一 ギルドからの覚えをよくしようb
冒険者“クロナ”。
冒険者の街、“グラール”には数多の冒険者がいるが、彼女はその中でも特殊な知名度を誇る冒険者だ。
別名、“何でも屋”クロナ。
それは彼女が、たとえどれだけ不人気なクエストだろうとほぼ二つ返事で受注することからついたあだ名だ。
口さがないものは“ギルドにいい顔をしようとしている”だとか、“ギルドから贔屓されている”などというものもいないことはない。
ただ、そもそも彼女はソロの冒険者で、友人はいないわけではないが少なめで、“グラール”で有名になるような華々しい冒険者ではなかった。
だから、彼女に対して陰口を叩く冒険者はそもそもほとんどいないというのが現状。
ただ、それでもそんな有名冒険者に負けないくらい、クロナはすごいのだと彼女と最も親しい受付嬢のミアは考えている。
ミアとクロナはお互いが受付嬢と冒険者になった頃からの付き合いだ。
当時、ミアは十五歳、クロナは十三歳と若かった。
それから三年、クロナは十六歳と、冒険者としては若いながらもそれなりに大人と見られる年になった。
見た目は少し癖のあるブラウンの髪を肩の辺りまで伸ばし、一房を特徴の薄い紐で結んだ髪型。
平均より少し小柄、百五十あるかどうかという背丈に、胸やお尻は少し大きめで羨ましい。
衣服は茶色の革の胸当てに、白の服と日によって柄の変わるスカート、その下にズボン、首元にスカーフを身に着けている一般的な冒険者ルック。
全体的な印象は、地味。
だが、決して容姿が整っていないわけではなく、むしろかなりの美貌を有しているとミアは思っていた。
決して人目を引くタイプではないが、クロナのことを認識している冒険者の多くは、彼女の容姿を可愛いと思っていることだろう。
そんなクロナは、とにかくギルドへの貢献を第一に考えてくれるとても貴重な冒険者だ。
冒険者には、ダンジョンを探索しお宝を持ち帰るという側面と、人々の問題を解決し秩序を守るという二つの側面がある。
しかし後者は、そもそもの場合その仕事は冒険者だけではなく、国の兵士等も従事する仕事で、冒険者の貢献はあまり見向きされない。
ダンジョン都市“グラール”に至っては、そもそも率先して請け負おうと考える冒険者が稀である。
中には、善意でそういったクエストも請け負ってくれる冒険者はいるが、クロナのようにほぼ専属でそれをこなしてくれる冒険者はいない。
だから、時折ミアは申し訳なくなってしまうのだ。
クロナは優秀な冒険者で、弱冠十六歳にしてソロでBランク冒険者になった天才だ。
そんな冒険者の未来をギルドは閉ざしてしまっているのではないか。
そう思ってしまう時がある。
それでも、クロナ以外に今回のような依頼を受けてくれる冒険者はほとんどいないし、何よりクロナが、
「私は別に、万人の評価が欲しくて冒険者をしてるわけじゃないよ」
と言っていたことに甘えて、今日もギルドはクロナへ依頼を出してしまうのだけど。
だから、ギルドはこう考えていた。
いつかクロナにも、その実力にふさわしい名誉が与えられてほしい――と。
ギルドの評価は、クロナの求める「自分だけが良さを知っている」系冒険者という評価からは逸脱していない。
概ね、クロナの狙い通りにギルドはクロナを評価していた。
ただ一つだけ。
クロナはギルドの自分への評価の高さを自覚していない。
つまりこういうことだ。
クロナはクロナの想定以上にギルドから評価されすぎた。
決して、両者の思惑が真っ向からアンジャッシュしてしまう、典型的な勘違いモノというほどではないが。
それでもクロナは、クロナの思う以上に、ギルドだけが良さを知っている冒険者になりすぎていたのだ――