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一 ギルドからの覚えをよくしようa


 冒険者ギルドは、今日も人でごった返していた。

 それぞれ、うまいクエストがないか、今日はダンジョンのどこを探索しようか、そんな話をしている。


 ダンジョン都市として知られるこの“グラール”では、この光景はごくごく当たり前のものだ。

 世界一の冒険者の街、冒険者を志すものならば一度はここを訪れ、可能ならば拠点としたいと考える場所。

 そういう場所で、私は冒険者をしていた。


 そして、ギルドに来たということは私もクエストを受けて仕事をしようという立場の冒険者である。

 中には併設された酒場でくだを巻くためにギルドへ来ている不届き者もいるが、私は至って真面目で品行方正な冒険者である。

 今日は。


 と、含みのある言い方をしたものの、まぁサボることは私にだってありますよという話で。

 むしろ、志をかなり低めに設定している私は、サボっていることの方が多いんじゃないだろうか。

 まぁ今日はそうでない以上、今の私に後ろめたいことはなにもないのだが。


 そんなことを考えつつ、クエストが張り出されたクエストボードのところへ向かおうとする。

 この世界のクエストはこのクエストボードに張り出され、冒険者は自由にその中から自分が受けたいものを受けることになる。

 今の時間、大抵の冒険者はすでに自分の受けるクエストを決定していて、クエストボード前の人はまばらだ。

 残っているクエストも、不人気なクエストばかり。

 だが、問題ない。

 私の目的は、そういった不人気なクエストなのだから。


 玄人好みのいぶし銀。

 もしくは、「自分だけが良さを知ってる系冒険者」。

 その第一歩が、こういった不人気のクエストを受注すること。

 なにせ、クエストはどんなクエストでも、クエストである。

 つまり、需要があって誰かに達成してほしいからクエストになっているのだ。

 しかしその中にも報酬が不味かったり、達成が面倒だったりするクエストが多々存在するために、人気不人気が発生してしまう。


 といっても、すべてのクエストを受けていては時間があまりにも足りない。

 そもそも私は、不人気クエストを請け負うオタスケマンになりたいわけではないのだ。

 むしろ、可能な限り最低限の労力で、自分が欲する評価を欲する不真面目な人間である。

 だから、当然不人気クエストの中でも請け負うべきクエストと、そうでないクエストが存在する。


 不人気クエストには三つの種類が存在する。

 一つは、「街の清掃」だとか、「素材の採取」だとか。

 そういう、誰にでも達成できるくせに、達成自体が面倒なクエストだ。

 もう一つは、「達成しても赤字になってしまいかねない」クエスト。

 倒してほしいと指定されたモンスターの出現率が極端に低かったり、倒すのが困難で準備等にコストがかかりすぎてしまうクエスト。

 そして最後に――



「――クロナさん」



 ふと、声をかけられた。

 クロナ、というのは私の名前。

 ちなみに、名前の割に私の髪は黒よりもブラウンに近い。


「おや、ミアさん、こんにちは」


 話しかけてきたのは、黒髪ロングの受付嬢さん。

 名前をミアさん、私とはそこそこ長い付き合いになる受付嬢さんだ。


「今日もお疲れ様です、クロナさん。クエストをお探しですか?」

「ああ、うん。もしかして何かいいクエストがある感じ?」

「はい、クロナさん好みのモノが、ちょうど」


 そう言って、ミアさんは手に持っていた一枚のクエスト依頼書を見せてくれた。

 どうやら、これから張り出すところだったらしい。

 どれどれ、と私は内容を見る。


「……街道に出た、ランペイジボアの討伐?」


 ――不人気クエスト最後の一つ。

 ダンジョン外の討伐クエストだ。

 なぜそれが不人気なのかといえば、先に触れたけど、「この街は世界一のダンジョン都市である」ということが理由である。

 誰だって、ダンジョンに潜りたくってこの街にきているのに、ダンジョンの外で発生したクエストに興味を持ったりはしない。

 加えて、ダンジョンは探索で宝箱等の副次的な報酬を得ることができる。

 単純に考えて、効率も最悪で不人気もやむなしというクエストだった。


 だが、だからこそちょうどいい。


「解りました、受けます。どのあたりで出たんですか?」

「シオラキの森にある街道ですね、ちょうどグラールとハンスリルの真ん中くらいだとか」

「ランペイジボアってことは、大雑把な場所さえわかっていれば痕跡で後が追えそうですね、ありがとうございます」


 ミアさんに軽く情報を聞いて、私はこれからの予定を考える。

 今から急げば、うまく行けば日が落ちる前にギルドへ戻ってくることができるだろう。

 多少遅れても、夕食をギルドの酒場で取れば問題ない。


「じゃあ、行ってきます」

「お気をつけて、クロナさん」


 そこらへんを考えて、私は早速街の外へ向かうことにした。

 あんまりうだうだしていてもしょうがないからね。


 ――不人気クエストの中で、受けるべきクエストはこういうクエストだ。

 もちろん、時には2つ目の達成が困難なクエストを受けることもある。

 今では殆どないが、1つ目の雑用系クエストだって受けるときは受ける。


 私の受けるクエストの基準は至って明快だ。

 「ギルドへの貢献度が高いクエスト」、これだけである。

 それを聞くとなんだか社畜みたいで、遠巻きに俯瞰してるヤレヤレ系っぽくないな、と思うかもしれない。

 だが、それはあくまで現代での考え方だ。


 この世界では、特に冒険者の間では個人主義が基本である。

 パーティ単位での繋がりはあるけれど、冒険者の大本である組織を考えて行動する人間は少ない。

 だったら逆にそういう組織のために行動する冒険者になれば、それは「いぶし銀」になるわけで。


 それだったら、1つ目の雑用系クエストもギルドのためのクエストではないか? と思うかもしれない。

 だが、それらは基本的に新人が受けることを想定したクエストだ。

 私はすでに冒険者としては一流とされる“Bランク”の冒険者。

 新人の仕事を奪ってはいけない。

 まぁ、昔はそういう雑用系も積極的に請け負ってたけどね?


 ギルドの覚えをよくすることには他にも利点がある。

 今回のように、ギルドの方から請け負って欲しいクエストを持ってきてくれるのだ。

 人気クエストは軒並み持って行かれたとしても、クエストの数はまだまだ多い。

 1から目を通してたら、今日のような依頼は一日で終わらせられない。


 結論としては、冒険者という存在を客観的に見ている人たちの評価を良くすること。

 それは決して、ギルドの職員たちだけとは限らない。

 今のところ、私はこういう方針で、冒険者として活動していた。


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