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八 ぬちょぬちょでべとべとなa

 いきなりのお姉様宣言。

 びっくりしてしまったものの、考えてみればこれは私の狙い通りじゃないだろうか。

 “進む光”の――少なくとも、ロロの好感を得ることが出来たということは、私の当初の目的は達成されたと言える。

 なら、お姉様という呼び方も謹んで受け入れるべきだと私は思う。


 お姉様……お姉様かぁ……

 ふへ。


 ふへ、ふへへへへへ。


 ――――こほん!

 今回の本題に入ろう。


 私は今、ダンジョンに来ている。

 ダンジョン、そう、あのダンジョンだ。

 異世界モノにおいてダンジョンの設定というのは様々だと思うけど、この世界の場合は「神の試練と恩寵の場」と思われているそうだ。

 世界各地に存在し、中には魔物だけでなく宝箱が魔物と同じように“出現”する。

 それだけでなく、ダンジョンは一度訪れた階層の出入り口へ自由に転移が可能。

 さらには使用することでいつでもダンジョンを脱出できるアイテムが存在する等など。


 この世界のダンジョンは、あまりにも都合が良すぎるのだ。

 結果、神が作り人類へ与えた場所という信仰が生まれるのも自然な成り行きだろう。


 今、私はそんなダンジョンの上層におとずれていた。

 ダンジョンは下層の方が難易度は高いのだが、お宝の実入りもいい。

 ただし、今回私は宝箱を目当てにしたわけではない。

 ギルドの三大不人気クエストの一つを受けてここまで来たのだ。


 最後の一つは「達成しても赤字になってしまうかもしれない」クエスト。

 だが、今回はどちらかというと「達成することは容易だが、実入りも少ない」クエストである。

 討伐対象は「シュワスプリンガー」。

 見た目は一言でいうと、風船だ。

 空中をふよふよと浮かんでいて、こちらに気がつくと、口と思われる部分から謎の粘液を飛ばしてくる。

 この粘液、別に何かを溶かしたりしないし、当たっても痛くない。

 ただベトベトするだけで、果たして飛ばす意味があるのかすら怪しい変な粘液だ。


 では、なぜこれを討伐するクエストが不人気なのかといえば――


「ていっ」


 私は、目の前のシュワスプリンガーにショートソードを叩きつける。

 弾むような感触とともに、シュワスプリンガーは勢いよく吹っ飛んでいった。


 シュワスプリンガーに、傷を負った様子はない。

 一応、私は魔力で身体強化をしている、それなのにダメージがないのだ。


 簡単に言うと、物理攻撃への耐性が非常に高い。

 魔術で攻撃しないと倒せないのだ。

 魔力を纏わせた物理攻撃では、見ての通り攻撃は通らない。

 そして、上層の冒険者に“魔術師”は少ない。

 なぜなら、魔術とは魔力操作の一種だからだ。


 それって、Bランク冒険者じゃないと魔術は使えないってこと?

 その通りである。

 そりゃあ魔力操作の派生が魔術なんだから魔力操作ができないと魔術は使えないよね。


 とはいえそれは、何の補助具もなく魔術を行使する場合の話。

 一般的に、魔術は補助具である“杖”を使って行使するのが普通だ。

 ちなみに、この補助具無しでの魔術行使を“無手(ノーハンド)”、魔術行使の補助具である杖を“魔杖(ワンハンド)”と呼ぶ。


 魔杖には、魔力の操作を行う機能と使用者の魔術のイメージを補助する機能がある。

 なんて便利なんだと思うが、魔杖はダンジョンの宝箱から出てくるもので、人類はその複製に成功していない。

 まぁ、結構な数でてくるので安物なら昼食一食分程度で買えるけれど。


 それでも、魔術の行使には習熟が必要で、最初から魔術を習っている新人冒険者ならともかく、上層で燻っている冒険者に魔術は使えない。

 だから、「シュワスプリンガー」は上層で最も嫌われているモンスターだ。

 ただ、倒す手段がないと言っても見ての通りシュワスプリンガーは全く持って大した脅威ではない。

 ので、魔術を使えないパーティはシュワスプリンガーを無視して放置するのだ。

 放置しかできない、というのが正しいけれど。


 結果、ダンジョンには放置されたシュワスプリンガーが残る。

 この世界の魔物はゲームみたいに、出現して一定時間が経ったら消失するということは一部の例外を除きないため、放置されたシュワスプリンガーはダンジョン上層に残り続ける。

 それを掃除するクエストが、今私の受けているクエストだ。

 ほとんど新人向けクエストのようなものだが、新人にこれを受けれる冒険者は少ないため、定期的に私が請け負っているわけ。


<射出!>


 私は、ショートソードを叩きつけてふっとばしたシュワスプリンガーが遠くまで行ったのを確認すると、小石を射出してシュワスプリンガーにぶつけた。

 狙いはそれること無く、ふわふわ浮かぶシュワスプリンガーに直撃し――



 シュワスプリンガーが破裂、中の粘液がすごい勢いで飛び散った。



「うひー」


 いいながら、飛んでくる粘液を避ける。

 かなりの距離をふっとばしたはずなのに、私のいるところまで飛んでくる粘液。

 地面は白濁としたそれに、覆い尽くされてしまった。


 これである。

 シュワスプリンガーが嫌われるもう一つの理由。

 やつはこちらへ向かって粘液を吐き出してくるわけだが、あの風船の中身はすべて粘液。

 当然、炸裂すると粘液がばらまかれるわけで。

 当たったところでどうということはないが、ベタベタするし何か変な匂いもする。

 これアレじゃン? 誰がどう見ても、アレじゃン?

 エロ同人でよく見るやつじゃん?


 というわけで、この世の女性はこいつをこう呼んでいる。

 『変態風船クソ親父』。

 何かダブルスタンダード決めてきそうな呼び名だが、まぁ実際変態風船クソ親父って感じだからしょうがない。

 どうでもいいけど、シュワスプリンガーはダンジョンの中にしか“出現”しない。

 おかげで、一説にはこのシュワスプリンガーは神様がエッチな女の子を見たいがために作り出した魔物だとか言われている。


 なんてこった、これはマジでクソみたいなモンスター、生まれてきたことを後悔させてやるしかない。

 安心しなさる、私はドジっ子ではないし、ましてや美少女ヒロインでもない。

 粘液まみれになんてなるはずがないのであった――(フラグ)

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