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三 良さを知ることで、生き方を変えることもあるa

 私の師匠、ドワーフのアスノ師匠は今年で四十歳になるベテラン冒険者だ。

 といっても、ドワーフの中での師匠は若輩者で、そこら辺は種族による意識の違いというモノがある。

 ただ、少なくとも村で守護を担当していた時の師匠の立場は、老練で頼れる冒険者という扱いだった。


 そういう師匠の姿は、私の憧れる「玄人好み」の冒険者そのもので。

 私はそんな師匠の背中を追いかけて、冒険者の道を志したものだ。


 ただ、当時の師匠はCランクの冒険者。

 本人にしてみれば、純粋な憧れで自分を追い抜こうとしてくる私の存在は、結構プレッシャーだったらしい。

 まぁ、私も同じ立場であればそう思うことだろう。


 これは多くの冒険者に言える話なのだけど。

 BランクとCランクの間には大きな壁がある。

 魔力操作という壁だ。

 だから、Cランクの冒険者は一人前と認められこそするものの、一流には届かないそんな中途半端な立ち位置だった。


 しかしこれは個人的な話なのだけど。

 別にCランクでも立派ではないだろうかと私は思う。

 だって、社会人というのは、大抵の場合Cランクで終わることがほとんどだ。

 成功体験という極大のモチベーションでBランクに昇格した私だからこそ解る。

 その壁を超えるには、何かしらの要因は絶対に必要で。

 そしてその要因は、決して人生で必ず見つけなくてはいけないものではない。


 その上で、結果的に今の師匠はBランク冒険者。

 壁を超えた、一流のすごい冒険者である。

 やはり、私の師匠は師匠だったんだ。

 なんてことを思いつつ、かれこれ一年ぶりくらいになる師匠との再会を私は楽しみにしていた。



 **



 前回師匠と出会ったのは、私がグラールの街を離れていた時のこと。

 なので、グラールの街で顔を合わせるのはこれが初めてのことになる。

 ミアさんの情報をもとに、ギルドの酒場で夕食を食べていた師匠を見つけたのは、ミアさんから別れて少ししてからのことだ。


「師匠!」


 思わず嬉しくなって、声をかける。

 びっくりした様子で師匠がこちらを見て、まずいと思ったが後の祭り。

 これは私にも言えることなのだが、基本的にソロで活動していることもあり他人から声をかけられることがなかなかないので、私も師匠も人見知りなところがある。

 悪いことをしてしまったと思うものの、師匠に出会えた興奮は抑えきれない。


「うわぁ! く、クロナくん!? ああ、そういえば君はこの街を拠点にしていたんだったね」

「はい、師匠! お久しぶりです!」


 もう何ていうか、普段の私からは考えられないくらい興奮した様子で、私は師匠の元へと向かう。

 遠くから、ミアさんが信じられないものを見る目でこちらを見ているのが感じられた。

 違うんですよ、これはちょっと舞い上がっているだけで。

 終わったら反省会が始まるムーブなんですよ、解ってください。


 ともかく。

 今日も相変わらず、師匠は小柄で愛くるしい顔で、こちらを見ていた。

 アスノ師匠の顔立ちは、ドワーフとしては童顔気味で、身長相応という印象を受ける。

 ドワーフの平均身長は百十前後、師匠は百二十くらいと結構高身長で、しかしそれでも小柄な印象を拭えない。


 ドワーフと言えば、オタクが思い浮かべるのは豊かなヒゲだろう。

 この世界において、男のドワーフは基本的に皆イメージ通りのヒゲを生やしている事が多い。

 しかし、女性のドワーフがヒゲを生やしているかは、結構その人の趣味によって違う。

 師匠の場合、村にいた頃は子供と思われないためかヒゲを生やしていて、今はそうではない。

 こうなると子供と舐められそうなものだが、当時と違って師匠の装備は結構高価な物が多い。

 そしてそれらの装備に着られている感じがない、見る人が見なくとも、今の師匠が熟練の冒険者であるというのは雰囲気だけで察することができるのだ。


 黒の差し色が強いブロンドの髪。

 軍服を思わせるカチっとした衣服。

 一目見るだけで有能なロリだなと解る、それが今の師匠の出で立ちだった。


「師匠はどうしてグラールの街に?」

「ん、ああ、ここのダンジョンで見つかる素材に、どうしても欲しい物があってね。とりあえず店売りで見つかればそれでいいんだが……」

「見つからなければ、ダンジョンアタックって感じですか」

「そうだね、そこそこ貴重なものだから、ダンジョンに潜ることになるだろうね」


 なんて話をしながら、師匠に断って同じテーブルの席につく。

 そういえば、前に再会した時もこうやってギルドの併設酒場で食事をしている私に、師匠が声をかけてきたんだったなということを思い出した。


「そういうクロナくんは、相変わらず“玄人好み”を目指してるのかな」

「はい。一応これでも、ギルドや一部の冒険者には評価されてると思いますよ」

「Bランク冒険者なんだし、もっと多くの人に評価されてもいいと思うけどなぁ」


 今日はこのまま、酒場で夕食にしよう。

 一年ぶりの再会ということもあって、積もる話はいくらでもある。

 特に師匠はここ最近、あちこちのダンジョンを回って冒険者として勇名を轟かせているそうだ。

 私みたいに、一部の人にだけ評価されればいいという志と違って、師匠は精力的に冒険者として活動している。


 聞ける話は、きっと山程あるはずだった。

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