五 この子たちええ子やな――――c
いや、本当に。
この子たちは話せば話すほど善良で、まっすぐな子たちであるとわかる。
ただまっすぐなだけではなく、自分たちがまっすぐに行動するためにどうすればいいかを理解しているのだ。
光……そう、あまりにも光。
“進む光”の名前は伊達ではなかったのだ。
私は、こんなにも善良なパーティを、意識が高いとか言って、勝手に苦手意識を抱いていたのか?
意識が高いのと、意識高い系をごっちゃにして。
わかってるよ? この二つは別物で、ロロたちは前者だって。
偏見を持っているのはどっちだよ、と言いたい。
手のひらを返すべきは私じゃないか。
けど結果的には、私の行動は間違っていなかったはずだ。
先達として、この子達に尊敬される冒険者でありたい。
この子達に、私の良さを知っていると思ってもらいたいという考えは、間違いじゃない。
そうやって断言できるから、私は――
「じゃあ、ロロ。私からも一つ、話をさせてもらっても――」
そう、口にしたその時だった。
「魔物が出現したぞ!!」
進む光のメンバーの少年が、大声を張り上げて、それを教えてくれたのは。
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メンバーの怪我で、どうしてもお金が必要になったロロ達“進む光”の前に現れたのは、どこか地味な印象のBランク冒険者、クロナだった。
どこかぼんやりとした雰囲気で、見た感じは如何にも“普通の冒険者”である。
しかし、年の頃は自分たちとほとんど変わらない、それでいてBランクということは魔力操作ができる。
不思議なことがあるとすれば一般的に、この年頃でBランク冒険者というのは間違いなくすごいことなのだが、“進む光”はその名前を聞いたことがなかったのである。
それに、彼女は下水道掃除のクエストに精通している。
どこかマイペースなところがあって、自分の興味がある分野以外にはあまり興味を示さないタイプのようだけど、下水道掃除に興味があるというのは普通に考えれば変な話だ。
そもそも、Bランク冒険者になる過程で、どこにそんな時間があるのだろう。
聞けば、才覚者だというから、ロロたちは納得するしかなかった。
才覚者は、ある意味でこの世界に生まれた突然変異、バグのようなものであるとも言われている。
生まれながらにして魔力操作を行える天才にして、異物。
その思考は常人とは異なることがほとんどで、中には会話しているはずなのに意思疎通ができない類の怪物もいるという。
つまり、クロナは一見平凡な少女だが、常人とはかけ離れたこだわりがあるのだろう。
ロロという人間にしてみれば、自分とは正反対の世界を生きる存在だ。
そんなロロは、たしかに剣士としての才能があったが、あくまでそれは秀才レベルだった。
本物の天才とは、それこそ才覚者のような規格外だ。
ロロは未だ自分の中の壁を突破できず、魔力操作ができないでいる。
そんなロロにとって、最も憧れる存在は努力し才能を開花させた人間。
冒険者として三十年近い年月が経ってから、魔力操作を習得した晩成の冒険者アスノのような。
もっと言えば、ロロが強く惹かれるのは若くして努力によって規格外の才能を開花させたような人間だ。
なにせ自分はそうはなれなかったから。
多くの人間はそうはなれないから。
ロロは、他人よりも優秀な人間だ。
まわりからはそう評価されているし、自分もそうありたいと願っている。
それは彼女が常に努力を重ねているということであり、だからこそ解るのだ。
努力とはとてもつらいものであるということが。
これだけ努力しても、壁を超えられないのだから多くの人々が途中で努力を諦めてしまうことも、努力することができない人のことも痛いほど理解できてしまう。
だからこそ、そんな普通な人々が、何かしらのきっかけで才能を開花させることにロロは憧れがあるのだ。
天才でなくとも、才能は花開く。
そう、ロロが信じているために。
しかし、ロロは未だそんな人に出会ったことがない。
これからも、出会えるとは思えない。
世の中に、たった一つの成功体験から、努力によって冒険者になる以前に魔力操作を会得するなんていう努力の天才がいるとか。
――そういう普通はありえないような存在と出会わない限り、ロロはただ、そういう存在に憧れるだけの普通の人間としてこれからも生きていくのだろう。
少なくとも、今のロロはそう考えていた。