商品と共に売り買いするもの
「しかし、お嬢様が紡績業にもお詳しいとは…確かに素材の変化はあっても、中々新しい生地と言うのは生まれておりませんからね……」
マローヴァの呟きに、マリアローゼはふむ、と考え込んだ。
神聖国が転生者を囲い込んでいる事と、進化が停滞している現状はやはり関係あるのだろう。
転生者の知識をどの程度、彼らは利用、蓄積しているのだろうか?
それとも危険視して封じているだけなのだろうか?
中には危険な技術もあるので、概ね彼らのしている事は正しい。
例えば火薬や銃といった技術は危険だ。
魔法を使えない者達が使いだす事によって、戦争や革命も起こり易くなるだろう。
圧倒的な武力、火力で敵を殲滅していく力。
でもその力を逆に使われてしまった場合、どう防ぐのだろう?
記憶の中で読んでいた物語は、主人公側の強い、ばかりが強調されているので反撃された時どうするのか、いつも疑問に思っていたのだ。
「1つお願いがございますの」
マリアローゼの静かな言葉に、マローヴァが静かに答えた。
「何なりと」
それは一つの懸念事項だ。
最近、ずっと料理を作る事に夢中になっていて、考えを後回しにしていた事。
「ブルーローズ商会とフィロソフィ公爵領で作り出された料理は、ある人物の手柄という事にして頂きたいの」
「と言う事は、マリアローゼお嬢様でない人物が良いと言う事ですか?」
「ええ」
単に面倒くさいという理由で、転生前の料理名なども作ったので、それを逆に利用する事にしたのだ。
もし異世界転生したのなら、懐かしい食事というものに抗えないだろう。
そして、自分と同種の人間がいるかもしれない、という希望を抱いたとしたら?
距離を置く人間もいるだろうが、大抵は調べる。
調べてから、近づくか距離を置くか検討するだろう。
だとすれば、逆にそれを確保すればいいのだ。
料理と料理人を餌に、転生者捕獲大作戦、である。
この場で大っぴらには説明出来ないので、マリアローゼは手紙で渡す事に決めた。
「その件は後でお手紙を届けさせますわ。それと、今流通している商品の他に売買して欲しいものがありますの」
「ふむ、一体何を?」
「情報、ですわ」
「……参りましたな。それは、商会としてと言う事でしょうか?」
口に手を当てて、マローヴァは愉しそうに眼を細めている。
マリアローゼはこくん、と頷いた。
「ええ。専門の部署、専門の職員も雇用なさって。情報を管理統制するだけでしたら、冒険が出来なくなった冒険者の方達でも、老齢の方でもお願い出来ますわ」
「確かに。若い働き手を割く必要もございませんが、冒険者ギルドとの連携はどうなさいますか?」
「連携までは必要ありません。あくまで情報の売買という事で良いでしょう。ただし、雇用の面では優遇してさしあげてくださる?」
「仰せの通りに致しましょう。……ああ、それと、私の方からもお願い事がございまして、伺った次第です」
そういえば、これだけの菓子を土産に持ってきたのだ。
今後の菓子作りの参考を兼ねてだとしても、ご機嫌伺いの意味もあるだろう。
マリアローゼは、続きを促すように頷いた。




