十八 似た者同士b
でも、なんというか――
「はっ、また早口になってしまいましたわ。ごめんなさいコノハさん」
「う、ううん」
コノハは、首を横に振って否定する。
ロロは、たしかに変わっているけれど、でもそれでもいいとも思う。
だって――
「……わ、私も、気持ち、わ、解るから」
「…………!!」
ロロがそうやって、なにかに夢中になる気持ちが、コノハにも理解できるからだ。
「わ、私も、ね。勇者のこと、とか、本で読むの、好き、だったから」
「まぁ……!」
「そうやって、すごい人を好きになるのって、た、たのしい……ですよね」
「ええ、……ええ!」
ロロがコノハの手を取る。
言ってしまえば、ロロとコノハは似た者同士なのだ。
ロロは言うまでもなく。
コノハも内向的で、勇者の物語に憧れもした。
そう、それはつまり。
オタク気質という一点において、二人の気質は似通うものがあった。
確かにロロとコノハの人間性は正反対だ。
クロナが危惧した通り、常に同じパーティに参加するとなれば、コノハの意識とロロの意識の違いは問題になるだろう。
だが、こうして私的な関係であれば、むしろ二人の相性はかなり良い。
どちらも善性に満ちた純朴な少女であり、ロロはコノハの話に根気強く向き合うし、コノハはロロのオタトークについていける。
お互いにとって、お互いが相性のいい相手なのだ。
同時に、それぞれがそれぞれに対して、好感を持てる相手だというのもある。
「コノハさんとこうやって話をしていると、パーティの皆さんとはまた違った刺激がありますわね」
「わ、私はそ、そもそも、こうやって、私と、お話ししてくれる、立場の近い、冒険者って、いなかった、ので」
もっと言えばコノハの場合、そもそも同年代でまともに話をしてくれる相手がいなかった。
クロナは例外として、これまでの人生でコノハが最も言葉を交わした相手は、冒険者になったコノハを親身にサポートしてくれたミアというギルドの受付嬢さんだ。
……多分、両親ではないと思う。
聞けばクロナと懇意にしているらしく、なんとなくそれが納得できる人だった。
「ですからコノハさん、これからもこうやって、偶に二人でお話ししたりしましょうね?」
「は、はい。ぜ、是非……!」
ロロがそうやって笑みを浮かべると、コノハもなんとなく顔がほころぶ。
可能なら、パーティの皆にも紹介したいと、ロロは思った。
きっと、皆もコノハの事を受け入れてくれるだろう。
だが、問題はコノハの方が遠慮してしまうという点で、それは直ぐに解決できる問題ではない。
でも、何れは少しずつ慣れていけばいい。
多分、固定でパーティを組むことはできないけれど、何かあったときの臨時の助っ人としては申し分ない相手だ。
コノハが攻撃魔術に優れるというのもいい。
“進む光”はその方面に特化したパーティメンバーがいないという話は、前にクロナとしたけれど。
コノハはそれを埋めてくれる逸材だ。
――ロロは、クロナがコノハが“進む光”に入れないかと考えていることを知らない。
そもそも、相談するタイミングがなかったのだから当然だが。
だからこれはロロが個人的に判断したことだ。
もしもクロナがこの事をしれば、“その手があったか”と思うだろう。
固定パーティに加わるのではなく、必要なときに力を貸す助っ人という立場なら、コノハも“進む光”の意識の高さに気圧されなくて済む。
おそらく、コノハにとって最もベストな選択だった。
結果として、それはクロナの与り知らぬところで方向性が固まることとなるのだが。
だから、クロナはこのことに“その手があったか”と思うと同時に、私が指導する意味って――? となることになる。
が、それはまた別のお話。
「ああ、それにしても――」
「そ、それにしても?」
そもそもの話。
ロロとコノハの気が合う点として、もう一つ大事なことがあった。
むしろ、“それ”があるからこそ二人は気が合ったのだといえるくらい、大事なことだ。
それは何か?
言うまでもない――
「お姉様、凛々しいですわ……」
「す、素敵ですよね……」
二人の“最推し”がクロナであるという点だ。
善良な二人は、互いに同担拒否のような地雷もない。
故に、同じ推しを推せることは幸福である。
もちろん、アスノも尊敬すべき相手だ。
クロナいいよね……いい……。
二人の師弟関係って素敵だよね……素敵ですわ……。
そんな事を話しながら、戦況の変化を見守っていると――気がつけば、クロナとアスノは、ランペイジボアの討伐を終えているのだった。




