言ですわ。まさか武門の方がそれしきのことで折れるなんてことは」

「……そ、そうだな……?」

「イザークお兄様のことはお聞きになりまして?」

「第二王子だな。奴隷の解放運動の陣頭指揮を執るようになったとか。ヴィルが驚いてたよ。あの子にあんな度胸があるとは思わなかったって」

「わたくしもお兄様の計画書を拝見した時は驚きましたわ。十年以上かけて構想を練っておられたのですって。イザークお兄様にあんな熱意があったなんて。わたくし嬉しくて、ついつい“圧砕すべき奴隷商”リストをお渡ししてしまいましたわ」

「……圧砕」

「フィリップお兄様とアルフォンスお兄様も上のお兄様たちを良く助けてらっしゃるそうです。手を引かねば歩けなかった子どもたちが成長したようで、感無量ですわ」

「……そこまで計算尽くなのか」

「――ねえ、ギルベルト様」

「んー?」

「ヨハンに宰相府を再建させて新王の政権を組織的にお支えする仕組みを造りはしましたけれど、双子のどちらにも素質が無ければわたくしが再び王太子位に立つことも考えられますわ。……本当によろしいの? 今ならまだ」

「ツェーリ。俺はもう腹を括ってる。おまえが女王になろうが公爵位を継ごうが、傍にいるさ」

「……っ」

「お。お? ちょ、ツェリ。化粧が、髪が崩れる! 後で! 後でな?!」

「……――邪魔して悪いねお二人さん」

「ヴィル!」

「ええ、お邪魔虫ですわ伯父様」

「そこでエマが号泣して大変なことになってたけど、私も泣いていいかな?」

「ヴぃ、ヴィル。何か用なんじゃ?」

「時間だよ。“家族”だけの簡易的な式とはいえ、遅刻は良くない」

「ウチの義両親、大丈夫そうか?」

「……おそらくまだ事情が呑み込めていない。手早く済ませてお帰りいただいたほうが良いだろうな」

「いやー、申し訳ない」

「帝都のご両親は本当によろしかったの?」

「結婚の報告はしたよ。さすがに相手が王女様だとは言えないけど」

「そう…。レオ様の戴冠式か結婚式の時にでも、ご挨拶に伺いましょう」

「おまえ、レオンハルト殿下の結婚式に出席するつもりなのか?」

「え? ええ。レオ様の親友枠で盛大にお祝いするつもりですけれど?」

「――そんであの婚約破棄は茶番だったってネタばらしして仲良しアピールすんのか。怖いわー」

「ネタばらしではなく和解アピールですわね。少し耳の長い方ならわたくしがレオ様の“恩人”であるという認識をすでにお持ちのはずです。少々の矛盾は問題ありませんわ」

「……ほんと良かったよ。おまえたちが世界征服を企むようなお子様たちじゃなくて」

「ですから、なんですの? それ」

「はいはい、ほら、行くよ。みんな待ってる」

「エマ」

「はい姫様」

「うぉ?! え? 何? 真剣?」

「マクシミリアンお兄様が抜身の剣を持って待ち構えている、に一票」

「は?! いや。いやいや、まさか神殿の中でそんな」

「私は兄王子たちが全員で待ち構えているに一票かな」

「待ち構えてんのは決定なの?!」

「王太子殿下はすでに泣き崩れておいででしたが、第二王子殿下以下、六名の殿下方と護衛の騎士たちが何やら話し合っておられましたので、まあ、それなりの数が待ち構えているかと」

「……なんか俺の知ってる結婚式と違う」

「ふふふ。家族がたくさん増えますわね、ギルベルト様」

「俺今からその家族たちに斬りかかられるっぽいんだけど?」

「まあ。では逃げ出しておしまいに?」

「……――全部蹴散らして掻っ攫うに決まってる」

「ふふ。うふふふ」

「行くぞ、ツェツィーリエ」

「はい、ギルベルト様」

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