卑劣な事は許せないので!
ボロボロになり、隙間が空いている部分に、扇を捻じ入れてテコの原理で押すようにすると、
少しずつ剥がれて行き、とうとう勢いでボロボロの板もどきは海水ごと流されて行った。
海水は下に流されて行くが、入ってくる量が多くて段々部屋の中に満ちていく。
マリアローゼが潜り抜けられる位の水が満ちる頃には、水圧で外から扉も開けられなくなるだろう。
水の流れが緩やかになったのを見計らって、ロサとマリアローゼは刳り貫いた穴から海の中へと滑り出た。
「ロサ、この指輪を部屋の中に置いて頂戴」
嵌めていた指輪を外すと、ロサがそれを火を点けた壁の方へと投げ込んだ。
そして、悠々と海面を目指し、海面から顔を出すと、見知った人々の姿が海岸線に並んでいた。
皆の前に堂々と上がっていくのも恥ずかしくて、人が途切れた背後から海に上がる。
「皆様お揃いですのね」
「ローゼ!!!」
一番最初に駆け寄って抱きしめたのは、騎士鎧に身を包んだジェレイドだった。
「大丈夫だと、確信していても心配はするんだよ、ローゼ」
強く抱きしめたまま言われて、流石にマリアローゼも心が痛んだ。
自分が置いていかれる立場だったら、やはり心配するだろう。
「ごめんなさい、レイ様。でもとても頭にきてしまったの」
その場にいた何時もの人々や騎士達、冒険者達は、珍しいマリアローゼの言葉に首を傾げた。
その背後で、ドンンッという爆音と、小さなドンッという2つ目の爆音が響き、皆が唖然としている間に船が傾き始めた。
「まさか、ローゼ、頭にきたから船を沈めたのかい?」
「ええ」
こくん、と頷いた幼女を見て、ヴァロが大声で笑い出した。
一緒に笑っているのはシルヴァインくらいで、他の人々は愕然とした顔をしている。
ユリアは何時もどおり、にっこにこでマリアローゼを見詰めていた。
「だって、町の子供を人質にするなんて、卑劣ですもの。これでも足りないくらいですわ!」
ふんす、と主張する姿に、ヴィオレッタが進み出て会釈した。
「ギルドに駆け込んできたミオは、そのままギルドで保護しております。この事態が落ち着きましたら、家に送り届けます」
「まあ、ヴィオ、ありがとう存じます」
突然愛称を呼ばれて、鉄の女と揶揄されるヴィオレッタが頬を染めるのを、冒険者達は更に驚愕の目で見詰めるのだった。
「さて、では、避難してきた連中をどうしようか?」
ジェレイドの意地悪な微笑みに、マリアローゼはにっこりと笑顔で返した。
「我が城にご招待下さいませ。特に第15皇子のルドルフ殿下は丁重にお願い致します。ですが、ロードス卿には色々とお話を伺って戴きとう存じます」
「よし、分かった。グランス、マリアローゼを今度こそきちんと、守って城に連れ帰るように」
「は」
短く返事をしたグランスを見て、マリアローゼは心が痛んだ。
「レイ様、嫌味は仰らないで。わたくしが命じたのです」
「嫌味くらい許してくれ、僕の大切な姪よ。君が命じたから彼の事は責めなかったんだ」
俄かには信じられず、マリアローゼはグランスに視線を向けると、グランスはこくりと頷いた。
マリアローゼは、スカートを広げてお辞儀をする。
「レイ様、皆様、ご心配をおかけ致しました。わたくしは城に戻り、お帰りをお待ち申し上げます」
そっとジェレイドがマリアローゼの髪にキスを落とすと、大騒ぎしている船のほうへと騎士達を連れて歩いて行く。
その後ろをヴァロ率いる冒険者達も付いて行った。
「お嬢様、参りましょう」
ルーナの声を聞いて、マリアローゼはその身体に抱きついた。
思い返してみれば、こんなに長くルーナと離れていたのは何時ぶりだろうか。
「ルーナの声を聞いたら、安心してしまったみたい……」
「お嬢様……」
思わず涙腺が緩みそうになるのを、ルーナはぐっと堪えた。
そして、そっとマリアローゼの身体を抱きしめる。
「お城に帰りましたら、お風呂に入られませ。それから、何時もの紅茶をお淹れ致しましょう」
「ええ、そうね、ルーナ」
暫く二人を見守って、シルヴァインがマリアローゼを抱き上げた。
小さな軽い身体を抱きしめて、改めてシルヴァインは深呼吸をする。
「疲れただろう。眠ってもいいからね」
優しく言うと、マリアローゼはシルヴァインに身体を預けたまま僅かに頷いた。
新年明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願い致します。
皆様にとってよい一年でありますように。
読みに来てくださって、ありがとうございます。
お雑煮!美味しい!!




