始 知る人ぞ知ればいい
これは持論だが、オタクがなりたいのは誰からも尊敬を集めるスーパースターではない。
「自分だけが良さを知っている」と周囲の人々から後方理解者面で思われる、玄人好みのいぶし銀だ。
というのも、いわゆる転生モノの主人公はそのチート能力を使ってハーレムを築いたり、世界を救ったりす
るものだ。
しかし、それを読んでいてこうは思わないだろうか。
「こんな大きな責任背負いたくない」
――と。
ご尤もである。
実際、そういうオタクが多いから物事を遠くから俯瞰してみるヤレヤレ系の主人公は流行ったわけで。
でも、敢えて言いたい。
彼らはそういう立場でありながら、その初志を貫徹できていない。
どこかしらで舞台の中心に躍り出て、高らかに主人公の立場を全うし始める。
それじゃあ、ヤレヤレ系である意味がないじゃないか。
だから、こうしようじゃないか。
私は本気で「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になる。
転生する際にTSし、女性になってしまったことは誤算だったが、同時にこれは好都合でもある。
なにせただのおっさんがこう宣言すると、格好がつかない。
というわけで、今日も私はたいして高くもない志と、固い決意でもって異世界で冒険者をしていた――