スライムとお嬢様の大冒険
マリアローゼはロサに頬ずりしてから、語りかけた。
「いい?ロサ、今日は大冒険ですわよ!」
うきうきとした声に合わせる様に、ロサも楽しそうに伸び縮みをしている。
「まずは、そうですわね、ロサに学んでほしいの」
もこもことしたドロワーズの下につけていたベルトから、マリアローゼは薬品を取り出す。
工房で貰った面白そうな薬剤だ。
「これは酸なんですって。端っこに少し垂らすわね?」
船倉の隅の床に垂らすと、じゅっと音がして、木を溶かしていく。
ロサは、ほんの少し身体を伸ばしてその液体に触れると、今度はその煙が出て解けている板材の横に、ピュッと何かを吹きかけた。
そこでもじゅっと音がして、煙が上がる。
「さすがですわロサ。これで大幅に短縮できそうですわね。ロサは天井をお願いね。わたくしはちょっと他の事をしてきますから」
海に面している壁の端から端までを指差すと、ロサはぴょん!と天井の端に飛びついた。
ロサの雄姿にマリアローゼはこくん、と頷くと、ベッドからシーツを外して、入口の扉の隙間を埋めるように敷き詰める。
次に部屋の隅に置いてある鏡台の中を探って、香水を二瓶と口紅を取り出した。
一つ目の香水は扉の下に敷いたシーツに沁みこませる。
(これで少しは匂いを誤魔化せるかしら・・・)
それが終わると、枕を持って隣の部屋近くの壁に枕を置いて、木の壁に何度も香水を吹きかける。
匂いが落ち着いた後で、レノから貰った指輪で枕の下の方に火を付けた。
壁が燃え始めるまで時間がかかるだろう。
マリアローゼは壁から離れると、見つけ出した口紅で、ロサの作業している壁床近くに四角を書いた。
「これ位あれば通り抜けられそうですわね。ロサ、天井が終ったらこちらもお願いね」
声をかけると、ロサはぷるぷると震える。
火を点けた反対側の壁の床付近に多めに酸を垂らす。
これで、隣の部屋と床下に、海水は流れていくだろう。
そして、ロサの作業している後ろから、床に酸を垂らしていく作業を始めた。
最初に酸を振りかけた部分はもう大分溶けており、海水が少しずつ入り込んでいる。
マリアローゼとロサは急いで作業を進めていった。
少し焦げ臭さを感じて壁を見ると、やっと壁に火が点いたようだが、枕はもう濡れ始めていた。
だが、香水の沁み込んだ壁はかなり良く燃えている。
(燃えすぎですわね!?)
これでは流石に気付かれてしまう、とマリアローゼは布団を被せて鎮火した。
焦げた板はいい具合に脆くなっている。
うんうん、と頷いて、マリアローゼは洋服ダンスの引き出しから扇子を取り出した。
握りやすいし、力も籠めやすいのを確認して、脆くなった場所を音が出ないように布団の上から叩く。
板が剥がれて向こう側を覗いてみるが、暗い。
暗いけど木箱が積まれていて、壁の穴はうまい事木箱で隠れている状況のようだ。
マリアローゼは壁の穴から手を差し入れて、木箱に香水を振り掛ける。
(よくよく考えたら、これってテロリストみたいですわね?)
よく考えなくてもそうなのだが、マリアローゼは意に介さず、ドレスを穴から木箱の方へ投げ出した。
新しい香水瓶も服の上に転がして、更にベルトに差し込んである黒色の瓶の粉を振り掛ける。
火薬である。
別のドレスを取り出して、香水を振り掛けてから、穴から向こう側に垂らす。
椅子を2つ運んで、ドレスの裾に別のドレスを結び、三枚分の長さにしてから椅子の上に置いて火を点ける。
(最近、そういえば放火魔扱いされていた気がしますけれど、これでは否定できませんわね……!)
自分の行いに愕然としつつも、段々勢いを増してきている水に濡れないように、
マリアローゼは扉の下のシーツを指輪で凍らせる。
既に床に降りているロサの近くに戻って、水が噴出し始めている壁の前に立った。
「さあ、ロサお願いね」
マリアローゼが言うと、ロサは大きく伸び縮みした後で、マリアローゼを空気ごとふわりと閉じ込める。
四角く描いた口紅は木材ごと溶けて滴っており、若干気味の悪い様相を呈していた。
(地獄の扉かしら?)
今年は無事、こちらの作品も書籍化されて記念になりました!
来年ものんびり更新したいと思います。一緒にマリアローゼの成長を見守って頂けると嬉しいです。
皆様、良いお年を~!