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六 Bランク冒険者の本気ってやつを見せてあげるc

 ――軽く打ち合わせをして、準備をする。

 小窓から覗けばスリムスカーマウスは今も私が用意した隔壁に向かって突撃を繰り返している。

 こんな雑魚魔物に突破されるほどやわな隔壁ではないので、無視して意識を集中させる。


 私の本気、言うまでもなくそれは魔術を全力で行使することだ。

 さっきの隔壁のように、大勢を相手にするときは私個人の身体能力を強化するよりも、魔術で一網打尽にした方が早い。


 魔術っていうのは、基本的に魔力を言葉にまとわせそれを現実に作用させることで超常的な現象を引き起こす。

 だから周りに属性に沿った媒体となるものがないと行けない。

 その点、土属性は地面さえあれば魔術を使えるので、媒体の用意は簡単だ。

 ただ今回は周囲がレンガ造りのきちっとした壁と地面だから、あまり触媒に使って壊したくないんだよね。

 そういう時に、媒体用の石を常備しておくと、こうやって魔術の媒体にできる。

 質量保存の法則を無視して巨大化までできるあたり、便利だよね魔術って。


 ただまぁ、百体近い魔物を一網打尽にするとなると、下水道の壁や地面がどうのこうのとは言っていられない。

 むしろ、使えるものをすべて使って魔物を撃退するべきだ。


「それじゃあ改めて、準備はいい?」

「は、はい!」


 “進む光”のメンバーに声をかけると、彼女たちは緊張した面持ちでうなずいてくれた。


「今回の作戦には、君たちの助力が必要不可欠だ。とても大事な役目だから、緊張するのもわかる。でも、私は何も心配してないよ」

「……」

「だって君たちは、私が知る限り世界で一番、将来有望な新人冒険者パーティなんだから!」


 嘘のない、彼女たちに対する正直な評価を口にして、意識を集中させる。


 身体強化も、魔術も、言ってしまえば意識して魔力を操作することによって起きる“作用”だ。

 その作用は、時に失われた人の腕を“再生”させるくらい荒唐無稽なもので。

 根底にあるのは想像力。

 意識の中にある魔力といううねりを感じ取り、それが現実にどのような作用をもたらすかを組み立てて、形にする。


 今、私の思考の中には、一つのヴィジョンが生まれていた。

 そのヴィジョンは、魔術が現実に効果を発揮する図面のようなもの。


 地面に手を当て、地面を構成するレンガ一つ一つを意識する。

 その上を、無数のネズミが跳ね回っていた。

 私は、大量に存在するレンガの中から、魔物が踏みしめているレンガだけを“知覚”した。


 そして、


<粉砕>


 一言だけ零すと。



 魔物たちが足場にしていたレンガ“だけ”が粉砕され、消え去る。



 すると、どうなるか。

 当然、スリムスカーマウスたちは体勢を崩し、地面に転がる。

 一斉に足を止めるのだ。


 だが、これだけでは足りない!

 私は即座に今度は私が展開した隔壁に手を当てると、


<分解!>


 今度は隔壁がバラバラに分解され、宙に浮かびあがる。

 最後だ。

 私は、宙に浮かんだ石片の軌道を思い描く。

 大事なのは、そのすべての動きを想像するのではなく、起点と終点。

 私が狙いたいと思う場所を明確にすること――!


<射出!>


 私が狙うのは――目だ。

 魔物とて生物、“目”の感覚器官をもつ魔物は多い。

 そういう魔物に、こうして石片を飛ばして目つぶしを行うのは効果の高い足止め方法だ。

 そして、魔術のすごいところは、頭の中でくみ上げたイメージが正確であれば正確であるほど、魔術を使う人間の思い通りに弾丸は弾道を描くということ。

 頭の中に弾丸が着弾するヴィジョンさえあれば、たとえ目をつむってあらぬ方向へ銃口を向けても、弾丸は命中するのが魔術なのだ。


 ゆえに、



 私の放った石片は、そのすべてが寸分たがわず、その場にいる魔物の目に直撃した。



「今だ!」


 言いながら、残しておいた石片を一つつかみ、腰から抜き去ったショートソードに重ねつつ、<土塊>を使用して剣をコーティングする。

 そして、手近な目つぶしによって動けなくなったスリムスカーマウスの急所を突きさした。


 魔術で行ったのは、あくまで目つぶし。

 とどめを刺すには、武器で一体一体丁寧にやっていかなければならない。

 とてもではないけど、一人では無理だ。


「行きますわよ、皆さん!」


 ゆえに、ロロの号令で“進む光”は掃討を行う。

 ここからは時間との勝負、目つぶしをされた魔物たちが立ち直る前に、魔物を全滅させないといけないのだ。


 なんとなく、呆気に取られている様子だった進む光のメンバーが、気を取り直してネズミへ向かっていく。

 ふふふ、呆気に取られているようだね。

 そりゃあそうだろう、私はBランク冒険者の本気を見せるといった。

 はっきり言って、やっていることはかなりすごいことだ。

 魔力操作において、魔術の行使はさらに難易度が高い分野であり、それをこれほど高い精度で行うことは難しい。

 でも、地味だ。

 やっていることの精度と比較して、私の魔術はその絵面があまりにも地味なのである。


 これが火属性魔術や、水属性魔術だったらもっとすごいぞ。

 下手すると、下水道の地形を変えてしまうかもしれない。


 だからこそ、これでいいのだ。

 私が目指すのは、そういう地味で玄人好みな冒険者なのだから――!



 **



 なお、これは余談だが、確かに比較すればほかの属性魔術の大技と比べれば、土属性魔術の大技は地味な部類に入る。

 ただ、言うまでもないが“進む光”にとって、そんな大技を見る機会はこれが初めてである。

 何より、地味とはいうがあくまでそれは大技内での比較であって、今クロナがやったことも、かなり絵面的に派手だ。

 これは、クロナがBランク冒険者のなかで知名度が低いという自覚があるために、冒険者全体の中では上澄みであるという認識に齟齬があるのと同じこと。


 何より、“進む光”は優秀な新人冒険者パーティである。

 確かに一般的な、魔術のことをよく知らない新人冒険者なら、今の光景を地味だと思うかもしれない。

 しかし進む光は優秀であるがために、今の行動があまりにも規格外な行動であると、理解できてしまった。


 クロナは決して、根本から周囲との認識に勘違いがあるわけではない。

 それでも、こういうところはやはり、自己認識との食い違いは大きい。

 それは、クロナが感じている“あること”が、そもそもの原因にあった――

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