十六 またこの猪か!c
「……ぜんっぜん見つからないですよ師匠!」
「もう三時間も歩きまわってるんだけどな……?」
――そして、まったく見つかりませんでしたとさ。
いやおかしいよ、なんで?
次の日、街の外の森へやってきた私達は、何一つの収穫も得られないまま森をさまよっていた。
「あ、あの、思ったんですけど、クロナ先輩」
「なにかな? コノハ」
「わ、私達が森で、つ、使える魔術の確認をした時も、痕はなかった、です、よね?」
「あ、ああー……そういえばそうだ」
思い返してみれば、コノハと魔術の確認をしたのは数日前。
師匠が持ってきたクエストが張り出されたのは、それよりも前のはずだ。
せっかく宣伝目的で張り出したのに、すぐ外されたんじゃ意味がないからね。
師匠も、そこは考えて選んでるはず。
ううむ、これは事前に予測しておくべきだったのか?
いや逆だな、あの時森に異変がなかったことからも、今の状況がおかしいことを証明できる。
今は当時のことよりも、現在がおかしなことになっていることを気にした方がいい。
「どうみる? クロナくん」
「ええと、考えられる可能性は幾つかありますが……正直、ランペイジボアを見たのが依頼主の気の所為だったという可能性以外は、どれもろくな可能性じゃないですね」
「もしも気の所為だったら、ギルドがクエストを受理していないだろう。複数人の目撃情報があったことは間違いない」
とすると、面倒なことになりそうだな。
いや、別に最悪の場合でもちょっと倒すのが面倒なだけで、私と師匠がいれば問題になることはないんだけど。
コノハやロロがいても構わない、守り切って完勝するだけの実力は私達にもある。
ただ……
「どちらにせよ、これでは二人の研修にはならないだろうな」
「ですよね……」
とりあえず、当初の目的だったコノハとロロをいい感じのクエストに連れて行くという目的は達成できそうになかった。
少なくとも戦闘に二人を巻き込むことは不可能だろう。
「それに、捜索も三時間成果なしだ、二人には悪いことをしたな」
「今のところ、何の当てもないですしねぇ、ごめんねふたりとも――」
と、私と師匠が申し訳無さそうに視線をコノハとロロへ向けると――
「あ、クロナ先輩、あ、アスノさん。えっと」
「お姉様、アスノ様、今コノハさんと二人で話し合っていたのですけれど」
うん?
コノハとロロは、二人で一枚の地図を片手ずつ持ちながら、何かを話し合っているようだった。
まず、その地図はなんの地図だろう?
「あ、これはアタクシの私物の、グラール周辺地図ですわ。冒険者ショップで購入しましたの」
「あのショップ、そんなものも売ってるの……?」
「地図もまた、冒険者の必需品! 誰かがこの地図で、大きな冒険を成し遂げていると思えば買わない手はありませんわ! ショップにあるものは何でも手を出してしまいたくなりますの!」
「落ち着いて」