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五 この子たちええ子やな――――b

 とにかく、パーティメンバーへの連絡を済ませると、私達は綺麗になった下水道を眺めながら話し始める。

 座り込むにはきれいになったと言っても抵抗があるし、かといって下水道を出るのは安全上まずい。

 というわけで休憩といいつつ、普通に立って話をしてるんだよね、私達。


「あの……一つお聞きしたいのですけどクロナ先輩って、“才覚者(ハイランカー)”ですのよね?」

「ん? ああうん、そうなるね」


 才覚者(ハイランカー)、ようするに冒険者になる前から魔力操作を会得している規格外の天才を指す言葉。

 ただ、私としてはあまりそのことがピンと来ない。

 一般的に、そういう才覚者って生まれた時から感覚的に魔力操作ができる本物の天才だから。

 私みたいに、色々な要因が重なって魔力操作ができるようになった人間をそれと一緒にするのは、何か違う気がする。


「でも、才覚者じゃなくても魔力操作を身につけることはできるよ。ロロならすぐに魔力操作を習得して、Bランク冒険者に成れると思うけど」

「アタクシは……才覚者になれませんでしたのよ」


 ……なれなかった、って。


「それって、冒険者になる前から魔力操作の練習をしてたけど間に合わなかった、ってこと?」

「よくおわかりですわね、誰もが無理だと普通は思いますから、言っても信じてくれませんのよ」


 つまり、ロロは優秀だから冒険者になる前から冒険者としての修行をしていたんだろう。

 もしくは、実家が魔力操作を習得できる環境だったか。

 どっちもかな?

 でも、それがうまく行かなかった。


 確かに、その方法で冒険者になる前に魔力操作ができるようになっても、それはそれで才覚者だ。

 だって私がそうだから。

 ロロの言葉から意味を察せられるのも当然だ。


「魔力操作を身につけるには、“きっかけ”が足りませんでしたの」

「……きっかけ」

「クロナ先輩は、Bランク冒険者の“アスノ”という方をご存知?」

「知ってる」


 即答だった。

 超知ってる。

 多分、師匠のご家族を除けば、師匠のことを一番知っているのは私だという自信がある!

 それくらい知ってる。


 ……まずい、抑えろ私、そこで語りだしたら悪いオタクになってしまう。

 早口オタクは一般人から引かれるんだよ!


「ええっと……でしたら、アスノ様がBランクに昇格したのは、冒険者になって三十年ちかく経ってから……というのも当然ご存知ですわよね」

「ああ……なるほど」


 なんとなくロロの話の意図が読めてきた。

 師匠は、Bランク冒険者の中では結構有名な方だ。

 まずなんといっても、Bランク冒険者になったのがとても遅い。

 ドワーフは長命だから、本人的には遅いという感覚もあまりないようだけど、彼女の話を聞いた人間の感じ方は違う。

 遅咲きで冒険者としての一つの高みへ到達するというのは、それができない冒険者にとっては憧れの的だ。

 まさしく、私の憧れる「玄人好みのいぶし銀」そのもの。

 こうして、将来有望なロロにも知られていると思うと、なんだか私も鼻が高いよ……

 いや、私が後方理解者面してどうするんだよ。


「アスノ様はこうおっしゃいました、自分が魔力操作を会得することができたのは、出会いという“きっかけ”があったからだ、と」

「つまり、ロロはそういうきっかけを掴む経験を積めなかったんだね」


 まぁでも、この世界って案外そういうものである。

 きっかけ、経験、それらの外的要因によって、壁となっていた問題がすんなりと解決することはよくある。

 私の体感では、前世よりもこの世界はそういう傾向があった。


 そういう壁の突破は、一般的に“覚醒”と呼ばれるものだ。

 漫画やアニメなんかでは、問題を乗り越え一気に主人公が覚醒することがある。

 私がそうであったように。

 なんというか、物語の世界に入り込んだような気分になるよね。

 まぁ、転生自体が物語の中の概念だろ、とかそういう話はさておいて。


 ――何にせよ、ここはチャンスだ。

 ロロに私の評価をわからせると決めたはいいものの、今まで大した行動は起こせなかった。

 掃除にしても、手際の良さを見せようとしたら普通にロロは追いついてくるし。


 ここで彼女が覚醒するキッカケになるようなことを言えれば、ロロからの評価はうなぎのぼりに違いない!

 というわけで、早速私はいい感じのことを話そうと話題を探して――


「……ロロたちは、どうして下水道掃除のクエストを受けたの?」

「……? えっと」


 ――――特に思いつかなかった。

 普通に、なんとなく気になってたことを聞いてしまったよ!

 違うそうじゃない、もっと聞くべきことがあるだろ!

 いや、まだ諦めるところじゃない。

 ここからいい感じに軌道を修正していくんだ! 頑張れ私!


「えっとその、君たちの様子を見ていると、“進む光”はすごく有望に見えたんだ。だから、こういうお金を必要とするパーティが受けるクエストをやるのが、意外だなと思って」

「有望だって思えていただけますのね、光栄ですわ」

「あ、うん」


 じゃなくて。

 下水道掃除のクエストは、他のクエスト……特にダンジョン内での討伐クエストと比べて報酬がいい。

 というか、新人向けクエストやダンジョンの外での討伐クエストってダンジョン内でのクエストより報酬の相場が高いんだよね。

 ダンジョン内でのクエストは、発見した宝箱などの副次的な報酬を加味されるからなんだけど。

 その中でも、下水道クエストは新人が受けれるクエストの中では破格の報酬だ。

 だから、借金とかの理由で新人が下水道掃除を請け負うことはよくある話。


「そうですわね、アタクシたちがこのクエストを受ける理由は二つあります。一つは報酬ですわ。実は、メンバーの一人がダンジョン探索中に腕を欠損してしまって」

「ああそれは……お大事に。運が悪かったね」


 欠損。

 いやなんというか、私としては結構物騒に聞こえるけど、この世界ではよくあることだ。

 よくあることというか、それを容易に魔術で治療できるというか。

 魔力を使うと新しく腕を生やせるんだよね、この世界の人間。

 魔力ってすごい。

 ただ、その魔術は使える人間が限られるからとてもお金がかかる。

 新人が借金をする理由としてはよくある理由だ。


「いえ、大丈夫ですわ、アタクシたちはこの事故を運が悪いとは思っていませんもの」

「どうして?」

「壊滅しかけていた別の新人パーティを庇ったからですわ。ですので、アタクシたちはこれを勲章と思うことにしています」


 ……それは。

 なんというか、あまりにも。


「……すごいね」

「恐縮ですわ」


 立派な、理由だ。


「もう一つの理由は、これも経験だからですわ。冒険者パーティとして上を目指すなら、どんなクエストにも躊躇うことなく挑戦しなくてはなりませんもの」


 この子達は……

 “進む光”は、



「この子たちええ子やな――――」



「えっ?」


 思わずこぼしてしまった。

 そして、変な目でこっちを見ている(気がする)ロロへ、なんでもないと誤魔化すのだった。

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