十四 クラスで三番目くらいの美少女d
「それにしても、おしゃれねぇ……ごめん、正直に言うと私もよくわからないんだ」
「ですよね……師匠のその服、前に見たときと同じやつみたいですし」
「バカにするな! 同じやつを複数着もっているんだ。そもそもそれ言ったら、君だって似たようなものだろう!」
「結構違いますよ! ほら、ここの柄とか!」
「裏地じゃないか!!」
それから私達は商店の衣料品コーナーに移動して、他の客の迷惑にならない声量でやり取りをしている。
まぁ、相変わらずお客さんは私達しかいないけど。
「うーん、たとえばこういう服とか、私に似合うのか?」
「師匠はちっちゃいですから、師匠が着れる服ならだいたい何でも可愛いとおもいますけど」
いいながら、師匠が手に取ったのはピンクの花がらのワンピースだった。
小さい女の子が着る服だから、当然のように可愛らしい。
金髪の師匠に似合うかは不明だが、まぁ着ればだいたいなんとかなるだろう。
師匠の顔の良さでゴリ押しできる。
「各地を旅してると、冒険譚を聞かせてほしいと偉い人に頼まれることがあるんだ。そういう時は、結構高価なドレスを着せてもらう時があるよ」
「ほうほう、どんな感じですか?」
「確か……これかな」
いいながら、師匠は懐から一枚のガラス板を取り出した。
そこに魔力を通すと、ちょっと映像は鮮明ではないけれど、一つの写真が浮かび上がってくる。
いわゆるデジカメの機能を持っているマジックアイテムだ。
確か「クリスタルキャプチャー」とかいう名前の、結構高価なアイテムだったはずだ。
師匠が旅をする理由の一つに、各地の絶景とかを見て回るというのもあったと思うけど、それを記録するために入手したんだろうな。
で、見せてくれたのは黒いドレスに身を包んだ、化粧ばっちりの師匠の姿だった。
「この背丈で、人ってここまでセクシーになれるんですね」
「どういう感想だい、それは!」
手元の黒いローブと、ところどころが透けていてタイツになっていて、その上にレースが散りばめられている衣装。
首元のネックレスと耳元のイヤリング。
目立たないけれど、唇の厚みをもたせるリップ。
どれ一つとっても、美しい大人の女性という感じだ。
ドワーフというのは全員背が低いものだけど。
師匠はその中では結構背が高い。
人族基準で言えば、かなりの高身長で体型も豊満な大人の女性という感じだ。
それがこの写真の雰囲気にも如実に出ている。
ううん、私みたいな地味系美少女に、こんなセクシーさは無理だ。
大人の色気ぇ……
「敗北感に打ちひしがれそうです」
「君は、君に合ったおしゃれがあるだろう。君だって、結構フォーマルな場に出たりすることはあるんじゃないか?」
「ギルドの会合とかには顔を出したりはしますね……」
「君、冒険者としては本当に特殊な立ち位置だね?」
しょうがないじゃないですか。
ギルドの重要な会議に、私は結構呼ばれることがある。
まぁ、そういう時には今みたいな地味系冒険者スタイルではなく、それなりにちゃんとした装備で臨むけど。
「アレは……でもミアさんに仕立てて貰ったものだしな……」
「それ言ったら、さっきの私のドレスも私はきせかえ人形にされただけだよ」
「…………」
そういわれて、私はのんびりと店番をしている店主さんの方を見る。
……アリなんじゃないか? きせかえ人形。
「――よせ、やめるんだ」
「師匠?」
「君が今何を考えているのかは解る。たしかにそれは楽な道に見えるかもしれない」
「……師匠?」
「だが、絶対にやめるんだ、それだけは……それだけは……! うう、私はお姫様じゃない……!」
「師匠ーーーー!」
やっぱりきせかえ人形はなしだ、師匠のトラウマを刺激してしまった。
なんとなく何が起きたのか想像できてしまったしね。
ううむ、何にせよ手詰まりだ。
私も師匠も、ただおしゃれが出来ず、美容もろくに気にかけていない事がバレてしまっただけだった……
そんな時だった。
からんからん、と扉が開いて。
新たに、私の知り合いがやってきた。
「あ、クロナ先輩、こんにちは」
――白ローブに豊満ボディ、黒髪少女のコノハがそこにいた。
……………………
…………
……うん。
なんとなく、彼女と出会った時点でオチはよめたけど。
一応聞いてみることにした。
「び、美容……ですか? すいません、わ、私そういうのあんまりわからなくて。あ、でも、最近すっごく使いやすいアイテムを見つけたんですよ」
それって?
濁った瞳で私は、コノハの言葉の続きを待った。
「――美肌ポーションっていうんですけど」
今日はそれを買いに来たんですよ、とコノハ。
そんなコノハに、美肌ポーションの在庫がないことを告げると――
地面に崩れ落ちる顔はいいのにおしゃれのできない底辺女子力が、三人になった。
人、これを天丼という……




