四 手のひらドリラーb
意識高い系、それはすなわちよくわからない横文字を多用し、常になんだか前向きなイメージのある人たち。
オタクは、意識高い系の人種が苦手だ。
単純に、自分と住んでいる世界が違うと、話しているだけで解ってしまうからだろう。
少なくとも、前世の私はそうだった。
ロロたちは、その更にすごいバージョンである。
意識が高いだけでなく、そもそも冒険者としての素質も高い。
今は新人なだけの凄腕パーティ。
玄人好みとか言って、割りと適当に生きてる私とは住んでる世界が違うタイプ。
まぁそれもそうだろう。
実は……というわけでもないけど、下水道掃除に監督役の先輩冒険者をつけるのは任意のオプションだ。
付けた場合は当然報酬が減る。
それでも、他のクエストと比べてかなり報酬が高かったりするんだけど。
大抵の場合、つけなかったパーティは何かしらの被害を被る。
なので監督役冒険者を用意するパーティというのは、そういった目先の報酬にとらわれないパーティ。
ミアさんから話が来た時、“進む光”は優秀なパーティだと聞いていたけど、こういうことか!
「……クロナ先輩?」
「――――はっ! ああえっと、そうだね。今回清掃するのは、三番街の下水道なんだけど……」
思わず、意識の高さに壁のようなものを感じてしまっていた。
気を取り直して、話を続ける。
「三番街は宿場町でしたわね、生活排水等で汚れが他の場所より多くなることが想定されますけれど、必要な道具は何がありますの?」
「基本的にはギルドから貸与される清掃用のポーションで大丈夫だよ、それで落とせない汚れを落とすことをギルドは想定していないから」
「でしたら、事前にギルドへ伝えて多めにポーションを手配してきますわ。こちらで済ませてよろしいかしら?」
「あ、うん」
……すごい、一つ話せばトントン拍子に話が進んでいく。
まずいぞ、私が何の用意もなく、プランとかも考えてないことがバレてしまう。
そもそも、そんな気負ってやるようなクエストじゃないんだよ清掃クエストって。
特に今回掃除する場所は、グラールの街でも特に人が多く生活している宿場町のエリア。
だいたいのことはロロにすでに言われてしまったけれど、とにかく汚れが酷い場所だ。
だからギルドも、汚れのすべてを綺麗に洗い流すことは求めていない。
それなりに肩の力を抜いて、ある程度のところで終わらせてしまっても、ギルドはちゃんと達成扱いにしてくれる。
それくらいのクエストなんだけど、これは。
多分、この子たちにとってはこれが普通なんだろう。
ロロが何事か指示を出すと、すぐに後ろの四人の間で役割分担が決まり、イチハとニトの男性陣、ミツキとシノの女性陣がそれぞれ別れて、どこかへ行ってしまった。
「イチハとニトには清掃用ポーションを、ミツキとシノには掃除用具を借りてくるよう指示をだしましたわ」
「ありがとう、他に必要なものはないと思うよ」
「でしたら、アタクシ達はその間に掃除を行うルートを検討いたしましょう」
そう言って、ロロは荷物の中から一枚の地図を取り出した。
え? 三番街下水道の地図とかあるの? 流石に自分たちで事前に探索して用意したものではないと思うから、ギルドにあったのかな。
私、これまで何度か下水道清掃のクエストをやってきたけど、初めて知ったよ?
ロロはそれから、地図を指さしてああだこうだと、清掃ルートの計画を話してくれた。
彼女のプランはほとんど完璧と言ってもいいもので、広い上に汚れの酷い三番街エリアの掃除を、きっちり一日で終わらせられる素晴らしいものだった。
もちろん、それにたいして私が口を挟める部分はなにもない。
「ここまでで、何か補足しておく点はありますの? クロナ先輩」
と、ほとんど聞き役に徹しているだけだった私を気遣ってか、ロロはそう質問してくれた。
これはもう気配りの達人だよ……!
意識低い系自称いぶし銀は何だか情けなくなるのだった。