九 土属性は(冒険者にとっては)不人気c
なにはともあれ。
土属性はこのイメージという点に置いて他の属性よりも不利である。
地味という共通認識。
他と違って、土という物理的な存在を介して攻撃を行うものだから、どうしても使用者が硬いものには効果が薄いというイメージを持ってしまう事が多い。
なのでこの世界の土属性魔術のイメージは、地形などに干渉することで牽制には有利だが、火力に乏しいというものになってしまう。
じゃあ、その地形に干渉するイメージを利用してサポートとして習得すればいいではないかと思うのだが、そこで最大のライバルが立ちはだかる。
<回復!>
別の場所では、水属性の魔術師が別の魔術師を治療していた。
切り傷を負っているところから見るに、シュワスプリンガー討伐中に別の魔物と戦闘してしまったのだろう。
水属性魔術は攻撃性が乏しい。
だが、そのかわりにある特殊なイメージを持っている。
それは“治療”だ。
水属性といえば回復魔術というイメージがこの世界には存在する。
魔術を使えば欠損すら回復できるこの世界において、水属性の回復魔術は貴重だ。
結果、いくら汎用性が高いからと言って土属性を覚えるよりも、水属性を覚えたほうが冒険者としては使う機会が多くなる。
何より、なんだかんだ他にも飲水を用意できたりと汎用性では土属性と水属性は回復魔術を抜きにしてもケースバイケースなところがある。
水さえあればいいから、土属性や風属性ほどではないけど水属性魔術も媒体は用意しやすいからね。
結果、土属性は利便性、攻撃力、媒体の用意しやすさ。
すべての点に置いて、最下位でもなければトップでもないという位置にある。
いやでも、本当に便利なんだよ?
シュワスプリンガーの粘液を安全に掃除するのは、土属性でなければできないし。
想像力を最大まで働かせれば、数百の魔物を一気に制圧することだってできる。
……それができるのは“無手”クラスの魔力操作ができる人間だけだって?
まぁ、はい。
とにかく、この世界の魔術の習得は「風と水」か「火と水」、もしくは「風」オンリーか「水」オンリーが多い。
前者は魔術師としての役割を専門にした冒険者。
後者は、魔術も使える前衛後衛を両方担う想定をした冒険者。
土属性の魔術を使うのは、それこそ師匠のように、種族単位で“土属性を使う”というイメージが種族の中でも浸透しているドワーフくらいなものだ。
不人気、圧倒的不人気……!
私はダンジョンのあちこちを回って、色々な冒険者が様々な魔術を使うのを眺めつつ。
時たま見かける土属性魔術の使い手を、後方から腕組みをしてうなずきながら眺めた。
後方腕組土属性魔術師面……
ある意味私にとって、こういう掃討クエストは、数少ない土属性魔術師を見つけて気持ち悪い笑みを浮かべるイベントだった――
**
ところで、魔術の属性には他にも二つの種類が存在する。
“光”と“闇”。
如何にもラノベっぽい、中二なその二つの属性。
この二つは、存在することには存在するのだが、ある理由から使用者はほとんどいない。
理由は適性だ。
魔術を習得するにも、適性というものがある。
この適性は本人の人間性、嗜好、魔術を取得して目指したい方向性によって変わる。
たとえば医者を夢見る人間は水属性の魔術の適性が高く。
鍛冶師を目指す人間は土属性の適性が高いことが多い。
冒険者の場合は、火属性と風属性が多い。
そして、光属性と闇属性は、ほとんどの人間に適性がない。
もちろん私だってない。
若干闇属性に、ほんのり気持ちだけ適性があるかな? というくらい。
多分名前が“クロ”ナだからだろうな……
ガハハ。
何てことを思っていたら――
<光弾!>
突如として放たれた魔術によって炸裂したシュワスプリンガーの粘液が、たまたま近くにいた私に直撃した。
「って、あああああ! ごごごご、ごめんなさいいいいいいい!」
原因は、察知できなかったから。
魔力の流れにはパターンがあって、魔術は発動する際に予兆がある。
四大属性の予兆を私は学習しているから、たいていは発動することを読み取れるのだけど。
今回は、できなかった。
というか明らかに、光属性だった。
光の玉が飛んできて、シュワスプリンガーをふっとばしたのだ。
粘液まみれの私に、一人の少女が駆け寄ってきて盛大に平謝りをしている。
なんというか、アレだ。
事件が始まる。
そんな予感がした――




